1月、日米中央銀行(日本は日本銀行で米国はFRB.)による政策決定会合が開催され、日本銀行は現状の緩和政策の維持を決め、FRB.は前回のFOMC.よりも突っ込んだ、よりタカ派的(金融引き締めに積極的)な政策に転換して3月からの複数回の利上げ(パウエル議長は毎回のFOMC.での利上げを否定しなかった。)とバランス・シートの縮小(QT.=量的金融引き締め)を行うことを明らかにした。
先週オーストラリア中銀のRBA.が市場の予想通り量的緩和の終了を決定し、バランス・シート縮小については5月会合で議論を行うとした。
利上げの時期については明確な時期は示さなかったが不確実性を確認する為に辛抱強く待つ準備があるとした。
そして注目のECB.は理事会で全ての委員がインフレデータを懸念しており、インフレ見通しのリスクは上方向に傾いているとし、今まで“年内利上げの公算は極めて小さい。”と言い続けていたラガルド総裁がついに矛を収めて“インフレ判断に3・6月がとりわけ重要である。”と理事会後の記者会見で述べて市場はECB.による引き締めペースが速まると判断した。
英国の中央銀行であるイングランド銀行は政策決定会合で政策金利を0.25%引き上げることを決定した。
政策委員9人のうち5人の賛成多数で0.25%の引き上げが決定されたが残りの4人の委員は0.5%の利上げを主張しており、量的引き締めの可能性も指摘されている。
要するに米国、オーストラリア、欧州そして英国の先週主要国でハト派的政策からの脱却が進む中、我が国は頑なに緩和政策の維持を進めるどころか、日銀の若田部副総裁は“景気の下振れリスクが強まれば利下げも有り得る。”と緩和姿勢強化の可能性を示して彼我(他の主要国と我が国)の金融スタンスの違いが鮮明となった。
これらの各中央銀行の行動を見て為替市場では素直に豪ドル、ユーロ、ポンド高が進んだが、中でもラガルド総裁の豹変ぶりに驚いた市場参加者はユーロ買いに走ってユーロ・ドルは週の始値の1.1140から高値1.1483へと3%以上、ユーロ・円は128.46から132.08へと2.8%以上も急騰した。
豪ドル・円も80.55から82.28、ポンド・円も154.41から156.49へと円安が進む中、FOMC.後に0.5%以上の利上げを主張した多くのFRB.地区連銀総裁がタカ派的発言をトーン・ダウンさせてドルは下げ基調となり、ドル安と円安に見舞われたドル・円相場は週を終えてみれば始値115.27、終値115.20と大きな波乱の無い展開となった。
彼我(他の主要国と我が国)の金融スタンスの違いが鮮明となる中、どうみても円安が進みそうだが財務省の神田財務官は,“円安進行に伴う経済影響に関してプラスとマイナスの両面がある。円安がエネルギーや食糧などの輸入コストに影響を与え、家計を直撃している。円安がかつてほど輸出企業に恩恵がない。”と正に正論を述べたが、一部には財務省による円安けん制と見る向きもある。
2015年、黒田日銀総裁はドル・円相場が125円台を超えた時に“消費者物価上昇率格差に基づいて計算する円の実質実効為替レート(2010年=100)ではかなり円安の水準になっている。ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは普通に考えればありそうにない。”と述べて円安進行を牽制したことがある。
因みに当時の実質実効為替レートは67.63で2022年1月の時点でのそれは66.3まで下落しており1972年6月以来の安値となっている。
支持率低下を気にし始めた岸田政権が“悪い円安。”進行に警戒感を抱き始めるかも知れないと推測することに違和感は無い。
116円は近くて遠いと感じる。
今週のテクニカル分析の見立ては114.20のサポート(下値支持線)を切れずに115.00のレジスタンス(上値抵抗線)を切って更に上を目指すと見るが、当局の円安牽制が効くかどうか注目される。