こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、オーストラリアのマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。またオーストラリアと中国の関係、豪ドルと人民元の関係についても折を見て触れていきたいと考えています。豪ドルの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第10回目は「【豪ドルのトレーダーへ】豪インフレ指標ときたるRBAに注目すべき理由」です。
目次
1.現在の豪ドル相場の確認
2.次回RBA(2月1日(火))の注目点
3.相場の注目点
4.相場の見通し
1.現在の豪ドル相場の確認
まずは現在の豪ドル相場を確認していきましょう。
<豪ドル/米ドル(AUD/USD)チャート、日足>
作成時点のAUD/USDレート:0.7182
前回報告が1月11日で、その作成時点のAUD/USD相場が0.7190でしたので、ほぼ横ばい推移となっています。豪ドルはRBA金融政策決定会合を経て動くことが多いので、「イベント待ち」と言えるかもしれません。
※RBA:Reserve Bank of Australia、オーストラリアの中央銀行の略称で、中央銀行や、その金融政策決定会合そのものを指すこともあります。以後はRBAと略します。
<豪ドル/日本円(AUD/JPY)チャート、日足>
作成時点のAUD/JPYレート:81.74
前回報告が83.26円ですのでAUD/JPYは2週間で1.52円下落しました。AUD/USDはほぼ横ばい推移ですので、ドル円の下落分だけ値下がりしたことになります。日米株価が軟調に推移する中で、市場参加者は円買いで反応していますので、株がいつ戻すか?が重要なポイントになるでしょう。
2.次回RBA(2月1日(火))の注目点
豪ドルを見ていく上で欠かせないのがRBA(金融政策決定会合)です。
下図をご覧ください。AUD/USDチャートのRBA開催日に黒い丸を描画しました。
RBAを通じて相場が大きく動いているばかりか、その後のトレンドを形成していることが分かります。つまり豪ドルを見ていく上でRBAが極めて重要なイベントであることがご理解頂けるのではないかと思います。
ではどのようにRBAをみればよいのか?それは現行の金融政策と、今回の金融政策の差に注目することです。
そこでまずは現行の金融政策を確認しておきましょう。
現行(2021年12月7日に発表)のRBA金融政策
● 銀行間の翌日物貸出レート0.10%(政策金利)
● 少なくとも2022年2月中旬まで週に40億豪ドルの国債買い入れを実施(量的緩和の継続)
今回のRBAの注目点ですが、一つは政策金利の変更があるかどうか。もう一つは量的緩和の継続を行うかどうかです。
政策金利については先物市場を参考にするとざっくり6割程度の参加者が「据え置き」を見込んでいます。その他の4割は利上げを想定しているか?と言うとそんなこともなく、むしろ利下げを意識している市場参加者が多いです。
下にグラフを添付しますが、オーストラリアの新規コロナ感染者の増加ペースが速いことがその一因と考えられます。テニスのオーストラリアンオープンが連日開催されており、ワクチンを接種していないジョコビッチ選手が国外追放となりましたが、こういった国内の感染状況も影響していそうですよね。
<オーストラリアのコロナ新規感染者数の推移>
Daily Reported Cases:新規感染者数:3万4760人
Cumulative Cases:累計感染者数:165万7485人
ですから基本は政策金利据え置きが想定されており、仮に政策金利に変動があった場合は上下どちらにもサプライズとなることについては覚えておきましょう。
なお先々の政策金利予測についても少し触れておくと、今年の4~5月くらいからRBAが利上げに転じると予測している参加者が多いです。つまり3月にアメリカが利上げしたのを確認して、その後にオーストラリアも利上げに転じるのではないか?という予測が多いのです。RBAはなるべく金融緩和を続け、さらに豪ドル安の恩恵を受けたい、こういった意向が透けて見えます。
3.相場の注目点
現在の金融緩和的な状況、また豪ドル安の状況を満喫しているRBAおよびオーストラリア政府ですが、もしかじ取りの変更を迫られるとしたら、それはインフレが上昇した場合でしょう。そういう意味でもこのレポートがマネ育チャンネルにアップされるであろう1月25日(火)に発表されるオーストラリア10-12月期四半期消費者物価(CPI)に注目が集まると思います。
以下にオーストラリアの消費者物価指数の推移を添付しました。オーストラリアの物価指数には3種類あり、今回ハイライトしているのは「トリム」、すなわち上下に跳ねた数値を削り、統計の中心を取ろうとする試みの物価指数で、RBAがおそらく最も注目しているもの、それがトリムです。
<オーストラリアの物価指数の推移(トリム)
3カ月前、すなわち9月発表が「+2.1%」で、これは前回比で急上昇していたため注目が集まりました。RBAのインフレターゲットは2.0~3.0%ですので、このトリムインフレが3%を超えてくるようだと早期の利上げに転じざるを得なくなります。
そういった意味で、発表されるオーストラリア10-12月期四半期消費者物価(CPI)は、トリム平均で3%を超えてくるかどうか?ここに注目してみるのが良いでしょう。もし超えていれば、先々の利上げを見越し、豪ドルが買われる展開になることを予想します。
4.相場の見通し
AUD/USDについては、発表されるCPIやRBA次第になると思いますが、目先は0.7150レベルを維持出来るかどうかも一つのポイントになると思っています。
※執筆段階では0.7160レベルなので、公開のタイミングではもしかすると下抜けているかも知れませんが・・・
<AUD/USD 4時間足>
年明けに昨年12月のFOMC議事録が発表され、FEDの早期利上げスタンスや、バランスシート縮小の議論が確認されると、オーストラリアの金融政策との対比からAUD/USDは売りが先行しました。ですがその際も0.7150前後で支えられて反転上昇しています。まずはこの位置(0.7150前後)をきちんとキープ出来るかが注目点といえるでしょう。クリアに下抜けた場合には短期的にまだまだ米ドルに歯向かえないと判断してもよいと思います。
AUD/JPYについては、ドル/円を見ながらの取引を推奨したいです。
米株が売り先行となる中、マーケットのリスクアピタイト(リスクをむさぼる食欲)は低下しています。したがって円買いが優勢になっていますので、この地合いが続くと思えば戻り売り、そろそろ反発と見込むのであれば押し目買い戦略が考えられます。
そこでUSD/JPYに目を移してみましょう。
<USD/JPY 日足>
注目ポイントは中段のライン「112.70」です。これは過去に日足ベースで支えられていることに加えて、上昇の始まった109円と、直近の高値116.35円の丁度真ん中の水準になりますので、いわゆる「半値戻し」の水準になります。
私は足元に限って言えば目線は下ですが、112.70をクリアに下抜けしない限りUSD/JPYは大きく崩れないと思っていますので、どちらかと言えば押し目買いの方針で臨もうと思います。
最後に1点、とても重要なことお伝えしたいと思います。
RBAはFED(アメリカの中央銀行)を後追いしたい意向です。つまり米利上げ、のちに豪利上げと、こういう順番が続くのであれば、金融政策に差が出ないので、AUD/USDは動きづらい展開になると考えています。
したがってこの順番が崩れるかどうか?ここがポイントだと思っています。そのため今は、米豪のインフレ指標を丁寧に追っていくのが重要と考えます。
本日はここまでとなります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
戸田裕大
<参考文献・ご留意事項>
豪ドルチャート:外貨ネクストネオ
米豪の金融政策について:FEDおよびRBAの直近の金融政策議事録より
オーストラリアのコロナ新規感染者数の推移:Commonwealth of Australia | Department of Health:Coronavirus (COVID-19) case numbers and statistics
https://www.health.gov.au/health-alerts/covid-19/case-numbers-and-statistics
オーストラリアの物価指数の推移(トリム):Australian Bureau of Statistics:Consumer Price Index, Australia
https://www.abs.gov.au/statistics/economy/price-indexes-and-inflation/consumer-price-index-australia/sep-2021
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戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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