以下の取材記事はトレーダー個人の経験やお考えに基づくものです。その内容について当社が保証するものではありません。実際のお取引については充分内容をご理解の上ご自身の判断にてお取り組みください。
フリーアナウンサーとして、為替アナリストや個人投資家とのつながりもある大橋さんに、相場の需給の需要さ、また豪ドル投資についてお聞きしました。
▼目次
1.為替は需給
2.長期金利をめぐる思惑のぶつかりあい
3.魅力的な豪ドル
為替は需給
編集部:- 大橋さんは先日の外為どっとコムセミナーで、FXでおさえておくべきポイントとして「需給・金利動向・景気動向・モメンタム相関性・アノマリー」の5つを注視している、とお話しされていました。
大橋:- そうですね。その中でも、需給が一番大事であると言いました。
編集部:- では、需給と為替についてお伺いできればと思います。そもそも「需給」とは何なのでしょうか。
大橋:- 需給とは、簡単に言うと「買う人と売る人のバランス」ですよね。 例えば、貿易の輸出入で生じる通貨の量の差は、貿易収支などで把握できます。 今(※1)、日本の貿易収支は5カ月連続黒字なんですよね。 海外で稼いだお金が、いつか日本に戻ってくる。 日本に戻ってくると、基軸通貨の米ドルから日本円に為替が起きますので、つまり円高になりやすい。 このようなことを常に念頭に置いておくべきかと思います。(※1:2021年1月19日時点)
編集部:- なるほど。 需給で言うと、IMMポジション(※2)の推移も確認されていらっしゃいますか? (※2:シカゴマーカンタイル取引所にある通貨先物取引所)
大橋:- ええ。IMMポジションは投機筋、短期筋などのいわゆるヘッジファンドと呼ばれる方たちのポジションなので、一方向にポジションが偏ると、どこかでその反対売買がおきるんですね。
編集部:- ふむふむ。
大橋:- 反対売買が起きるということは、為替レートもこれまでと逆方向に動くという可能性を示唆するんです。 例えば、2021年ってドル安予想をする方、多くないですか?
編集部:- はい。多いです。
大橋:- 実際にIMMポジションを見てみると、「ドル売り」のポジションが凄い溜まっているんですよ。
編集部:- お、ということは、ドル売りが巻き戻された際にはドル高になる可能性が大いにあるということですね。
大橋:- はい。今年はどこかの時点で、もしくはすでに始まってるのかもしれないのですけど、「ポジションの巻き返しによるドル高」が起こる可能性があるのではないかなと考えます。 円買いもちょっと溜まってきているので、ひっくり返り、円安にもなる可能性も考えられます。
編集部:- なるほど、そのようにしてIMMポジションを見ていらっしゃるんですね。 IMMポジションで「偏り過ぎだ」と判断する量(枚数)はありますか?
大橋:- そうですねー…。10万枚超えてくると、ですかね。 かなり偏ったときで14~15万枚だった気がしますけど。 過去のものと比較するのが大事ですね。
編集部:- 10万枚ですか。1枚が1250万円として…。すごい金額です。
大橋:- 10万枚だとそこまで大きな偏りでもない気がしますが、今はゼロ金利なので人気のキャリートレードがなく、偏り自体がそもそもあまりありません。 ですから、まぁ10万枚がメドですかね。
編集部:- 目安として、メモしておきます…。
大橋:- 貿易収支が基軸の方向性を決めるけどIMMポジションはその大きなトレンドの中でノイズ的に上下して、為替を大きく動かす力を持っているという風に考えています。
編集部:- ノイズとは面白い表現ですね。
大橋:- ノイズなので、相場に及ぼす期間は限られますが、それでも数日から数週間の短期的なトレンドを作るぐらいのパワーは持っていると思います。
編集部:- そのようなノイズを気にしつつ、相場全体のトレンドに沿ったトレードをするべきなのですね。
大橋:- そうですね。「為替相場は金融政策と財政政策が決める」と言うのがエコノミスト的視点ですけれど、これは大きなトレンドを司る重要な視点ではありますが、金利だけで為替レートが決定されるものでもありません。 トレードという細かい視点で観るには、貿易収支やIMMポジションなどの需給要因も注目しておく必要があると思います。
長期金利をめぐる思惑のぶつかりあい
編集部:- 次に政策金利についてお聞きしたいです。 今はどの国もほぼゼロ金利ですね。
大橋:- そうなんです、先進国の金利はゼロなので、以前ほどは注目度が高くないのは事実です。 まあ基本的に各国の政策金利はチェックしておいてほしいのですけど、先進国ゼロ金利時代に重要になってくるのは、市場金利である米国債の長期債、10年債の利回りになると思います。
編集部:- 米10年債利回りですか。サイケンとかちょっと難しそうです…。
大橋:- 政策金利は中央銀行が決定しますが、債券市場の金利は、債券市場の需給で動きます。 先に債券市場で金利が上昇してくると、政策金利との乖離が生じますので政策金利の見直しを迫られる・・・ということが起きるかもしれないというのが今年からの長いテーマとなってくるでしょう。 まずは、アメリカの10年債の利回りを見ておきましょう、ということになります。
編集部:- でも、パウエルFRB議長はFOMCで2023年まで政策金利を上げないとは言っていますね。
大橋:- この辺りが、市場で思惑がぶつかり合うところになります。 市場が言うことを聞かずに米10年債の金利だけ上がっていけば、もっと早く政策金利を引き上げるんじゃないかと考える人たちが出てくる、ということです。 さまざまな思惑のぶつかり合いが、為替レートにダイレクトに影響する。FXの醍醐味ですね。
魅力的な豪ドル
編集部:- FX以外にも様々な金融商品がありますが、チェックしておくべきものはありますか?
大橋:- そうですね、原油、金、鉄鉱石などでしょうか。
編集部:- 鉄鉱石ですか。
大橋:- オーストラリアは鉄鉱石など、かなりコモディティ(商品)の輸出が経済の柱になっている国なのですけど、ここのところ鉄鉱石の価格が上がっていたので、豪ドルが非常に強かったんですね。
編集部:- はい。
大橋:- 今は、全体的に米ドルの巻き返しが来ているので、豪ドルはいったん下がっているんですけど多分また上がりだすと思っています。
編集部:- 鉄鉱石価格、要チェックですね。
大橋:- オーストラリアはゴールド(金)の輸出もしています。 生産量で、おそらく今年あたりに世界ナンバーワンになる可能性もあります。 ゴールドの価格が上がれば、豪ドルの上昇も連想することができますよね。
編集部:- ゴールドの輸出先ってどこなのでしょうか?
大橋:- 中国です。中国は今年(2021年)の7月で中国共産党が100周年になります。 それと同時に、新型コロナからの立ち直りを世界にアピールするようです。 このビックなイベント準備のため、中国はゴールドをオーストラリアからたくさん買っているみたいですよ。
編集部:- 中国は100周年という記念の年なんですね。しかし、ゴールドを何に使うんだろう・・・。
大橋:- あとは・・・LNGもオーストラリアの輸出で増えています。
編集部:- LNGって何でしたっけ?
大橋:- LNGは液化天然ガスのことで、カタールや中東の輸出品目として有名なんですけど、オーストラリアも輸出量が増えています。これも豪ドル上昇要因として連想できますよね。
編集部:- 為替レートを見ているだけではわからない、商品価格を見ているからこそ知り得ることですね。
大橋:- ええ。このような感じで、この国はどんなものを輸出して、貿易収支を支えているのかな、というふうに調べたり考えることは面白いですよね。貿易収支をチェックするのも、大事な需給分析ですからね。
編集部:- いやあ、興味深いお話です。
インタビューは1月の中旬に行いましたが、3月4日時点でドル高、豪ドルも上昇が見られます。為替取引をするにあたり需給を見るべきであると改めて確認できるインタビュー内容となりました。
(後編へ続く)
【過去出演動画】
大橋 ひろこ氏
フリーアナウンサー/ナレーター/個人投資家。福島県出身。アナウンサーとして経済番組を担当したことをきっかけに自身も投資を始め、現在では個別株、インデックス投資、投資信託、FX、商品先物と幅広く投資している。個人投資家目線のインタビューに定評があり、経済講演会ではモデレーターとして活躍する。自身のトレードの記録はブログで赤裸々に公表しておりSNSでの情報発信も人気。一時期は海外映画やドラマの吹き替えなど声優としても活動していたが、現在は経済番組に専念。現在ラジオNIKKEIなどで経済番組レギュラーを多数抱え、キャスターとしても多忙な日々を送っている。