注目の米大統領選挙を明日に控えて、市場ではリスク・オフ(投資家が既存の債権を圧縮し、新規の投資を控える。)の動きが広がり、株価は下げてドルの買い戻しが進んでいる。
この1週間でダウ30種平均は6.5%、ナスダックは5.6%、S&P.は5.7%の下げを演じ、ドルは対ユーロ、対ポンドで上昇したがドル・円相場は相変わらずドルと円のパラレルの動きによって殆ど変わらずの動きであった。
現職の共和党・トランプ大統領と民主党・バイデン前副大統領の選挙争いは熾烈を極め、多くの世論調査ではバイデン候補の優勢が続く。
但し、選挙は水物。
4年前の大統領選挙での民主党・ヒラリー・クリントン対共和党ドナルド・トランプの対決でも事前予想は圧倒的にクリントンの優勢が伝えられていたが、最後の土壇場でトランプが巻き返して逆転劇を演じた。
はっきり言って現時点ではどちらが勝つかは全く分からないが、テレビの三大ネットワークやCNN.は何方かと言うと民主党贔屓であることは間違いなく、世論調査の“バイデンが圧倒的に優勢。”と言う報道は少し割り引いた方が良いかも知れない。
今回の選挙の行方を占う事を難しくしている点は隠れトランプ支持者の存在と事前投票の数の多さである。
隠れトランプ支持者とは、選挙ではトランプ氏に投票するが、世論調査ではそう答えず実際のトランプ支持率に繋がらないトランプ・ファンのことである。
トランプ大統領の政策は支持するが彼の言動に辟易気味で表立ってトランプ支持と言うことを躊躇する人が多いと聞く。
今回の選挙では既に9300万人以上の有権者が事前投票を済ませたと言われているが、これは前回2016年の1億3754万人の投票総数の68%にも当たる。
9300万人の投票の内、郵便投票が約65%の6000万人を占めるがトランプ大統領はこの郵便投票を不正の温床としてその妥当性を認めておらず、選挙に負けても敗北を認めない可能性が有る。
考えられるシナリオは、
-11月3日の投票が終わった後の即日開票では投票所投票で票を集めたトランプ大統領優勢が伝わる。
もしかしたらトランプ大統領が勝手に勝利宣言をするかも知れない。
-その後事前投票、特に郵便投票が集計に加わると徐々にバイデン候補の得票数が増加し、トランプ大統領の劣勢が明らかになる。
これには数日掛かるかも知れない。
-トランプ大統領は郵便投票が無効であると連邦最高裁判所に訴えを起こし、裁判に持ち込む。
-現在連邦最高裁判所の判事の構成は保守派で共和党寄りの判事が6人、リベラル派で民主党寄りの判事が3人であり、トランプ大統領が勝訴する可能性が高い。
である。
以上は塾長の勝手な憶測であるが、現時点では選挙の行方は全く分からない。
はっきり言えるのは、メデイアが伝える程はバイデン候補の優位性は高くはないのではないかと言う事である。
我々にとって最も興味のある事は大統領選の結果によって市場はどう動くかであろう。
数か月前まではトランプ再選なら現状維持で大きな波乱は無し、増税を謳うバイデン勝利なら株価下落=金融市場混乱と言う見方が多かったが、どうも最近の見方は変わってきた模様である。
バイデン候補は増税と共に大規模な財政出動も謳っており、これは景気浮揚となって株価にもプラスになると言う見方である。
選挙結果については全く不透明であるが、考えられるシナリオとしては、
1)バイデン新大統領誕生と上院で民主党が過半数を獲得。下院の民主党過半数は変わらず。
大統領、上院民主党、下院民主党のトリプル・ブルー(ブルーは民主党のイメージ・カラー)となり、民主党主導の政策遂行が簡単になり増税、財政支出が行われる。
考えられる市場の反応は、株価は増税と財政支出でオフセットされ大きな波乱無し。
長期金利は上昇し、ドルは下落。
どうやら、現状では市場はこのシナリオが最も可能性が高いと見ている感じがする。
2)バイデン新大統領が誕生するが共和党が上院の過半数を維持。下院の民主党過半数は変わらず。
議会のねじれ現象が続き、増税案と財政出動案協議が停滞する。
考えられる市場の反応は株価は財政出動案協議の停滞を嫌気して下落、リスク・オフとなって長期金利は下落し、ドルは上昇。
3)トランプ大統領が再選されるが民主党が上院の過半数を獲得。下院の民主党過半数は変わらず。
大統領と議会の鬩ぎ合いが始まるが財政出動は両者とも前向きで景気にはプラスとなる。
リスク・オンとなって株価と長期金利は上昇し、ドルは下落。
4)トランプ大統領が再選され、上院も共和党が過半数を維持。下院の民主党過半数は変わらず。
現状維持で金融市場の波乱は無し。
3)と同じく株価と長期金利は上昇し、ドルは下落。
前回の選挙ではトランプ新大統領誕生となれば株安・金利低下・ドル安になるとの大方の予想に反して、株高・金利上昇・ドル高が進んだ。
上の机上のシナリオ通りに動くかどうかは分からないが、何れにせよ財政支出拡大によるドルの余剰感からドルが下落すると見るのは難しくはない。
最後に留意すべき点として選挙結果が判明するのに時間が掛かる可能性について触れておきたい。
上述した様にバイデン候補が得票数で上回っても、それが僅差であればトランプ大統領が連邦最高裁判所に提訴する可能性が高い。
その場合、ひと月後(12月8日)の選挙人確定日はおろか、12月14日の選挙人投票日になってもどちらが勝利したかが決まらなくて大混乱に成る事が考えられる。
そうなった場合投資家は当然リスクを取る事を躊躇してリスク・オフの動きとなれば株価は下がり、安全資産である債券とドルが買われて金利は低下してドルが上昇するかも知れない。
もっとも、このアメリ発の混乱の中、リスク・オフとは言え市場が積極的にドルを買うかどうかは分からないが..
さあ、米大統領選挙まであと一日。
固唾を飲んで選挙結果を待つことになりそうだ。