米大統領選に相前後して相場は大きく荒れる!?
もはや米大統領選の投開票予定日まで1カ月余り。とはいえ、開票が始まっても結果が明らかになるまでにはかなりの時間がかかると見込まれるうえ、たとえ一方が高らかに勝利宣言を行ったとしても、最終的な“決着”がつくまでには気が遠くなるほどの時間が経過する可能性もあるとされる。
なにしろ、新型コロナウイルスの影響で利用が急増すると見込まれている郵便投票について現職のトランプ氏は「不正の温床」と見なしている。同氏の敗色が濃厚となれば、場合により勝負の最終決着が連邦最高裁判所での法廷闘争にもつれ込むとの警戒も強まっており、その可能性も視野に入れるトランプ氏は先に死去したルース・ギンズバーグ判事の後任に保守系の人物を充て、自身に有利な判断が下される可能性を高めようと画策している。
9月29日、共和・民主両党の大統領候補による第1回テレビ討論会が行われ、想定されていた通りの白熱した論戦が交わされたわけであるが、やはり特に印象深かったのは郵便投票を巡る「選挙の公正さ」に関わる論戦の部分であった。そこからは、やや劣勢とされる現状を自覚するトランプ氏の巻き返しに必死な様子が見て取れるとの思いを抱いたのは筆者だけであろうか。
また、事前の一部の心配をよそにバイデン氏が終始、冷静に落ち着き払った物腰でトランプ氏からの“口撃”を巧みにかわしていたことも印象的であった。大統領候補のテレビ討論会はあと2回予定されているが、その場においてもバイデン氏がトランプ氏の言う「寝ぼけたジョー」の印象を覆すべく、立派に凛とした態度を示すことができれば、バイデン氏の形勢優位はより色濃くなってくるのではないかと個人的には感じた次第である。
いずれにしても、市場では米大統領選の投開票日後に相場が一旦大きく荒れる可能性が高いと見込まれており、当然のことながら、事前にリスク資産のウエイトを落としておこうと考える向きも増えるものと予想される。つまり、米大統領選に相前後して相場は反乱含みの展開になりやすいと思われる。
選挙の決着が遅れれば、それだけ米政治の混迷は長期化し、結果的にコロナ禍からの回復に支障が生じるとの懸念が市場で強まった場合には、やはり米株価が再び調整含みの展開となり、全体にリスク回避的なムードが拡がりかねない。
外国為替相場の反応としては、やはりリスク回避のドル買いと円買いがともに強まる可能性が高く、同時に米国の実質金利が再び低下傾向を辿るならば、基本的には円買いの方がドル買いよりも勝ることとなる公算が大きいと思われる。
既知のとおり、米実質金利の低下傾向は9月第3週以降に一服し、その後は一旦ドルがユーロや円に対して強含みとなる局面が訪れた。結果、ドル/円は再び21日移動平均線(21日線)が位置する水準あたりまで値を戻す格好となったわけであるが、それはドル/円が一時的にも104円割れ寸前のレベルまで下押したものの、結局は104円処に居並んでいた強い買い需要に押し戻される格好となったことも一因であったと見られる。むろん、月末&期末に向けた特有の円売りフローが下支えとなった側面もあろう。
また、同時にユーロ/ドルが21日線をクリアに下抜ける動きを見せたうえ、8月初旬から形成していた緩やかな上昇チャネルを明確に下放れる格好となったことも大きいと思われる。それ以前にユーロ/ドルは、一瞬時1.20ドル台に乗せる動きとなり、そこから強く売り崩される格好となっていたことも見逃せない。
その背景には、1.20ドルという大節に達したという事実が一つの大きなカタリストとなったことで、過去最高水準にまで積み上がっていたユーロロングのポジションが一気に解消されることになったというテクニカルな事由もある。そこに、米実質金利の低下一服という要素が重なった。もちろん、欧州で新型コロナウイルスの新規感染者数が再拡大しているという事実も軽視はできないが、ほぼ同時に米国でも同様の事態となっていることは再認識しておかねばなるまい。
なお、米実質金利の低下が一服したとは言え、依然その水準は非常に低い。米大統領選に相前後して米10年債利回りが一段の低下を見ることとなれば、あらためてドル売りが再開され、ドル/円が再び105円割れの水準を試すこととなる可能性も大いにある。
むろん、ユーロドルが再び21日線や一目均衡表の日足「雲」上限水準のブレイクに挑戦する可能性も十分にあると考えられ、このまま順調にドル高基調が継続する考えることにも相応のリスクはあろう。
目先的には、米国の追加経済対策を巡る与野党協議の行方が一つの焦点。ムニューシン財務長官とペロシ米下院議長による協議は一進一退の様相となっており、合意への期待と失望は毎日のように入れ替わっている。大統領選前の経済対策成立となれば、一旦は市場がそれを好感して米株高・債券安に伴うドル買いの動きも見らえるだろう。その場合は、ドルに戻り待ちの売りを仕掛ける算段で臨みたい。
また、経済対策の成立が大統領選後に持ち越された場合は、米民主党が大統領職と上下両院での過半のすべてを取れるかどうかが大きな焦点となってくる。
かねて市場の一部からは「バイデン氏勝利なら増税でリスクオフ」などといった声も聞かれるが、果たして本当にそんな短絡的な見立てで良いものだろうか。むしろ、米大統領選後の些か混乱した状況のなかで、絶好の投資機会を見出すこともできるのではないかと個人的には今から期待している。
田嶋智太郎氏
経済アナリスト 慶應義塾大学を卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経て、経済アナリストに転身。現場体験と綿密な取材活動をもとに、金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産掲載まで幅広い範囲を分析・研究。 WEBサイトで経済・経営のコラム執筆を担当し、株式・外為・商品などの投資ストラテジストとしても高い評価を得ている。 また、「上昇する米国経済に乗って儲ける法」など書籍も手掛けるほか、日経CNBCレギュラーコメンテーターも務める。