こんにちは、戸田です。
香港シリーズ、第10回は「最新の香港情勢アップデートと香港ドルの対円保有の有効性」でお届けいたします。
さて今週もさまざまな動きがございました。
具体的には米国が香港要人に対して金融制裁を実施した一方、香港政府は国家安全法の施行を強化し、影響力のある人物を続々と逮捕しています。このような中、安全保障面では「ファイブ・アイズ」に日本を加えて「シックス・アイズ」にする構想も水面化で進んでいるようです。
香港を取り巻く環境の変化は、ますます激しさを増しています。
このような中、日本円や香港ドル、そして人民元がどのような状況に置かれているか解説していきます。また最後に収集した情報をもとに今後の市場への影響を考察しますので、最後までご覧頂ければ幸いです。
目次
1.最新の香港情勢
まず今週1週間で動きのあった政治経済情報についてみていきましょう。
一つ目が米国の香港要人に対する金融制裁です。米財務省は7日、香港の自治侵害などを理由に、香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官をはじめ11人に対して、米国内の資産を凍結し、米国人との取引を禁止しました。
個人への制裁であることから、経済全体に対する影響は少なく、メッセージ性の強い金融制裁であると思っています。影響力の大きい金融機関に対する米ドル制裁を強力なカードとして手元に残しつつ、香港の出方を窺う構えと言えるでしょう。
二つ目が米国の中国企業に対する取引停止です。トランプ大統領は短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を傘下に置く中国のバイトダンスと対話アプリ「WeChat(ウィーチャット)」を運営する中国のテンセントとの取引を45日以内に禁止する大統領令に署名しました。
携帯メーカーのファーウェイも加えて、情報保護の観点から米国での使用を禁止するわけですが、これに日本や他の先進国も追随する動きがあり、中国の代表的な企業の先進国への進出が限定されていくことになっていきそうです。これは中国の海外進出事業にとって大きな影響を与えることになります。
実は中国は海外との収支を示す経常収支が近年悪化しています。そのために中国政府は国内企業に積極的に海外進出を行うようサポートしてきました。それが例えば「一帯一路」と呼ばれる海外進出の国策に繋がっているわけですが、コンシュマー向けの海外進出が新興国にしか進出できないということになると、新興国は一人当たりの所得が少ないので、端的に言えば事業としてあまり儲からないわけです。
米国が中国製の通信機器やアプリを情報保護の観点を理由として使用しないと表明することで、他の先進国も中国製の通信機器やアプリを使わなくなっていく可能性が高いのではないかと思います。これは中国にとって厳しい状況と言えます。
三つ目は香港警察が続々と著名人を逮捕・有罪判決していることです。この一週間でメディア界の大物で著名な民主活動家の黎智英(ジミー・ライ)氏が逮捕され、また日本での活動で知られる香港の民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)氏に対し有罪判決が言い渡されました。
このスピードは日本人の感覚からするとめちゃくちゃ早くないでしょうか?
中国は何事もやると決めるととにかく早いです。それに米国も都度リアクションを取るので、思ったよりも米中対立の激化のスピードが早まっているように感じています。毎度のことではありますが、たったの一週間で本当に大きく状況が変わることを実感しています。
そして四つ目は日本が安全保障の観点から「ファイブ・アイズ」に加わり、「シックス・アイズ」になると言うアイデアが水面下で進んでいることです。これは英外交委員会のトム・ツーゲンハット議長がTwitterで公にしました。
英外交委員会とは英議会傘下の外交問題等に関する調査を担当する委員会で、先日、日本の河野防衛大臣とオンラインで打ち合わせをしたそうで、その時のアイデアだそうです。
そんな重要なことをSNSに呟くのはどうなんだろう?とも思うのですが、無視できない議題と思っています。これで日本はますますファイブ・アイズ寄りの動きが加速する可能性がありますので、対中ビジネスなどに大きく影響が出てくる可能性を懸念しています。
2.香港ドル相場の定点観測
さてこのような情勢不安の中、やはり香港株の出遅れが目につくようになってきました。年初の株価指数を100として、足元までの推移をチャートにしたのですが、香港(ハンセン)は全く良いところなく86台となっています。一方で中国株の強さが目立っておりこちらは108台非常に堅調です。
次に対円の為替レートについて見ていきたいと思います。こちらも比較のために年初の為替レートを100として算出しました。
基本的に香港ドルと米ドルはペッグされていますので、HKD/JPYとUSD/JPYに大きなレート差はないのですが、年初来では1%弱HKD/JPYのパフォーマンスが良いです。これはUSD/HKDが香港ドル高傾向にあることが反映されています。
続いて現在の金利水準では、キャリー(高金利通貨を買い持ちすることで得られる金利収益)もHKD/JPYの方が高い傾向にあります。さらに本シリーズで何度か指摘しておりますが、HKDの香港ドル高への水準修正もありうると思いますので、その場合には大きな香港ドル高に繋がる可能性もあります。
従ってUSD/JPYを買い持ちするのであれば、HKD/JPYを買い持ちされた方がパフォーマンスが良いと思っています。
ただHKD/JPYはスポット(両替)もスワップ(金利)もUSD/JPYほどスプレッド(買値と売値の差)が狭くないので、その点はご留意ください。
さらにCNY/JPY(オンショア)またはCNH/JPY(オフショア)ですが、これは4月から7月の間はUSD/JPYと比べてかなりアンダーパフォームしていましたが、ここにきてぐっと差を縮めてきています。CNH/JPYは大きくキャリーがつきますので、中国株が強含む中で、人民元も底堅く推移すれば、USD/JPY買い持ちよりもパフォーマンスが良くなる可能性は十分ありそうです。
ただし、そもそも、円高トレンドが続いてはいますので、逆張りのトレードアイデアになります。ですから既にUSD/JPYを買い持ちしている方に、HKD/JPY、CNY/JPYを買い持ちされてみては?と言うトレードアイデアとしてご理解頂ければ幸いです。
さて、本日はここまでとなります。
本当に不安定な情勢になってきました。
引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
戸田裕大
【過去記事】
<参考文献・ご留意事項>
Investing.com:HKD/JPY, USD/JPY, CNY/JPY 為替レート及び 各種株価データ
https://www.investing.com
![](/assets/img/maneiku/profile/profile-toda-yudai@2x.jpg)
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。