FX初心者から上級者までを対象とした「田畑昇人公式FXブログ」を日々更新するほか、ご自身のFXトレード手法をまとめた書籍はベストセラーとなるなど、個人投資家としても活躍する田畑昇人さんへインタビューを行いました。
トレードの再現性へのこだわりなどがわかるインタビューになっています。
▼目次
人に説明できるトレードにこだわる
編集部:- 本日はビデオ電話にて、ありがとうございます。
よろしくお願いいたします。
田畑:- よろしくお願いします。
ちょっと前なんですけど、外為どっとコムさんのトレードコンテストに参加してました。2015年の11月から7週間くらいの間で開催されていたものです。
編集部:- はい。これですか?
田畑:- この「八神太一」というニックネームは、僕のことです。
編集部:- えっ!1位じゃないですか!
田畑:- 当時まだ大学院に在学中だった頃か、中退した1年後くらいだったかもしれません。
編集部:- おーー、まったく存じ上げませんでしたー! シラナカッタ。
田畑:- マネ育さんは外為どっとコムさんが運営されているメディアなので、こういった機会ではないとなかなか公にいう機会もなかったので…。
編集部:- (しかし、2か月足らずで1271まんえん…。余裕の王者…。)
さて、気を取り直してインタビューを始めたいと思います。田畑さんのご著書は、「東大院生が考えたスマートフォンFX」に続き、最新刊の「武器としてのFX」も拝読しました。仕事柄、投資本はいろいろ読みますが、これだけ濃い内容が、この価格で出たのは驚きでした。 金融ライターの高城さんが携われているということで、内容の充実に納得しました。
田畑:- ありがとうございます。
編集部:- なので、今回は書籍の内容を中心にいろいろとお聞きしたいと思います。
田畑:- はい。そういうことでしたら、書籍の後半で書いた「VIXを見ながらのトレード」の実例として、2020年6月5日に発表されたアメリカ雇用統計が面白いんじゃないかと思いますので、お話ししますね。
編集部:- よろしくお願いします。 6月5日に発表された、5月の米国雇用統計は、コロナ禍を受けてアメリカの雇用情勢は悪くなるという市場予想がありましたが、結果は好調でしたよね。 ポジティブサプライズということで、ドル/円は一瞬上昇しましたけど、その後はなぜか下がってしまいました。
田畑:- ええ。指標結果はよかったのに、なぜドル/円の上値が厳しかったのかについて説明します。
まず、ドル/円という通貨ペアは、ドルと円の交換比率じゃないですか。2つに分けてみることが出来るということです。
編集部:- はい。
田畑:- 5月末から6月の頭にかけて、ユーロ/ドルはトレンドが出ていました。1.10を超え、1.14まで上昇しました。
田畑:- ちなみに、ドルインデックスに占めるユーロ/ドルの割合って約5割以上とすごく大きい。
つまり、ユーロ/ドルが上っているということは、ユーロ高・ドル安なわけですから、市場はドル高ではないとわかります。
編集部:- ええ。
田畑:- なので、ドル/円を考えたときに、トレンドが出にくい状況だった。
米雇用統計の内容が良かったので、円安になってもおかしくない状況でしたが、すでにドル安だったので、どうしても上値は厳しくなったということがあります。
編集部:- ・・・ドル/円だけ見ていたら気づけないことですね。
田畑:- さらに、オプション市場で見てみますと、5月末ごろはドル/円のボラティリティはすごく低くかった。「インプライドボラティリティ」という、1週間でどれくらいその金融商品が動くかっていう指標があるんですけど、ドル/円が108円をブレイクするまで、ずっと「4」から「5」で推移していました。このレベルではトレンドが出にくい状態です。 株式市場でもそうですけど、VIXが低いときは値幅が出ない。
編集部:- ふむふむ。
田畑:- ドル/円がブレイクして109.80円まで上がったときに、ちょうど「武器としてのFX」でふれた「円VIX」、「JPVIX」が上昇傾向にあったんです。 これを見て、僕は、この先ボラティリティが出そうだなと思っていました。
編集部:- えっと、つまりどういうことでしょうか。
田畑:- ドル/円は110円近くまで上がり切ったあとに「円VIX」、「JPVIX」が上昇したので、次に値幅が出るなら、方向は下かな、と考えるわけです。
編集部:- はー、なるほど。
田畑:- 「リスクリバーサル」というものがありまして、値がプラスだったらトレンドが上に出やすい、マイナスだったらその逆になるという、オプション市場で使われる指標なんですね。 ドル/円の「リスクリバーサル」を見たら、ずっとマイナスなんですよ。オプション市場から見ても、ドル/円は上値がめちゃくちゃ厳しいっていう状態でした。
編集部:- そうだったんですね。ますます、ドル/円だけ見ていたら気づけない情報です。
田畑:- さらに、テクニカル分析では、ドル/円の112円あたりにレジスタンスがたくさんありました。
編集部:- いろいろ、見ていらっしゃいますね・・・。
田畑:- そんな状況のなか、米雇用統計の結果が出た、ということなんです。ちなみに、このスクリーンショットは、米金利の画像なんですけど・・・。
出所:ブルームバーグ
編集部:- 白い丸のところ、ピューンと上がって、その後は下がっていますね。
田畑:- 米雇用統計を受けて、米金利が上がっています。ということは、債券が売られて株が買われた。 いわゆる典型的なリスクオンですよね。
でも、米金利は、そのあと上がった分を全戻ししているわけなんです。 ・・・ということはポジティブサプライズをもってしてもマーケットはそれ以上の上伸が厳しいと考えている、と捉えることができるんですよね。
編集部:- 金利の声が聞こえていらっしゃる!・・・何と言いましょうか、脱帽です。
田畑:- 米雇用統計発表後のドル/円の下げは、上に溜まっていたドル/円のロングが、米金利の低下で振り落とされたと考えるのが、個人的には自然かなと思っています。
編集部:- もはや頷いてしかいません。なるほど。
田畑:- ですから、ドル/円の一連の値動きを、アナリストがイールドカーブ・コントロールなどで説明するのは、個人的にはちょっと無理があるのかなと思っていました。
編集部:- ちなみに、
米雇用統計の結果を受けて、どうトレードされましたか。
田畑:- トレードは「ドル/円」売りでエントリーになりました。
米雇用統計発表で上げた分以上は上がらないと解釈し、そこから下はちょこちょこ売っていました。 まさかドル/円が106.50円まで下がるとも思わなかったので。10pips、20pipsを取っては降りて(決済して)みたいなのを何回か行ったという感じですね。
再現性の大事さ
編集部:- お話伺っていると、田畑さんの頭の中で、色々なものがつながってから、ひとつのトレード判断を導き出している印象です。
田畑:- 基本的には僕の中で、詰将棋をしている感覚なんですよ。
編集部:- お、詰将棋ですか。
田畑:- Aという要因があって、BでCだからDになる、など組み合わせていく感じです。 いまお話ししたような「変数」が多ければ多いほど、期待値が高くなると思っています。
編集部:- 逆に、変数が1つだけでは、期待値が低いということですか。
田畑:- ええ。 ですので、チャートに線を引っ張って、そこをブレイクしたからトレードするという方がいますけど、変数1つだけではちょっと材料不足というか・・・。
編集部:- たしかに、レンジブレイクはシンプルでわかりやすいですが、根拠に欠ける気もします。
田畑:- トレンドラインを否定するわけではないですよ。 ほかの材料があるなら、レンジブレイクについて行くことはあります。材料がない場合は、ロットを少なくして様子見するなどはしていますね。
編集部:- ここまでお話をうかかがって、トレード判断のこだわりポイントがなんとなく見えてきました。
田畑:- 僕は、人に後から説明できるような、再現性の高いトレードが、期待値が高いトレードだと思っています。
編集部:- なるほど。期待値の高さと、再現性の高さは強いつながりがあると理解しました。
田畑:- 雇用統計発表前に、ドル/円が108円をブレイクして109.80円まで上げましたけど、この理由を人に説明するのは結構難しいと思っています。 人に説明できないものって再現性がないじゃないですか。
編集部:- 再現性がない、説明しづらい相場ではエントリーを控えるということでしょうかね。
田畑:- 説明できないと、同じ状況になったときに以前と同じトレードができるか分からないです。 今回題材としてピックアップした米雇用統計後の値動きは、いろんな変数の説明ができましたので、再現できると思います。
編集部:- ふむふむ。非常に納得です。
田畑:- これは僕が考えているだけで、正解かどうかは知らないですよ。
編集部:- あと、トレンドラインのトレードについて、どう見ていらっしゃいますか?
田畑:- トレンドラインの引き方っていろいろありますけど、人によって誤差が出ますしね。 対して、ドルインデックスは、みんなが同じ数字を見ているわけで、そういったものの方が納得がいくのではないかと僕は思っています。
編集部:- ついでにお聞きしますと、「期待値」という言葉についてです。一般にはちょっと聞き慣れないので、解説をいただけますと嬉しいです。
田畑:- まあ、言葉の通りなんですけどね。学校の数学で勉強した通りのことです。 一応説明すると、期待値にはプラスとマイナスがありますね。 例えば宝くじの期待値が0.5だったら、1000円分を買うと、500円分の期待値しかないという感じです。
編集部:- なるほど、わかりやすいです。
田畑:- 為替なら、期待値がプラスのときにエントリーしないと、どうしてもスプレッド負けをしてしまうわけですよね。
期待値がゼロを上回る材料がないと、どうしても人の手でマーケットを泳ぎ切るのは難しいのかなとは思っています。
編集部:- 直感的なトレードではなく、期待値はしっかり見極めるということですね。
田畑:- あと、為替って出来高が見えないじゃないですか。 株式相場だったら出来高が見えて、ボラティリティが予測ができますけど。
編集部:- FXは市場が巨大すぎで、全体の把握はできないですもんね。
田畑:- なので、ある程度はボラティリティインデックス(VIX)指数とか、インプライドボラティリティ(IV)とか、そういうもので対処するしかないと思っています。 僕の場合は、例えばFOMCのあとや米雇用統計のあと、VIXやIVを出来高として見ているという感じですね。
※VIX指数 米国株価指数S&P500の変動幅を指数化したもの
編集部:- 具体的な事例を、ありがとうございました。では後編でもボラティリティに着目したトレードについて伺ってまいります。
田畑 昇人 氏
大学3年生からトレーディングを始め、僅か50万円を9ヶ月で1000万円に増やしたトレーディング力が注目され、東大大学院在学中にメディア出演し、話題に。
FXに出会って相場の世界に足を踏み入れたことをきっかけに個人投資家として活躍するようになる。
書籍も発行されており、「東大院生が考えたスマートフォンFX」10万部・「武器としてのFX」2.5万部など、それぞれベストセラーとなっている。FX初心者から上級者までを対象とした「田畑昇人公式FXブログ」を随時更新している。