ポンド/円
ポンド/円の基調と予想レンジ
ポンド/円 9月の推移
9月のポンド/円相場は126.674~135.746円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約2.8%上昇(ポンド高・円安)した。
ジョンソン英首相が強行する恐れのある「合意なき欧州連合(EU)離脱」の阻止に向けて英国議会が動いた事に加え、米中通商協議の再開が決まり両国の摩擦激化懸念が後退した事からポンド高・円安が進行。
ショートカバーの動きも相まってポンドは堅調推移が続き、20日には135.70円台まで上値を伸ばして約2カ月ぶりの高値を付けた。
その後は、月末にかけて上げ幅を縮小。ジョンソン首相が決めた議会閉会が最高裁に「違法」と判断され、約2週間ぶりに議会が再開されるなど、「合意なき離脱」の可能性は一段と低下したものの、英国政治の混迷はより深まったため、ポンドの上値は重かった。
2日
欧州市場に入るとポンドが軟調に推移。「英野党、合意なきEU離脱を阻止する法案を今週提出へ」と報じられた他、「この法案が可決されれば政府への不信任案だと受け止める」との首相関係者の発言も伝わった。また、BBCは、ジョンソン英首相が今週中に早期の総選挙を呼びかける事も多くの選択肢の中のひとつだと報じた。
4日
英下院議会はEU離脱延期法案を賛成多数で可決。法案は、10月19日までに新たな離脱案が議会で承認されなければ、10月末から2020年1月末への離脱延期をEUに申請するよう、政府に義務づける内容。これに対してジョンソン英首相は、離脱延期法案を「EUに主導権を渡すものだ」と批判した上で、10月15日に総選挙を実施する案を議会に提案。
しかし、可決に必要な3分の2の賛成を得られず否決された。これを受けて「合意なき離脱」への懸念が和らぐとポンドが上昇した。
9日
英7月国内総生産(GDP)は前月比+0.3%と予想(+0.1%)を上回った。同様に、英7月鉱工業生産も前月比+0.1%と予想(-0.3%)に反して上昇。これらを受けてポンドが上昇した。なお、英国ではこの日、EU離脱延期法案が女王の署名を経て成立しており、「合意なき離脱」への懸念が和らいだ事もポンドを支援した。
10日
英8月失業率は3.3%、同失業保険申請件数は2.82万件(前回:3.2%、1.98万件)であった。また、5-7月のILO失業率は3.8%と予想(3.9%)より良好で、5-7月の週平均賃金は前年比4.0%と予想(+3.7%)を大きく上回る伸びとなった。
18日
英8月消費者物価指数は前月比+0.4%、前年比+1.7%と、市場予想(+0.5%、+1.9%)に届かなかった。英8月生産者物価指数も、前月比-0.1%、前年比+1.6%と予想(+0.2%、+1.7%)を下回った。
19日
ユンケル欧州委員長が「10月末までにBrexit協定案の合意は可能」と発言した事を受けてポンドが急伸。ユンケル委員長はアイルランド国境問題を巡り「目的が全て達成されるのであればバックストップ(安全策)は必要ない」との認識も示した。
なお、この日英中銀(BOE)は政策金利(0.75%)と資産買入れプログラムの規模(4350億ポンド)の据え置きを決定。議事録では決定がいずれも全会一致(9対0)であった事が明らかになった他、円滑なブレグジットおよび世界経済が回復すれば、限定的で段階的な利上げが必要になるとの見解が示された。
24日
英最高裁は、ジョンソン英首相が決定した議会閉会を「違法」と判断するとともに、可及的速やかに議会を再開するよう求めた。これを受けて10月末に「合意なき離脱」が実現する可能性が低下したとの見方が広がりポンドが上昇した。
ただ、その後は米下院議長がトランプ米大統領に対するウクライナ圧力疑惑で弾劾調査を開始すると報じられたためリスク回避の円買いによってポンド/円は上げ幅を縮小した。
25日
ジョンソン英首相による議会閉会措置が「違法」と判断された事によりこの日から英下院が再開。政局の混乱が懸念される中、ポンドは下落。なお、ジョンソン首相は議会に出席し「政府に不信任案を出してみろ」と野党を挑発した。
27日
BOEの金融政策委員会(MPC)の中でもタカ派と目されるソーンダース委員が「Brexitがスムーズでも利下げが必要になる可能性がある」と発言した事が伝わりポンド売りが強まったが、四半期末を控えたポジション調整などから下げ渋った。
9月の各市場
9月のポンド/円ポジション動向
10月の英国注目イベント
ポンド/円 10月の見通し
英国が欧州連合(EU)を離脱する期日が10月31日に迫っている。英政府とEUが結んだ離脱協定案を10月19日までに議会で承認できなければ、3カ月の離脱延期をEUに申請する事を政府に強制する内容の「離脱延期法」が9月に成立したため、10月31日に「合意なき離脱」が実現するリスクは差し当たって低下している。ただし、ジョンソン英首相は「離脱延期法」を無視して離脱する方法を模索しているようで予断は許さない。
報道によれば、ジョンソン首相はEUに対し、英国の離脱再延期を選択肢から外すよう要請している模様だ。つまり、自らが離脱延期要請を提出しても、これを認めないよう訴えている事になる。いずれにしても「合意あり離脱(ソフトブレグジット)」の目は薄いといわざるを得ない。
こうした中、10月のポンド/円相場は英国のEU離脱=Brexitを巡るニュースヘッドラインに振り回されて激しく上下する可能性があるため注意が必要だろう。2日には英保守党大会でジョンソン首相が演説を行う予定であり、上旬には離脱協定案の争点であるアイルランド国境を巡るバックストップ(安全策)条項に関する代替案が英国からEU側に提示される見込みだ。
少なくとも17-18日のEU首脳会議までは、ジョンソン首相対英議会、ジョンソン首相対EUのバトルが繰り広げられる公算が大きく、ポンド/円の振れ幅も大きくなりそうだ。
一方、仮に離脱の再延期が決まればポンドが上昇する事も考えられるが、その場合はジョンソン首相が解散総選挙に打って出る可能性が高まるため、継続的な上昇は期待しにくいだろう。(神田)
豪ドル/円
豪ドル/円の基調と予想レンジ
豪ドル/円 9月の推移
9月の豪ドル/円相場は71.091~74.490円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約1.9%の上昇(豪ドル高・円安)となった。
9月1日付で米中が相互に関税を発動した事を受けて下げて始まったが、71円台前半では底堅く、その後は右肩上がりで反発。米中通商協議の再開が決まった事や米国が対中関税の一部引き上げを2週間延期した事などから両国の対立激化懸念が和らぐと13日には74.49円前後まで上伸。
しかしその後は、豪8月雇用統計で失業率が上昇した事などが豪中銀(RBA)の10月利下げ観測を強めたため反落。下げ一巡後は、月末・四半期末を控えて手控えムードが広がる中、72円台後半を中心にもみ合った。
3日
豪中銀(RBA)は予想通りに政策金利を1.00%に据え置いた。声明では「理事会は、労働市場を含む動向を引き続き監視し、必要に応じて金融政策をさらに緩和し、経済の持続的成長と長期的なインフレ目標の達成を支援する」として、これまでのスタンスを踏襲。
10月の追加利下げを示す直接的な手掛りがなかったとの見方から豪ドルに買い戻しが入った。なお、豪ドルはこれ以前に発表された豪7月小売売上高が前月比-0.1%と予想(+0.2%)に反して減少した事で売られていた。
4日
豪4-6月期国内総生産(GDP)は、前期比+0.5%、前年同期比+1.4%となった。予想通りの伸びとなった事で10月利下げの思惑が後退すると豪ドルが上昇した。その後、中国8月財新サービス業PMIが52.1となり、市場予想(51.7)を上回ると、豪ドルはもうひと伸びした。
5日
米中は、10月前半にワシントンで閣僚級通商協議を開催する事に合意。9月半ばに準備協議を行う他、双方が良好な環境づくりに取り組む事で合意した。これを受けて米中の対立懸念が和らぐと、対豪ドルを中心に円売りが優勢となった。
なお、その後に発表された豪7月貿易収支は72.68億豪ドルの黒字となり、黒字額が予想(70.00億豪ドル)を上回った。
12日
トランプ米大統領は10月1日に発動を予定している対中関税の引き上げを10月15日まで延期するとツイッターで発信。これを受けて米中対立懸念が和らぐと豪ドル買い・円売りが強まった。
その後、米中通商問題を巡り、米大統領顧問らが追加関税の一部先送りや撤回につながる暫定合意案の提示を検討したとの一部報道を受けて再び円売りに傾いたが、ホワイトハウスがこの報道を否定すると伸び悩んだ。
17日
RBAは9月理事会の議事録を公表。「賃金上昇率の上向きトレンドは勢いを失った模様」とし、「必要に応じて追加緩和を行う」と改めて表明した。
19日
豪8月雇用統計は新規雇用者数が3.47万人増、失業率は5.3%であった。新規雇用者数は予想(1.50万人)以上の伸びとなったが、内訳で正規雇用が1.55万人減少(非常勤雇用が5.02万人増)していた事が判明。
失業率は労働参加率の上昇もあって予想(5.2%)を上回る5.3%に悪化した。これを受けてRBAの10月利下げ観測が高まると豪ドル売りが強まった。
24日
ロウRBA総裁は講演で「低金利や減税、豪ドル安などを背景に成長率が緩やかに上昇すると予想」「堅調な雇用増加はインフレに関係なく維持できるだろう」などと豪経済に前向きな見方を示した。
一方で、「さらなる金融緩和が必要である可能性」「来月の会合では再び証拠を蓄積するだろう」などとも述べた。
25日
トランプ米大統領がNYの国連本部で「中国との合意は、あなた方が考えているよりも早く実現するかもしれない」と発言した事を受けて豪ドル/円は一時上昇。ただ、米株や米朝金利が上昇する中、ドル高・豪ドル安に振れたため失速した。
9月の各市場
9月の豪ドル/円ポジション動向
10月の豪州・中国注目イベント
豪ドル/円 10月の見通し
豪中銀(RBA)は10月1日の理事会で政策金利を史上最低の0.75%に引き下げた。声明では「労働市場などの動向を引き続き監視し、経済の持続的成長と完全雇用、長期的なインフレ目標の達成を支えるために、必要に応じて金融政策をさらに緩和する」とこれまでのスタンスを維持した。
これを受けて豪政策金利先物は11月5日の追加利下げを4割強、12月3日の追加利下げを6割強織り込んだ水準で推移。17日の豪9月雇用統計の結果が、市場の追加利下げに対する見方を変える可能性はあるが、金融政策の面からは豪ドル高を見込みにくい地合いが続きそうだ。
他方、米中通商摩擦問題も豪ドル相場にとってはきわめて重要だろう。10-11日にはワシントンで閣僚級通商協議が行われる予定となっている。3カ月ぶりの協議とあって急転合意は期待しにくいが、世界経済への影響の大きさなどを考慮して完全決裂もない見込みで、協議継続の確認などが落としどころであろう。
そうした中、まずは15日に控える米国の対中関税引き上げ(2500億ドル相当の中国製品への課税を25%から30%へ)を回避できるかが、豪ドル相場にとって喫緊のポイントとなりそうだ。仮に、関税引き上げを回避できなかった場合は、利下げ観測とのダブルパンチで豪ドル安が進む可能性もあるため注意が必要だろう。(神田)