ポンド/円
ポンド/円の基調と予想レンジ
ポンド/円 8月の推移
8月のポンド/円相場は126.545~132.551円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約2.3%下落(ポンド安・円高)した。
トランプ米大統領が1日に対中関税第4弾を発表すると132円台で推移していたポンド/円は130円台に下落。その後も米中の対立激化を背景に売り優勢の展開が続き、12日には126.50円台まで下落して2016年11月以来の安値を付けた。
ただ、その後はジョンソン英首相が就任後初の外遊を行うなど、英国の欧州連合(EU)離脱=Brexitを巡る動きが再開するとポンドは持ち直した。
メルケル独首相をはじめとするEU首脳が、離脱条件などの再交渉に従来より柔軟な姿勢を示した事で「合意なき離脱」への懸念が多少和らぐと一時130円台を回復した。
もっとも、ジョンソン首相が、「合意なき離脱」を阻止しようとする英議会の動きを封じるために、女王陛下に働きかけて10 月半ばまで議会を休会に追い込んだ事などから先行きの不透明感が広がる中、ポンドの上値は重かった。
1日
英中銀(BOE)は政策金利を0.75%に据え置き、資産買い入れプログラムの規模も4350億ポンドに据え置いた。議事録では決定が全会一致(9対0)であった事が明らかになった。また「緩やかで限られた利上げが適切だが、世界景気の回復や円滑なBrexitが必要」との見解を示した。その他、インフレレポートでは2019年と20年の成長見通しを1.3%に下方修正。カーニー総裁は会見で「合意なき離脱の可能性が増している」 「世界的な貿易システムの未来の不確実さと、Brexitが英国経済の重荷になっている」 などと発言した。
5日
中国人民元安の進行を受けてリスク回避の円買いが先行したが、英7月サービス業PMIが51.4と予想(50.3)を上回り、前回(50.2)から上昇するとポンドが買われ、ポンド/円は持ち直した。
13日
英7月失業率は3.2%、同失業保険申請件数は2.80万件であった(前回:3.2%、3.14万件)。また、4-6月失業率(ILO方式)は3.9%となり(前回:3.8%、予想3.8%)、4-6月週平均賃金は前年比+3.7%(前回:+3.5%、予想:+3.7%)であった。その後、中国が米中が閣僚級電話会談を行った事を明らかにした他、米国が対中関税第4弾の発動を一部延期した事を受けて米中貿易戦争激化への懸念が和らぎ円売りが強まった。
14日
英7月消費者物価指数は前月比±0.0%、前年比+2.1%となり、予想(-0.1%、+1.9%)を上回った。英7月生産者物価指数も前年比+1.8%と予想(+1.7%)を上回った。
15日
英7月小売売上高が前月比+0.2%と予想(-0.2%)に反して増加した事や、英最大野党・労働党のコービン党首が「合意なき離脱」を防ぐため、ジョンソン内閣不信任案を早期に提出する方針を固めた事などからポンドが上昇する場面があった。
19日
前週末に英紙が、「合意なき離脱」となった場合に英国で食料や医薬品が不足する事態に陥るとの政府資料を掲載。また、ジョンソン英首相はこの日、欧州連合(EU)のトゥスク大統領に書簡を送り、現行の離脱協定案からアイルランド国境問題のバックストップ(安全策)条項を削除するよう要請した。
20日
欧州委員会は、アイルランド国境を巡るバックストップ(安全策)条項は協定案の不可欠な部分だとしてジョンソン氏の前日の書簡での修正要求を一蹴。これを受けてポンドが下落した。しかしその後、メルケル独首相が「EUはBrexitへのアプローチで団結しており、バックストップに対する実務的な解決策を考える」 と述べた事が伝わるとポンドが急反発した。
22日
メルケル独首相が、Brexitについて「10月31日までにアイルランド国境のバックストップ(安全策)に関する解決策を見つける事ができる」 と述べて楽観的な見方を示すとポンドが急騰。一方、マクロン仏大統領は英国のジョンソン首相との首脳会談に先立ち「現行の離脱協定案と非常に内容の異なる新たな合意案を、我々が30日以内に見出す事はない」と述べた。
28日
英BBCの政治エディターが「女王陛下は早ければ本日中に議会休会の要請を受ける可能性がある」とツイート。「合意なき離脱」阻止に向けた議会の動きを封じ込める狙いと見られ、市場はポンド売りで反応。その後、ジョンソン英首相は9月9日の週から10月14日まで議会を休会にする事を模索中だと明らかにした。
8月の各市場
8月のポンド/円ポジション動向
9月の英国注目イベント
ポンド/円 9月の見通し
英国の欧州連合(EU)離脱=Brexitの期日が10月31日に迫る中、市場がリスクシナリオと強く認識している「合意なき離脱」を避けるためには、(1)ジョンソン英政権とEUが離脱条件の見直しに合意する、あるいは、(2)英議会が「合意なき離脱」を阻止するための法案を可決する事が必要となる。ジョンソン首相が、自らの意思で離脱期日を延長する事はないと言明しているためだ。
(1)については、懸案のアイルランド国境問題の具体的解決策をジョンソン政権がEU側に提示する事を求められている。その期限は9月20日前後と見られるが、メイ前政権が議論を尽くしてきた経緯を考えると妙案は乏しく、たとえ提出してもEU側の合意が得られる公算は小さい。
(2)に関しては、ジョンソン英首相が英議会を9月9日頃から10月13日まで休会にする事を決めた事で時間との戦いになってきた。報道によると、9月3日からの僅かな会期中に英議会の親EU派は、EU離脱を2020年1月末まで延期する事を目指して法案化を急いでいるとの事だ。与党保守党内にも親EU派が存在するため、採決に持ち込めれば可決の可能性はあると見られている。ただ、ジョンソン首相はこの法案が可決すれば早期の総選挙を実施する可能性を示唆しており、先行きに対する不透明感は一段と増している。
こうした状況ではポンドに下落圧力がかかりやすいと見られ、ポジティブなニュースに一時的に上昇する事はあっても上値は重いだろう。132円台に下降してきた13週移動平均線がポンド/円の上値抵抗となりそうだ。
一方、8月12日に付けた2年9カ月ぶり安値の126.55円前後を下抜ければ125円台割れも視野に入りそうだ。(神田)
豪ドル/円
豪ドル/円の基調と予想レンジ
豪ドル/円 8月の推移
8月の豪ドル/円相場は69.962~74.853円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約3.9%の大幅下落(豪ドル安・円高)となった。
豪ドルは米中貿易戦争を巡る両国の動きに振り回される格好で軟調に推移。米国が対中関税第4弾の発動を一部延期した13日には73円台目前まで反発したが、戻りは続かず、26日には約10年ぶりに一時70円台を割り込んだ。
前営業日に中国が対米報復関税を発表すると米国は関税上乗せで対抗するなど、貿易戦争がエスカレートした事でリスク回避の動きが強まった。その後はやや値を戻したが72円前後で頭打ちとなった。
1日
トランプ米大統領は、これまで制裁の対象外としていた中国からの輸入品3000億ドル相当に9月1日から10%の関税を課 すと発表。これを受けてNYダウ平均が下落に転じると円買いが活発化。なお、トランプ大統領はツイッターで「習首席は行 動が遅い」「中国は自国通貨を安く誘導している」などと中国を批判した。
5日
人民元相場が、1ドル=7.00元を超えて下落するとリスク回避の動きが強まった。中国は、市場が米中貿易摩擦や弱い経済成長率を巡る懸念を織り込めるよう7.00元を超える元安を容認した事を明らかにした上で、国有企業に対し米国産の農産物輸入を停止するよう要請。市場では、中国が通貨安政策で米関税に対抗する構えを示したとの見方が広がった。
6日
米財務省が中国を「為替操作国」に認定したと発表すると米中貿易戦争の激化が懸念され豪ドル売りが強まった。しかし、中国当局が発表した人民元の対ドル基準値(6.9683元)が予想ほど元安水準ではなかったため、対立懸念が和らぎ豪ドルは急反発した。
なお、豪中銀(RBA)は予想通りに政策金利を1.00%に据え置いた。声明では「経済の持続的成長と長期にわたるインフレ目標の達成を支援するために、必要であればさらなる金融緩和を行う」として前回のスタンスを踏襲した。
13日
中国は、劉副首相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表らが通商問題を電話で協議した事を発表。合わせて、米中両国は2週間以内に再度電話で協議する事も明らかにした。直後に米国は、9月1日に発動予定の対中関税の対象のうち、玩具や携帯電話など一部の品目への課税を12月15日まで延期すると発表。これを受けて豪ドル高・円安が加速した。
15日
豪7月雇用統計は、新規雇用者数が4.11万人増と予想(1.40万人増)を上回る好結果となった。失業率は予想通りの5.2% であったが、労働力人口に占める働く意欲を持つ人の割合を示す労働参加率は66.1%に上昇した(前回:+66.0%)。
20日
RBAは8月理事会の議事録を公表。「必要であれば追加緩和も検討する」「低金利が長期に渡って続くと予想することは妥当」「非伝統的な金融政策を導入した先進国の事例を検討した」などとした。
23日
中国は米国による対中関税第4弾への報復措置として、750億ドル相当の米国製品に5-10%の追加関税を9月1日と12月15日の2段階で発動すると発表。
その後、トランプ米大統領は「米企業に対し、中国の代替先を即時に模索するよう命じる」などとツイート。また、中国の対米関税についてこの日の午後に対応策を発表する意向を明らかにした。これを受けて米国株が下落する中、豪ドル/円の下げに弾みが付いた。
なお、NY市場終了後にトランプ大統領は、発動済みの2500億ドル相当の中国製品への関税を30%に、9月に発動予定の3000億ドル相当については15%に、それぞれ5%引き上げるとした。
26日
前週末の米中による関税引き上げの応酬を受けて週明けのオセアニア市場は円買い優勢でスタート。トルコリラ/円の10%を超える急落の余波もあって豪ドル/円は約10年ぶりに一時70円台を割り込んだ。
29日
中国商務省は「米中は9月の訪米に関して協議している」などと発表。その上で米国の関税引き上げに報復しない方針を示唆した事を受けて米中貿易戦争激化への懸念が和らぎ、豪ドルが上昇。トランプ米大統領がラジオインタビューで、9月の米中協議は実現するのか、との問いに「異なるレベルでの協議が本日予定されている」と答えた事も支援材料になった。
8月の各市場
8月の豪ドル/円ポジション動向
9月の豪州・中国注目イベント
豪ドル/円 9月の見通し
世界的に長期金利の低下基調が鮮明化する中、8月は米債市場を中心に長短金利が逆転する「逆イールド」が話題となったが、豪州でも10年債利回りが政策金利(翌日物金利:1.00%)を下回る0.8%台に低下している。こうして市場が利下げ観測を強める中ではあったが、豪中銀(RBA)は8月に続き9月3日の理事会でも政策金利を据え置いた。
ただ、「必要に応じて」利下げを行うとのスタンスは維持しており、市場の利下げ観測を否定するには至らなかった。米連邦公開市場委員会(FOMC)の9月利下げが確実視される中、豪ドル高を警戒するRBAとしては、市場の利下げ観測はむしろ歓迎すべき動きと言えるだろう。
9月の豪ドル/円については、金融政策の面(金利面)からの支援材料が期待しにくい中、米中貿易戦争の終結に向けた兆しがあれば大きく反発すると考えられるものの、9月の閣僚級通商協議の日程調整すらままならない現状を踏まえれば期待薄だろう。米中の対立がこれ以上激化する事はなくても沈静化する事もない、という状況では豪ドルの上値は重いままと考えざるを得ないだろう。(神田)