
ドル/円の1月見通し 「円最弱、金利差縮小でもドル安でも」
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也
ドル/円 の基調と予想レンジ
基調
強含み
予想レンジ
154.000-160.000円
ドル/円12月の推移
12月のドル/円相場は154.343~157.768円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約0.3%上昇した(ドル高・円安)。前半は、雇用情勢悪化をめぐる懸念などを背景に米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが意識された一方、日銀の利上げに関する観測報道が相次いだことから上値の重い展開となった。しかし154円台では下値が堅く、5日の154.34円前後を1番底、16日の154.40円前後を2番底として下げ止まった。19日には日銀が利上げを決めたものの、織り込み済みだった上に今後の利上げの時期やペースについて具体的な示唆がなかったことから1日で2円以上もの円安が進み157.77円前後まで急伸した。その後は、片山財務相などが円買い介入の実施をほのめかして円安の動きをけん制したため伸び悩んだが、高市政権の財政悪化をめぐる懸念などを背景に円の上値は重かった。155円台で下げ渋ると月末・年末に向けて緩やかに切り返し、156.68円前後で2025年の取引を終えた。なお、12月のドルは総じて軟調だったが、円はそれ以上に弱かったため小幅に上昇。月足は4カ月連続の陽線となったが、年足では5年ぶりに陰線引けとなった。
ドル/円 日足チャート

ドル/円12月の四本値
始値 156.081 高値 157.768 安値 154.343 終値 156.677
1日
日銀の植田総裁は講演で「実質金利がきわめて低い水準にある」として利上げの必要性に言及。その上で「政策金利を引き上げると言っても、緩和的な金融環境の中での調整だ」「景気にブレーキをかけるものではない」と述べた。さらに「次回の決定会合で、利上げの是非について、適切に判断したい」と言明した。
3日
米11月ADP全国雇用者数は3.2万人減と市場予想(1.0万人増)に反して減少。一方、米11月ISM非製造業景況指数は52.6と市場予想(52.0)に反して前月(52.4)から上昇し、9カ月ぶりの高水準となった。
9日
米10月JOLTS求人件数は767.0万件と市場予想(711.7万件)を大幅に上回った。米政府閉鎖の影響で発表が遅れていた9月分の求人件数も同時に発表され、765.8万件とこちらも市場予想(719.8万件)を大幅に上回った。
10日
米連邦公開市場委員会(FOMC)は政策金利であるFF金利の誘導目標レンジを3.75-4.00%から3.50-3.75%へと25bp(0.25%ポイント)引き下げた。声明で「FF金利に対する『追加調整の程度と時期を検討するに当たり』、今後もたらされるデータ、変化する見通し、リスクのバランスを慎重に評価する」と表明。前回は『追加調整を検討するに当たり』としていた文言を修正し、利下げを一旦停止する可能性を示唆した。同時に発表された政策金利見通し(ドットチャート)では、2026年の利下げが1回(25bp)のみとなり、前回(9月)の予測から変更がなかった。パウエルFRB議長はその後の会見で「政策金利を昨年9月以降に1.75%引き下げた結果、政策金利は推定される中立金利のレンジ内にあり、今後の景気動向を見極めていく体制が整っている」と発言。労働市場については「著しい下振れリスクがあるようだ」とした一方で、物価情勢については「インフレリスクは上方向に傾いている」と語った。その上で「金融政策はあらかじめ決められた道筋にあるわけではなく、会合ごとに判断を下していく」と強調した。
16日
米11月雇用統計は失業率が4.6%となり、2021年9月以来の水準に悪化(予想4.5%)。中でも10代の若年層や黒人層の失業率が急上昇した。一方、非農業部門雇用者数は6.4万人増と市場予想(5.0万人増)をやや上回った。平均時給は前年比+3.5%と市場予想(+3.6%)を下回る伸びにとどまった。
18日
米11月消費者物価指数(CPI)は前年比+2.7%と市場予想(+3.1%)を大幅に下回った。食品とエネルギーを除いたコアCPIも前年比+2.6%と予想(+3.0%)を下回った。ただ、CPIは政府機関閉鎖によって前月分のデータが欠落した上に、今回の調査期間が例年より遅い時期にずれ込んだことなどから、統計の正確性が疑問視された。
19日
日銀は予想通りに政策金利を0.50%から0.75%に引き上げた。声明では、利上げ後も「実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持されるため、引き続き経済活動をしっかりとサポートしていくと考えている」と強調。その上で「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」として利上げを継続する方針を示した。植田総裁はその後の会見で、景気を熱しも冷ましもしない中立金利について「推計は相当なばらつきがあり、前もって特定は難しい」と発言。現在の政策金利の水準は「推計された中立金利の下限にはまだ少し距離がある」として、今後も利上げに動く余地があると示唆したものの、中立金利の水準に関する具体的な言及は避けた。また、追加利上げの時期やペースについても「今後の経済・物価・金融情勢次第」と述べて明言しなかった。
22日
片山財務相は足元の円安について「ファンダメンタルズに基づかない投機的な動き」と指摘し、「為替介入を含めた行動を取れるということは、日米財務相間の合意事項であり、『フリーハンド』がある」との見解を示した。また、9月の日米財務相共同声明に基づき「断固として措置を取る、アクションを取る、ということを申し上げている」と語った。
23日
政府機関閉鎖の影響で発表が遅れていた米7-9月期国内総生産(GDP)・速報値は前期比年率+4.3%と市場予想(+3.3%)を大幅に上回り、4-6月期(+3.8%)から予想外に伸びが加速した。GDPの約7割を占める個人消費は前期比年率+3.5%と予想(+2.7%)を上回った。一方、米12月消費者信頼感指数は89.1と市場予想(91.0)を下回り、8カ月ぶりの水準に落ち込んだ。
29日
日銀は18~19日に開いた金融政策決定会合における主な意見を公表。9人の政策委員からは「今後も適切なタイミングで金融緩和度合いの調整が必要だ」との声が挙がった。委員の一人は「日本の実質政策金利は群を抜いて世界最低水準」と指摘。別の委員は、低い実質金利が「円安や長期金利の上昇に影響している面が相応にある」とし「適時の利上げが先々のインフレ圧力を抑制し、長期金利の抑制につながりうる」と主張した。また、ある委員は景気を熱しも冷ましもしない中立的な金利水準までは「まだかなりの距離があると言える」と指摘した上で「当面は数カ月に1回のペースを念頭に利上げすべきだ」と主張した。
30日
FRBが公表した9~10日のFOMC議事録によると、最終的に利下げに賛成した参加者からも、米経済が直面するさまざまなリスクを踏まえると「政策金利誘導目標レンジを据え置くことも支持できた」との認識が示されるなど、決定は微妙なものだったことがあらためてわかった。一部の参加者は、雇用創出の鈍化を受け「労働市場の安定に寄与する」先行的な戦略として、利下げは適切だと主張した一方、一部の参加者はインフレ目標に向けた「進展が停滞している」との懸念を表明。「今回の会合で利下げを決めた後も、一定期間はFF金利誘導目標レンジを据え置くことが適切になる」との指摘もあった。
各市場 12月の推移

1月の日・米注目イベント

ドル/円の1月見通し
1月22~23日に開催される日銀金融政策決定会合と、1月27~28日に行われる米連邦公開市場委員会(FOMC)では、いずれも政策金利の据え置きが決まる可能性が高そうだ。昨年12月は、日銀が利上げを行った一方、FOMCが利下げを実施。日米の政策金利差は一気に50bp(0.50%ポイント)縮小したにもかかわらずドル高・円安に振れた。1月は金利差が縮小しない公算が大きいことから、他の条件が一定なら12月以上にドル高・円安が進むことも考えられる。ドル/円は2025年高値の158.87円前後を上抜けて160円の節目を意識した展開になる可能性もありそうだ。仮に一定ではない他の条件が発現するとすれば、①米国景気にブレーキがかかり、インフレ鈍化とともに雇用情勢が急激に悪化する場合、②次期FRB議長として金融緩和に積極的な人物が指名されるケース、③政府・日銀が円買い介入を実施する場合、などが挙げられる。①に関しては、1月9日に発表される米12月雇用統計や13日の米12月消費者物価指数(CPI)などの結果に注目が集まるが、雇用情勢については11月以降に新規失業保険申請件数など一部のデータに改善が見られる。そうした中で12月雇用統計が大幅に悪化して米国の景気不安が急速に高まる可能性は低いと見ておきたい。②のFRB議長人事については、トランプ大統領が1月中に指名する方針を示しており、候補はハセット国家経済会議(NEC)委員長、ウォーシュ元FRB理事、ウォラー現FRB理事の3人に絞られたとされている。市場が本命視するのはトランプ大統領に最も近いハセット氏で、指名されればFRBの独立性が脅かされるとの懸念もある。ただし、最有力視している以上、市場は「ハセットFRB議長」をある程度織り込んでいると考えられる。指名後は、5月以降の実際の政策運営を見極めたいとのムードが広がりやすいだろう。③の円買い介入については、前回(2024年7月)の介入水準である161円台以下で実施される公算は小さいと見ており、さらには1日に2~3円などの急激なペースで円安が進行した場合に限られるだろう。
株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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