
このレポートの概要:米国株式市場と外国為替市場の最新動向と分析
金融マーケットで永く情報発信を行っている田嶋智太郎氏が、米国株式市場の最新動向を詳しく解説します。
なおも市場はリスクテイクに前向き
先週最大の注目イベントであった米連邦公開市場委員会(FOMC)は、事前の市場予想通りに0.25%ポイントの利下げ実施を決定し、参加メンバーらの金利予想(ドット・プロット)では年内の利下げ回数を「あと2回」とする回答が目立った。大方予想されていた通りの決定内容となったことから、本来であればここで一旦材料出尽くし感が漂ってもおかしくはないところである。しかし、米株市場では週末にかけて主要3指数が一段の上値を追う展開となり、19日の終値はともに史上最高値を更新した。なおも米国経済が成長を続けるなか、米連邦準備理事会(FRB)が緩和サイクルを再始動させたのであるから、市場がリスクテイクに前向きな姿勢を続けるのも頷けなくはない。
米当局は思いのほか利下げに慎重?
ただ、やや異常とも思われるほど強い米株価の上昇を踏まえ「そろそろ一旦調整の場面を迎えてもおかしくない」と見る向きも少なくない。パウエルFRB議長が今回の利下げを「リスク管理のための(保険的な)もの」と位置付けたことで、市場には「議長は利下げに慎重」と捉える向きもある。また、あらためてFOMCの声明文を確認すると、今回0.25%ポイントの利下げに反対したのがトランプ大統領の指名を受けて前日に就任したミラン理事ただ1人だったという事実に違和感を抱いた向きもあろう。
膨らむ米株価のバリュエーション
欧米の金融機関は米株価の上値目標の修正を迫られ、ここにきて揃ってその見通しを引き上げているが、先週末時点におけるS&P500種の水準はすでに修正後の目標値を上回っている。米ゴールドマン・サックスは見通しの前提となる予想PERを従来の20.4倍から22倍に変更した模様だが、足元の水準はもはやそれを超えている。これまでの米テクノロジー株人気がひとたび勢いを失ったとき、足元で膨らんだバリュエーションを正当化することが難しくなる局面というのも遅かれ早かれ訪れることとなろう。以前から述べてきている通り、筆者は「今月から来月あたりにかけて米主要3指数に一定の調整を交える局面が訪れる」との見方を変えていない。
関税の悪影響はこれから発現
先週16日に発表された8月の米小売売上高が事前予想を上回って3カ月連続の増加となったことも市場に一定の安心感をもたらしているようであるが、足元の米消費の堅調さの背景には一つに「まだ関税の影響が価格にダイレクトに反映されていない」ことがあると見られる。そして、そのことは「今秋以降に相次ぐと思われる価格改定(値上げ)の前に買い溜めしておこう」とする向きが少なくないことによって、一時的にも米小売売上高が支えられているということも暗に示していると見る。
米国の生産者物価指数(PPI)や消費者物価指数(CPI)の足元の数値からは、今のところ「BtoBでもBtoCでも価格転嫁があまり進んでいない」ことが露わになっており、そうした米企業の“企業努力”は近い将来において限界に達しかねない。つまるところ、今回のFRBによる利下げ実施の決定は、単に「米雇用の下振れリスクに対する“保険”」に留まらず、これから確実に訪れる米国の景気悪化局面に対する“備え”でもあると見るのが適切なのではないかと思われる。
日銀による10月利上げの可能性は封印できず
FRBによる年内の利下げは「あと2回」の可能性が濃厚となっており、もはや利下げサイクル終了の公算が大きいと見られている欧州中央銀行(ECB)や英国中央銀行(BOE)の政策とのコントラストは、いまやかなり鮮明となっている。まして、日銀はいまだに利上げ路線を崩してはいない。先週の日銀会合後の会見で、植田総裁は「もう少しデータを見たい局面にある」としていたが、市場関係者の中には「必ずしも10月利上げの可能性を否定するものではなかった」と見る向きも少なくない。
しかるに、当面は対ドルでユーロやポンドが一時的にも弱含む場面があれば、すかさず押し目買い入れる算段で臨みたい。逆に、ドル/円については148円台後半の水準で戻り売りを仕掛ける姿勢で臨みたいと個人的には考える。

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田嶋智太郎氏
経済アナリスト 慶應義塾大学を卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経て、経済アナリストに転身。現場体験と綿密な取材活動をもとに、金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産掲載まで幅広い範囲を分析・研究。 WEBサイトで経済・経営のコラム執筆を担当し、株式・外為・商品などの投資ストラテジストとしても高い評価を得ている。 また、「上昇する米国経済に乗って儲ける法」など書籍も手掛けるほか、日経CNBCレギュラーコメンテーターも務める。
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