【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ドル/円
・ドル/円の基調と予想レンジ
・ドル/円 11月の推移
・11月の各市場
・11月のドル/円ポジション動向
・12月の日・米注目イベント
・ドル/円 12月の見通し
ドル/円
ドル/円の基調と予想レンジ
ドル/円 11月の推移
11月のドル/円相場は149.466~156.746円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約1.5%下落(ドル安・円高)した。1日発表の米10月雇用統計は南部を襲ったハリケーンやボーイング社のストライキの影響で冴えなかったものの、米大統領選で法人・所得減税や関税強化などインフレ再燃につながる政策を掲げる共和党のトランプ氏が勝利すれば長期金利に上昇圧力がかかるとの見方が強くドルは底堅く推移した。5日の大統領選で実際にトランプ氏が勝利するとドル高・円安が進行。14日のNY市場終盤に米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が追加利下げにいくぶん慎重な姿勢を示すと翌15日の東京市場で156.75円前後まで上伸し、7月23日以来の高値を付けた。ただ、その後はウクライナ情勢を巡る地政学リスクや、日銀の12月利上げ観測がやや高まったことなど背景に上げ幅を縮小。28日からの米感謝祭休暇を前にした持ち高調整と見られるドル売り・円買いが強まると27日には150円台へと軟化して月間で下落に転じた。29日もトランプ・トレードの巻き戻しと見られる米長期金利の低下とドル売りで下落していたところに、植田日銀総裁の「一段の円安、リスク大きい」とする発言が伝わると10月21日以来となる149.47円前後まで下値を拡大した。
始値 | 高値 | 安値 | 終値 |
151.986 | 156.746 | 149.466 | 149.704 |
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
1日
米10月雇用統計は非農業部門雇用者数が1.2万人増にとどまり市場予想(10.0万人増)を下回った。失業率は横ばいの4.1%で予想通り。平均時給は前月比+0.4%、前年比+4.0%と堅調な伸びとなった(予想+0.3%、+4.0%)。米南部を襲ったハリケーンやボーイング社のストライキの影響で雇用が制限されたとの見方から、非農業部門雇用者数の下振れは材料視されなかった。
6日
米大統領選の開票が進む中、激戦州の多くで共和党のトランプ候補が優勢となり、米長期金利ととともにドルが上昇。その後、トランプ氏は「米国がかつて見たことのない政治的勝利だ。米国の全てを直していくつもりだ。米国を再び偉大な国にする」と勝利宣言を行った。ホワイトハウスに加え上下院ともに共和党が支配する「トリプル・レッド」の可能性が高まる中でその後もドルが高止まりした。
7日
米連邦公開市場委員会(FOMC)は予想通りに政策金利を「4.75-5.00%」から「4.50-4.75%」へ引き下げた。声明では、「より長期にわたって最大限の雇用と2%のインフレを達成することを目指す」とし、前回「インフレが持続的に2%に向かいつつあることに『自信を深めている』」との表現を修正した。これについて、パウエルFRB議長は記者会見で「インフレの粘着性について何かを示唆するものではない」と説明した上で「政策スタンスの調整により、インフレ率が2%に持続的に低下すると引き続き確信している」と表明。パウエル議長はまた、「インフレ目標を達成するために労働市場のさらなる減速は必要ない」「労働市場が悪化した場合、より迅速に行動する可能性がある」「(利下げの)ペースを落とす状況に至る可能性もある」と労働市場の動向を注視する姿勢をあらためて示した。
14日
パウエルFRB議長は「経済は、利下げを急ぐ必要性についていかなるシグナルも発していない」と述べ、「現在、我々が目にしている経済の強さにより、慎重な決定を行うことが可能になっている」と発言。これを受けてFRBが12月のFOMCで利下げを見送るとの観測が改めて浮上した。
19日
ロシアのプーチン大統領が「核ドクトリン」の改定を承認し、核兵器の使用基準を緩和したことが伝わると、リスク回避の円買いが強まった。ロシアの決定は、米国がウクライナに対しロシア領内への長距離ミサイル攻撃を限定的ながらも許可したことへの対抗措置。なお、ウクライナはこの日、米国から供与された長距離地対地ミサイル「ATACMS」を使用し、ロシア西部の兵器庫を攻撃した。
21日
日銀の植田総裁はフランス大使館主催のイベントで12月会合について「現時点で会合の結果を予測するのは不可能だ」とした上で「まだ1カ月程度ある。それまでの期間に非常に多くのデータや情報が利用可能となるだろう」と発言。市場は12月利上げの可能性を排除できなくなったと受け止めた。
25日
前週末23日にトランプ次期米大統領が次期財務長官に財政健全化に前向きと見られているスコット・ベッセント氏を指名。トランプ氏の掲げる減税や関税などの政策に一定の歯止めがかかるとの思惑が浮上した。
26日
トランプ次期米大統領は、就任初日にメキシコとカナダからの全ての輸入品に25%の関税を課し、中国からの輸入品に追加で10%の関税を課すとSNSで表明。不法移民や違法薬物取引を巡る懸念を理由に挙げた。その後、FOMC議事録が公表され「多くの参加者は、中立金利水準に関する不確実性が金融政策における景気抑制度合いの評価を複雑にしており、政策の引き締め具合を段階的に緩和することが適切だとの見解を示した」ことが明らかになった。
29日
日銀の植田総裁は日経新聞のインタビューで「中央銀行の立場からは、物価・経済見通しに為替レートがどういう影響を与えるかという点で考えるし、そこをポイントに政策運営する」と強調。その上で「インフレ率が2%を超え始めているときに一段の円安になればリスクが大きい動き」として「場合によっては対応しないといけなくなる」と述べた。
11月の各市場
11月のドル/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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12月の日・米注目イベント
ドル/円 12月の見通し
FEDウォッチによると米金利先物が示す12月利上げの確率は11月末時点で66.0%、一方、日本のオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)が示す12月利上げ確率は65.8%である。いずれも政策金利の変更を十分に織り込み切れているとは言えず、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げと日銀の利上げを巡る市場の見方が依然として定まっていないことを示している。17-18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)および18-19日の日銀金融政策決定会合に向けて、それぞれの金利変更に対する市場の見方は今後も変化すると見られ、それが12月のドル/円相場を動かす最大の要因となりそうだ。米国サイドではFOMCを前に、4日のパウエルFRB議長の講演と6日の11月雇用統計、11日の11月消費者物価指数(CPI)に注目。日本側では5日の中村日銀審議委員の講演、6日の10月毎月勤労統計(現金給与総額)、13日の日銀短観が注目されよう。12月のドル/円はこれら日米双方の材料に一喜一憂することになりそうだ。FRBは、雇用統計が予想外の強さを見せた上にCPIがよほど上振れしない限り25bp(0.25%ポイント)の利下げに踏み切ると見ている。この点においては市場が織り込み切れていない分だけドルには下落余地があると考えられる。他方、市場が日銀の12月利上げの織り込みを高めた11月27日のインタビュー記事で、植田総裁は日本経済が「オントラック」にあるとしつつも、今後の不確実要素として来年の春闘における賃金交渉とトランプ次期米政権の経済政策を挙げた。そうした中で12月に利上げを強行する可能性は低いと見ている。したがって、円は日銀金融政策決定会合に向けて下落する展開を予想。12月のドル/円はドル安と円安の綱引きになりやすいと見るが、金利市場でFRBの利下げより日銀の利上げ見送りを織り込む余地のほうが大きいことから、ややドル高・円安に振れるのではないかと予想する。
(予想レンジ:147.000~154.500円)
お知らせ:FX初心者向けに12時からライブ解説を配信
外為どっとコム総合研究所の調査部に所属する外国為替市場の研究員が、FX初心者向けに平日毎日12時ごろからライブ配信を行っています。前日の振り返り、今日の相場ポイントなどをわかりやすく解説しています。YouTubeの「外為どっとコム公式FX初心者ch」でご覧いただけます。
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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