先週、年末に向けて市場では大きな波乱は無いであろうとの勝手な見通しに基づいて、先週のレポートを本年最後とさせて頂きますと申し上げたが、先週の火曜日に青天の霹靂とも言える事が起きたので、急遽臨時レポートを書かせて頂きます。
晴天の霹靂を辞書で引くと“予想もしなかったような事件や変動が、突然起きること。”とある。
そしてそれは正に、“予想もしなかった様な事件。”となった。
日銀が19日~20日に開催した政策決定会合において長期金利を0%程度とする金利政策の変動幅を従来のプラス・マイナス0.25%から0.50%へと修正すると発表したのである。
市場は2013年から続いていた日銀の金融緩和政策の修正と捉えて当日10年物国債利回りは一時0.460%まで上昇し、ドル・円相場は137円台から133円台へと4円も急落した。
日経平均も670円近くも急落して引けた。
その後も10年物国債利回りは0.480%まで上昇し、ドル・円相場も130円台ミドル迄下落して何と1日で7円も下げると言う大相場を演じた。
(12月19日から26日午後2時までのドル・円相場・日足チャート)
塾長の知る限り、この日銀の決定を予想していた者はトレーダー、日銀・ウオッチャーと言われる優秀なエコノミストを含めて、誰一人居なかった。
それが晴天の霹靂と呼んだ謂れである。
今から考えると、予兆は有った。
それは先週のレポートでも述べた様に前週末に一部通信社が“岸田政権、2%物価目標の柔軟化検討。”と報じていたことで、咄嗟に“水面下で政府・日銀との共同声明(アコード)の見直しを始めたのか?”と思ったが、松野官房長官が“その様な方針を固めたことは無い。”と否定して市場は油断していた。
その代償は大きかった筈である。
金利低下を見越して債券を買い持ちにしていた人は多くは無かったろうが(債券価格が
上がると金利は低下する。)、株を持ちドルを買い持ちにしていた人は相当やられた筈である。
我が国個人投資家は僅かではあるが前週からドルの買い持ちを増やしており、シカゴ・IMM.も徐々に減らしつつあるとは言え、未だ相当額の円の売り持ち(ドルの買い持ち)ポジションを保持していた。
今回の日銀の決定はリスクを取っていた人達(株を買い、ドル・円をロングにしていた人達)にとってはとんでもないクリスマス・プレゼントとなってしまい、恨み節も聞こえてくるがタイミングとしては絶妙であったとも言えなくもない。
今回の決定を“市場に迫られ、止む無く修正。”との論評もあるが、実際10年物国債利回りは上限の0.25%に張り付くか、或いは取引が成立しない日が続き時間の問題で修正が行われることは皆知っていたものの、まさか年末の押し迫った此の時期にとは誰も考えなかった。
金利上昇を見越しての最大の債券の売り手であった海外の投機筋はクリスマスを控えてポジションを手仕舞っており、意表を突かれた。
そもそも変動幅を広げることを前もって市場に伝える訳も無く(理由は現在0.25%の物が翌日0.50%になるのなら誰もその債券を持ちたがらないどころか、売り払って債券のショートに行く筈である。)、突然のアナウンスメントしか出来ない。
為替に関してはこの決定でまさか7円も円高に動くとは予想も出来ず、してやられた感が漂う。
今回の修正は事実上の利上げと見ても良いのだろうが、黒田日銀総裁は“引き締め意図は無い。”と言い切る。
そして,“必要とあらば躊躇なく金融緩和を拡大していく。”と続けるが、市場は誰もその言葉を信じない。
興味深いのは今回の日銀の決定に関して官邸筋は全く知らされておらず、寝耳に水だったらしい。
中央銀行の利上げは政権与党が最も嫌う政策である。
支持率低迷に喘ぐ岸田首相が今回の決定に対して、“株価が下がり、迷惑千番。”とため息を付いたと聞く。
日銀は今回相当な数の政治家、リスクを取る市場参加者、そしてリスクを取らない評論家までをも敵に回したが、まあ中央銀行とはその様な宿命を持たされているとも言えなくもない。
FRB.の様にメディアを使って前もってアドバルーンを上げて市場の反応を見ながら最終決定に持ち込むか、或いは悪者呼ばわりされるのを覚悟して孤高の中央銀銀行役を演じるか?
銀行の現役時代に大変お世話になった黒田日銀総裁にはご同情を禁じ得ない。
あと4ヶ月、どうぞ頑張って下さい!
此処に及んで130円台ミドルまで下げたドル・円相場を見て大体125円~145円くらいの幅だろうと思っていた来年のレンジに自信が無くなってしまった。
上のチャートを見て分かる様に、7円下げた後の相場の戻りが極めて鈍い。
明らかにマーケットは依然としてドル・ロングである気がしてならず、130円割れのストップの売りに注意したい。
今年は安値と高値の幅が凡そ37円の大相場となったが、来年も30円くらいの幅を見るとすると115円~145円くらいの方が妥当かも知れない。
それにしても相場と言うものはつくづく当たらないものだと痛感する。
改めて、“良いお年をお迎え下さい。”と申し上げます。
酒匂。