こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、オーストラリアのマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。通貨売買の参考にして頂ければ幸いです。
第31回目は「【根強いインフレ圧力】豪ドルは対円で押し目買い方針」です。
目次
1.豪ドル相場の定点観測
2.オーストラリアの資金フローに変化の兆し
3.オーストラリアと米国のインフレ圧力を考慮したトレード戦略
1.豪ドル相場の定点観測
まずは現在の豪ドル相場について状況を確認します。
出所:外為どっとコム、Investing.com
AUD/USDは2週間で117Pips上昇し、1AUD=0.6759USDとなりました。米国のPMIが弱かったり、パウエルFRB議長から米利上げ幅の縮小が示唆されたりといった中で、米ドル売りが優勢となり、結果として豪ドルが上昇しました。
AUD/JPYは2週間で0.71円下落し、1AUD=92.51JPYとなりました。年末も近くなり、相場のメインテーマである米国のインフレ圧力にも陰りがみられてきたため、今年、大きく売られてきた日本円が買い戻され一時は91円丁度を割り込む動きとなりました。ですが足もとにかけては円売りが再開しており、AUD/JPYに持ち直しの動きがみられている状況です。
資源価格の総合的な価値を示すBCOMは▲2.67%でした。ここのところ資源価格全般が将来の景気悪化を織り込むかたちで緩やかに下落基調にあり、これが豪ドルの上値を押さえそう点は抑えておきたいポイントの一つです。
BCOM日足チャート/出所:Investing.com
※基本的に資源高は豪ドル高、資源安は豪ドル安の要因です
なおIMM通貨先物における投機筋の豪ドルポジションはネットで4,186枚増加し、ネットショートが▲40,563枚となりました。前回寄稿時もネットショートが減少していましたが、これが表すところは「投資家の損切りが進んだ」ということです。現在のポジションの傾きだけに着目すれば、豪ドルが上昇した際に、損切りがさらに損切りを招き、上昇しやすい状況と言えます。
2.オーストラリアの資金フローに変化の兆し
さて、オーストラリア3Qの国際収支が発表となり、好調な貿易収支の黒字にも関わらず、経常収支が赤字になっていることが分かりました。
オーストラリアの経常収支/出所:オーストラリア統計局
オーストラリア統計局によると、主な要因は外資系企業のオーストラリア資源セクターに対する投資拡大と、その収益増加に伴う配当金の増加(第一次所得のマイナス)とされています。ようは資源高で外資系企業がオーストラリアに妙味ありと判断し、投資を行い、さらに利益が増加したため、投資家への配当を増やしたということのようです。
「オーストラリアの貿易が好調だから豪ドルは買い」としてしまうと、どうも現状を見誤りそうなことが分かりました。実はオーストラリアから資金が抜けていたわけですね。
こういった情報は細かく調べていかないとなかなか辿りつけません。貴重な情報と思いますので、「意外とオーストラリアからお金が抜けていた」ということは、覚えておいて損はないはずです。
3.オーストラリアと米国のインフレ圧力を考慮したトレード戦略
さてここからの豪ドルレートを占う上で最も重要なのは「インフレ」です。なぜならばインフレ圧力がオーストラリアや米国の金融政策を決定づける大きな要因であり、それらが為替レートに大きな影響を与えるからです。
もともとは米国のインフレが先行して上昇しました。ですがここにきてオーストラリアのインフレが米国をキャッチアップしています。
出所:Investing.com
豪州トリムCPIと、米国コアCPIはともに物価変動のブレが大きな品目を除いた、インフレ圧力を表す経済指標です。青いラインが、オレンジ色のラインをキャッチアップし始めていることが分かります。
結果的に米国のインフレが先にピークアウトして下落へと転じ、オーストラリアのインフレが高止まりする場合には、もう一段の米ドル売り、豪ドル買いが発生する可能性も十分ありそうです。
AUD/USD4時間足チャート/出所:Investing.com
AUD/USDは11月に入って堅調に推移しています。主な要因としては米ドル高の調整(米ドル売り)ですが、チャート的には0.70をクリアに上抜けてくると強くなりそうです。
配当も大きく出し切って、米国のインフレがピークアウト、オーストラリアのインフレが高止まりと言う展開になればたしかに0.70を超えるシナリオも描けそうです。ですが投資家心理として、AUD/USDロングはスワップポイントでマイナスとなるため、なかなか攻めにくい、そういった状況ですから、結局どっちつかずの展開になる気がします。
AUD/JPYは目立ったトレンドは出ていない状態ですが、91円、92円では買いが強いです。
AUD/JPY4時間足チャート/出所:Investing.com
円金利がゼロであることを考慮すれば、やはりAUD/JPYは買い持ちで攻めたいプレイヤーが多く、下がったところではある程度の買いが沸いてくるのでしょう。
投資家が積極的にリスクを取る展開となれば上昇、そうでなければ下落と割と分かりやすい動きをすると思いますので、悪材料出尽くしで下がったところを拾っていこうと考えています。
まとめますとAUD/USDは両国のインフレを見極めつつ「7.00」のチャートブレイクに注目、AUD/JPYは押し目買いの方針です。
本日は以上となります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
<参考文献>
文中に記載しています。
<最新著書のご紹介>
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戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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