こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、オーストラリアのマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。豪ドルなど通貨売買の参考にして頂ければ幸いです。
第30回目は「【豪ドル】貿易加重平均では底堅く対円で押し目買い方針」です。
目次
1.豪ドル相場の定点観測
2.豪ドルは貿易加重平均で見れば底堅い
3.ではどの通貨に対して豪ドルを買い持ちするのか?
1.豪ドル相場の定点観測
まずは現在の豪ドル相場について状況を確認します。
出所:外為どっとコム、Investing.com
AUD/USDは2週間で215Pips上昇し、1AUD=0.6642USDとなりました。上値の重い展開が続いていましたが、2022年11月10日に発表された米10月CPI(消費者物価指数)が予想よりも弱い数値となったことで米ドル売りが加速、豪ドルは買い戻されました。直近はやや上値重く推移しています。
AUD/JPYは2週間で1.41円下落し、1AUD=93.22JPYとなりました。引き続きドル/円の上値が重かったことで、AUD/USDの上昇分を食いつぶした格好です。足元ではドル/円に持ち直しの動きが見られていますのでこれがどこまで続くのかが重要になってきます。
資源価格の総合的な価値を示すBCOMは▲2.59%でした。ミサイルがウクライナに隣接するポーランドに着弾するなど地政学リスクが高まる局面も見られたものの、直近のG20サミットにおいては中国を含む各国がロシアの核使用をけん制するなど、最大のリスクシナリオは回避できているように思います。資源国通貨である豪ドルを占うためにも、今後の戦況を注視していく必要があります。
※基本的に資源高は豪ドル高要因です
なおIMM通貨先物における投機筋の豪ドルポジションはネットで5,783枚増加し、ネットショートが▲44,749枚となりました。ここから見てとれることは、豪ドルが買い戻される展開の中で、ショートポジションを切らされている投資家も少なくいということです。まだまだショートポジションも溜まっていますので、ショート勢が燃料となって買いが加速する展開もイメージできます。
2.豪ドルは貿易加重平均で見れば底堅い
さて豪ドル(AUD/USD)は値を戻しつつありますが、それでも今年は売りが優勢の展開となりました。背景には基軸通貨である米ドルの利上げやQTの開始があり、これが米ドル高へとつながる一方で、豪ドル売りの材料となっています。
ですが唯一無二の基軸通貨である米ドルと比べるのは豪ドルにとってアンフェアと考えます。そこで本日は外為どっとコムにおける取引可能な通貨ペアと豪ドルを比較してみました。
豪ドル対6通貨、日足、年初来チャート:上から、濃い赤=日本円、黄土色=英ポンド、青=NZドル、緑=ユーロ、薄い赤=カナダドル、ロウソク足=米ドル/出所:Investing.com
豪ドルは米ドルに対して▲8.21%と弱含んでいるものの、ユーロ+0.67%、NZドル+2.04%、英ポンド+4.90%、日本円+11.02%と、他通貨に対してなかなかの数値を残していることが分かります。またユーロや日本円に対して豪ドルを買い持ちとした場合にはスワップポイントも受け取りとなることから、実際にはより大きな値上がりを享受できていたことが確認できます。
※ユーロに対して豪ドルを買い持ちする場合には、EUR/AUDの売り建てとなります
またRBAの公開情報をもとに、豪ドル(AUD/USD)とTWI(trade-weighted index of the Australian dollar)と呼ばれる貿易加重平均を加えた豪ドル価値の推移をみるとAUD/USDと比較して、TWI の方がより底堅く推移していることが見てとれます。
※TWIはオーストラリアの90%以上の貿易を考慮した相対的な豪ドルの強さを示す指標
AUD/USDチャート/出所:RBA
TWIチャート AUD/USDと比較して底堅く推移している/出所:RBA
本コラムにおいて豪ドルのファンダメンタルズが強いことをたびたび述べてきましたが、それは現在も変わっていません。また米ドルとの対比だけでなく、他通貨との値動きをみると豪ドルの底堅さを確認できます。
したがいまして基本的には今後も豪ドルを買い持ちしていくのが望ましい、これが私の考えになります。
3.ではどの通貨に対して豪ドルを買い持ちするのか?
ここで問題になってくるのが、豪ドルをどの通貨に対して買い持ちしていくのが望ましいのか?ということです。そこで改めて観測期間を短くした豪ドルとその他通貨に対する騰落率を見ていきます。
豪ドル対6通貨、時間足、2022年11月のチャート:上から、ロウソク足=米ドル、薄い赤=カナダドル、黄土色=英ポンド、緑=ユーロ、青=NZドル、濃い赤=日本円、/ 出所:Investing.com
今月に限ればAUD/USDの買い持ちが最もワークしています。ですがこれは米10月CPIを受けたドル高の調整と見ておくのが現時点では無難でしょう。なぜならば米国がさらに利上げを行い、QTを進めていくという方向に何も変わりはないからです。
と考えると少しどっしりとポジションを取っていくことを考えれば、まずは今月値下がりしていて、さらに今年最もパフォーマンスの良かったAUD/JPYを買い持ちしていくのが理にかないます。
現在AUD/JPYはトレンドが出ていない状態ですが、徐々に下値を切り上げている状況でもあります。
AUD/USD4時間足チャート/出所:Investing.com
特に91円、92円では買いが強い状況で、下値が93円まで上がってきた印象もありますので、まずは落ちたタイミングではしっかり拾っていくということが私のトレード戦略となります。
ただし一点ご留意事項があります。それが日銀の金融政策スタンスの変更です。
たとえば日本の消費者物価指数が10月時点で年率+3.7%にまで上昇してきていることから黒田日銀総裁の会見トーンが少し柔軟になってきています。もし消費者物価がさらに上昇し続けるようなら、これが日銀の金融政策変更のトリガーとなる可能性が高まります。
また日銀がステルスでQT(量的緩和の縮小)を進めてきている可能性が高いです。日本のマネタリーベース(現金+民間銀行が有する日銀当座預金)と呼ばれる量的緩和の量を図る指標を月次で追っているのですが、ここにきて60兆円ほどの減少に転じています。
日本のマネタリーベースは2022年4月のピーク687兆円から同年10月621兆円へと縮小している 出所:財務省
もともと日銀はマネタリーベースを増加させることでバズーカ緩和と呼ばれる金融緩和を行ってきました。そして、その金額をアナウンスなく減らしていることを筆者は「ステルスQT」と呼んでいます。このステルスQTが続くのであれば円高に振れてくる可能性が高まりますので、この月次データは今後もしっかりとモニターしていく必要があります。
まとめますと日銀の動向を見守りつつ、豪ドル/円を押し目買いが良いと考えます。
本日は以上となります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
<参考文献>
文中に記載しています。
<最新著書のご紹介>
不安定な金融情勢の今、資産を増やす・守るために投資すべき金融商品、銘柄、通貨とは?
元・在中国 金融アナリストがチャイナ&世界情勢から読み解く
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594092191
【インタビュー記事】
戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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