こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、オーストラリアのマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。豪ドルなど通貨売買の参考にして頂ければ幸いです。
第29回目は「中国のゼロコロナ政策『九不准』は豪ドル買い材料」です。
目次
1.豪ドル相場の定点観測
2.中国ゼロコロナ政策に変化の兆し
3.豪ドルは短期的には上向きそう
1.豪ドル相場の定点観測
出所:Investing.com
AUD/USDは2週間で114Pips上昇し、1AUD=0.6427USDとなりました。上値の重い展開が続いていましたが、先週末に香港株、中国株の上昇に伴い急反発し、結果として上昇に転じました。
AUD/JPYは2週間で0.46円上昇し、1AUD=94.63JPYとなりました。ドル/円の上値が重く、AUD/USDの上昇分をやや食いつぶす形での小幅上昇となっています。
資源価格の総合的な価値を示すBCOMは+6.32%でした。ウクライナ情勢の激化を受けて、ロシアがウクライナの穀物輸出の許可を取り下げるなど、国際情勢を反映する形でBCOMは上昇しています。これは残念な話ではありますが、為替の視点では、資源国のオーストラリア、豪ドルにとって好影響に働きます。
なおIMM通貨先物ポジションは豪ドルのネットショートが15,173枚増加し、▲50,532枚となりました。過去200週では、この水準は大きめであり、徐々に投資家の売り余力が限定的になっていると推測します。
2.中国ゼロコロナ政策に変化の兆し
さて、先週末に香港ハンセン指数が一時7%超の上昇を記録するなど、先週から今週にかけて香港株式市場ならびに中国株式市場は大きく上昇しています。
背景に中国のゼロコロナ政策転換の噂があります。これまで堅持してきた徹底したゼロコロナ政策を転換するのではないか?という期待です。
これについて週明けメディア各社は、中国は結局ゼロコロナ政策を堅持する、今までと変わりない方針であるという趣旨の報道を伝えています。ですが筆者は「間違いではないものの、ややミスリーディングであり、実はゼロコロナ政策に変化の兆しが見られている」と考えています。
キーワードは「九不准」です。九不准とは中国、国家衛生健康委員会が定めたゼロコロナ政策に伴う9つの禁止事項であり、地方政府を制限した指導のことです。
現在、中国では各地で、地方政府の判断により以下のような問題が起こっています。
・ 本来は不要な低リスク地域出身者に対する「帰還説得」や「強制隔離」の実施
・ 本来は中・高リスク地域への移動に対する制限を、恣意的に他の低リスク地域に対しても拡大
・ 恣意的に隔離措置を実施する対象者を拡大
・ 隔離場所における不正な料金の徴収
・ コロナ陽性・陰性管理システムの不正な割り当て
・ 不当な都市封鎖
こういったものを取り締まる、これが「九不准」であり、先週末において記者会見が開かれこういった現状を中央政府が早急に改善していく方針が示されました。
したがって、ゼロコロナ政策を堅持するという点は合っているのですが、それだけではなく、ゼロコロナ政策を衛生面だけでなく、経済面においても配慮する形へと移行させていると見るのが妥当ではないかと考えています。
したがいまして、短期的には中国株や香港株にポジティブな話題であり、且つ中国経済と結びつきの深い豪ドルにとっても好材料になると考えています。
中長期で考えると、新指導部における政策がどのようになるかが中国経済、ひいては豪ドル上昇のカギを握るのではないかと見ています。先月に行われました中国共産党大会において習近平氏への権力集中が行われまして、且つ10年間にわたって中国経済の発展に尽力してきた李克強首相の退任が決まりましたので、新たな体制でどのような経済対策を打ち出すかに注目があつまります。
なお2023年に限って言えば、中国はすでに2022年中に大きな財政政策を打っていますので、米国の景気が失速する中で中国が景気をけん引していくと見るのが一般的です。
3.豪ドルは短期的には上向きそう
前述の通り、中国株、香港株が短期的に上向きそうですので、豪ドルも目先は底堅い展開を想定します。
そう言った中で、AUD/USDはまずは直近レンジの上限0.6550を超えられるかが注目点となります。中国株、香港株が底堅くなれば豪ドルにもプラスですし、残り115Pips程度ですので十分に上抜けが期待できます。
AUD/USD4時間足チャート/出所:Investing.com
したがって目先は0.6550の上抜けを期待したトレードをしていく予定です。
AUD/JPYは底堅い推移が続いています。こちらもまずは直近の高値である95.70をクリアに上抜けるかが重要です。
AUD/JPY4時間足チャート/出所:Investing.com
懸念材料はドル/円で、ファンダメンタルズ的には引き続き上で見ているのですが、足元はドル/円の上値が重くなっているので悩ましいところでもあります。
ですがこちらも中国株や香港株が持ち直すと考えれば、クロス円、それもセンチメントに反応しやすい豪ドル/円は上を試すと思います。したがって95.70を上にブレイクする展開を想定します。
なお豪ドルは大分と安くなりましたし、経済が良いので、中長期で見ても買いやすい通貨であり、らくらくFX積立を使って積立も検討出来ると思います。
本日は以上となります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
<参考文献>
文中に記載しています。
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戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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