こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、オーストラリアのマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。豪ドルの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第26回目は「米ドル高のクライマックス局面における豪ドルとの向き合い方」です。
目次
1.豪ドル相場の定点観測
2.米ドル高はどこまで進むのか?
3.米ドル高の達成感はどの辺りで起こるのか?
4.豪ドルはしばし様子を伺いつつ、いつでも買える準備をしておく
1.豪ドル相場の定点観測
まずは現在の豪ドル相場について状況を確認します。
出所:Investing.com
AUD/USDは2週間で357Pips下落し、1AUD=0.6522USDとなりました。FEDの利上げ姿勢が鮮明となり、米ドル高が進む中で、豪ドルは比較対象となりうるニュージーランド・ドル(青色)や、英ポンド(ピンク色)ほどは売られなかったものの、カナダドル(赤色)並みに売られた状況です。
直近2週間の豪ドルと、英宗主国通貨の比較チャート
出所:Investing.com
AUD/JPYは2週間で4.53円下落し、1AUD=93.75JPYとなりました。この2週間は財務省による円買いの為替介入警戒感および為替介入の実施により、円安観測が和らぎ、日本円が米ドルを除く通貨に対して大きく買い戻されています。
なおコモディティの総合的な価格を示すBCOMは5.47%下落し112.40となりました。これは資源輸出国であるオーストラリアにとってマイナスに働いている一方、資源輸入国の日本にとってはプラスに働いており、結果として豪ドル/円の売り圧力に寄与しています。
それからIMM通貨先物における豪ドルショートポジションは15,944枚縮小しました。これはショート勢による利食いが入ったとみるべきで、再びポジションが軽くなったことから、投資家の豪ドル売り余力が回復したとみております。
現在の相場の注目点は米ドル高がどこまで続くのか?という点と考えています。そこで本日は米ドルの見通しを中心に、豪ドルの視点を加える形で解説していきます。
2.米ドル高はどこまで進むのか?
いまの米ドル高の相場がどのように形成されているか?と考えると真っ先に挙げられるのが米金利の上昇です。米ドルは基軸通貨ゆえにさまざまな商取引に用いられており、両替のニーズが高い通貨です。そして、その通貨の金利上昇が続きそうであるという点が、多くの個人や法人の行動を諸通貨売り、米ドル買いへと駆り立たせています。
9月FOMCを経て、政策金利は3.125%(3.00%~3.25%の幅)まで上昇しました。こういった状況の中で、今後の焦点は2つあります。
1つが米国の政策金利がさらに何%、いつまでに上昇するのか?ということです。そしてもう1つが引き上がった政策金利はいつまで高止まりするのか?ということになります。
前者に関してはFEDならびに市場参加者の見通しは、ともに2023年に4.6%前後まで政策金利が引き上がり、そのレベルでしばらく高止まりするというものです。ここについては多少、上下あると思いますが、私も概ね同程度にみています。
ただし後者に関しては、私は、FEDや市場参加者が織り込むよりも、早期に米国の景気が腰折れ、その結果として米国のインフレが落ち着き、FEDが経済対策のために利上げから利下げに転じるタイミングが、比較的に早い段階で訪れるのではないか?と見ています。
なぜかと申しますと、米国の雇用環境や消費、生産状況をみると引き続き高水準を維持しているものの、景気先行指数であるPMIや新築住宅関連指標は急激に悪化しており、急ピッチの利上げの影響が大きいことを示唆しているからです。
出所:Institute for Supply Management
出所:US Census Bureau
したがって4.6%前後にまで政策金利が上昇したと仮定すると、今よりもさらに早いペースで景気が腰折れするはずですので、2023年度は政策金利が4.6%前後で推移するという市場の見通しが、過度に利上げの長期化を織り込み過ぎていると判断しています。
市場参加者による政策金利の水準予想は2023年中、450-475を示している/ 出所:CME Group
こうした私なりの見方が正しければ、何かをきっかけにドル売りへと転じるはずです。したがいまして、そろそろドル高のクライマックスとでも言いますか、ドル売りに転じる可能性を意識しておくべきと考えています。
3.米ドル高の達成感はどの辺りで起こるのか?
現在の米ドルを取り巻く環境はなかなかにドラマチックと言えます。
ドル/円が145.90円をトップに、財務省による円買いの為替介入が行われた。ドル/人民元は2005年に現行の通貨政策に変更して以降の高値となる7.1963まで残り200pips程度に迫った。ユーロが年初来の安値を更新中であり、英ポンドが史上最安値を記録した。
こうした諸所の通貨における水準感を考えると、現在がクライマックスだったとしても決しておかしくはないと考えています。
もちろん、米ドルが買われている限りにおいては、米ドル買いでついていくというのも短期的には非常に有効な戦術となりますが、一方でどこまでドル高の余地があるか?と言われればそこまで大きくは残っていないのではないかと思います。
つまり米ドルの高値警戒感がそろそろ出てきそうだ、という点に十分に注意して取引していく必要があると考えます。
4.豪ドルはしばし様子を伺いつつ、いつでも買える準備をしておく
現在のAUD/USDの水準、1米ドル=0.6500豪ドルは節目のポイントです。したがってこれをどちらに抜けていくのかが非常に重要になります。
AUD/USD月足チャート/出所:Investing.com
これがどちらに抜けるかを決定づけるのは、豪ドルというより、基軸通貨である米ドル次第になるでしょう。そして豪ドルの6.5000が豪ドル売りのクライマックスになる可能性は、個人的には6割程度で見ています。
そして、あらゆる相場のクライマックス局面においては相場変動率が非常に高くなるので、ポジション量を少なめに取引することを推奨します。
私は、豪ドルを取引する場合には、様子をみながら軽いタッチで取引をすると思います。前述の通り、市場参加者が過度に米ドルの利上げが長引く展開を織り込んでいると思うので、豪ドルの打診買いで臨みたいです。
豪ドル/円に関しては、1つの狙いとしては、やはり円に為替介入が入っていますので、またどこかで入ると想定しますので、介入によりぐっとドル/円が押し下がったところで買っていくのが良いと思います。
上でついていくと介入で落とされたり、はたまたAUD/USD 0.6500 の攻防で下押されたりと苦戦してしまうと思います。
ただし、米ドル相場ですので、円のクロス取引に拘るよりは、米ドルとのストレートで考えた方が相場の波に乗りやすいと思うので、個人的には豪ドルストレートで臨みたいと考えています。
本日は以上となります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
<参考文献>
文中に記載しています。
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代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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