更新日時:2022年08月08日 11時40分(データを更新)
執筆日時:2022年08月04日 16時00分
執筆者 :株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
目次
1.はじめに
2022年8月5日(金)、日本時間21時30分に米国の7月雇用統計が発表されます。これまでの利上げにより、需要鈍化を示す指標結果が一部でみられるようになり、市場の関心は、いつ頃から引き締めペースが緩和されるのかといった部分へ移りつつあるようです。今月の雇用統計が、引き締めペース鈍化の議論をさらに活発化させるのかどうか注目されます。では、早速、前回の振り返りです。
2.前回のおさらい
・2カ月連続の75bp利上げに道開く
7月8日、米労働省が発表した6月の非農業部門雇用者数(NFP)は37.2万人増と市場予想の26.8万人増を上回りました。また、同失業率は3.6%と前月と変わらず、平均時給も前月比0.3%と予想通りの結果となりました。全体として深刻な人手不足の継続が確認されたほか、米国の景気後退懸念が緩和する格好になり、FRBによる2カ月連続の0.75%利上げに道を開くことになりました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)※出所:米国労働省
米ドル/円は、米長期金利の上昇とともに136.569円まで上伸しました。かたや株式市場はまちまち。景気後退不安の緩和と、積極的な金融引き締め観測が交錯し、方向性は明確になりませんでした。ダウ工業株30種平均は前日比46.40ドル安い31,338.15ドルで取引を終えました。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
米ドル/円 30分足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
3.今回の見どころ
・失業保険申請件数も緩やかに増加
・米FRBの議論の中心が引き締めペース緩和へ移行の可能性も
米労働省が発表するJOLT求人件数は、企業の採用意欲は依然として歴史的な水準にあることを示唆しており、米FRBのこれまでの積極的な金融引き締めの妥当性を裏付ける格好になっています。しかし、今後は少し情勢が違ってくるかもしれません。マイクロソフトやアップルと言った大手ハイテク企業が人員削減方針を示しているほか、新規失業保険申請件数は緩やかに増加に転じ始めています。先ほどのJOLT求人件数は、良く言えば「頭打ち」傾向が鮮明になっており(図表3.)、雇用拡大のペースは鈍くなっている可能性が想起されます。
また、足もとでは賃金上昇のスピードも和らぎ、インフレのピークアウトを示唆する材料も見られます。賃金の伸びが抑制され始めた要因は複数ありますが、一つは国外から安い労働力が提供されていることが挙げられるのではないかと考えています。一部シンクタンクは、トランプ政権時の移民排他政策や新型コロナウイルス感染で、米国外生まれの労働力人口がトレンドラインを大きく下回っていましたが、足もとではトレンドラインへ回復してきていると指摘しています。こうした流れが拡大すれば、賃金上昇によるコストアップは次第に緩んでいきそうです。
図表3.米求人件数と失業保険申請件数の推移 ※出所:米国労働省
労働需給のタイトさも次第に緩和することが期待出来ます。雇用統計の振れ幅が大きいため、単月の結果に対する強弱はありますが、各種データを見る限りでは、インフレ抑制の兆しや利上げによる需要減が示唆されるため、これに沿って雇用市場も緩やかに低下基調を辿るとみる方が無難でしょう。この点では、7月の結果も下目線となりそうです。粘着性のある住居費はまだ上昇を続けており、インフレの芽は完全に摘まれていませんが、労働需給のタイト化緩和によって、FRBの議論の中心が利上げペース緩和へと移ることも考えられそうです。
今月はNFPの市場予想が25.0万人と、前月の26.8万人予想に続き控え目な予想になっています。これは、市場参加者が雇用市場の緩やかな鈍化を強く意識している証拠と言えそうです。さて、結果に対する見通しですが、①は前月の37.2万人を超えてくる場合、②は予想内の着地となる場合、③は予想を大幅に下回ってくる場合の3つに分けたいと思います。
①は、米国の景気減速は限定的との思いから当初、米ドルは買われそうですが、利上げペースの鈍化期待が薄れ株式市場が圧迫されやすいため、米ドル/円は次第に頭打ちになりそうです。②は①と逆のケースで、雇用の拡大ペース鈍化が示唆され当初は米ドル安で反応しそうですが、株式市場が引き締めペース減速への期待から持ち直すとみて、米ドル/円は支えられるのではないでしょうか。③は最悪のケースで、米国の急速な景気後退が意識されリスク回避傾向が強まり、米ドル安・円高の流れが強まるのではないかと考えています。
☆想定するシナリオ
パターン | NFP(万人) | 想定される米ドル/円の値動き | 理由 |
① | 37.3以上 | 発表後、1.5円上昇 | 利上げペース鈍化期待が後退 |
② | 20.0~37.2 | 発表後、70銭で振幅 | 成長鈍化と利上げペース鈍化が綱引き |
③ | 19.9以下 | 発表後、1.5円下落 | 米景気後退懸念が上昇 |
※本指標発表後、1時間の値幅(過去3カ月):平均62銭
図表4.[雇用統計の実績と予想]
年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||||
予想値 | 実績値 | 修正値 | 予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年07月 | 25.0 | 52.8 | – | 3.6 | 3.5 | – |
2022年06月 | 26.8 | 37.2 | 39.8 | 3.5 | 3.6 | – |
2022年05月 | 32.5 | 39.0 | 38.4 | 3.5 | 3.6 | – |
2022年04月 | 39.1 | 42.8 | 43.6 | 3.5 | 3.6 | – |
2022年03月 | 49.0 | 43.1 | 42.8 | 3.7 | 3.6 | – |
2022年02月 | 40.0 | 67.8 | 75.0 | 3.9 | 3.8 | – |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 実績値 | 実績値 | |
2022年07月 | 0.3 | 0.5 | 62.1 |
2022年06月 | 0.3 | 0.4 | 62.3 |
2022年05月 | 0.4 | 0.3 | 62.3 |
2022年04月 | 0.4 | 0.3 | 62.2 |
2022年03月 | 0.4 | 0.5 | 62.4 |
2022年02月 | 0.5 | 0.0 | 62.3 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ISM製造業雇用指数 | ISM非製造業雇用指数 |
2022年07月 | 49.9 | 49.1 |
2022年06月 | 47.3 | 47.4 |
2022年05月 | 49.6 | 50.2 |
2022年04月 | 50.9 | 49.5 |
2022年03月 | 56.3 | 54.0 |
2022年02月 | 52.9 | 48.5 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
4.今回の戦略
発表前のレベルによっては調整が必要ですが、シナリオ①なら米ドル/円は、21日移動平均線(136.176円:執筆時点)付近までの上昇はあり得そうで、当初は買いで追随し、135円後半からは利食い売りのポイントを模索したいです。②は133.20-134.60円を中核レンジとして振幅しそうで、流れに乗って短期売買。③の場合は、8月3日安値132.282円を目指しそうで、売りで追随と考えています。
また、114.410円(2月24日安値)-139.39円(7月14日高値)の上昇幅の38.2%押しとなる129.85円付近を割り込むようだと、今年前半の上昇トレンドが一巡して弱気相場入りするため、8月後半にかけて、130.00円割れは警戒したいです。
図表5.米ドル/円チャート-日足
図表6.米ドル/円チャート-60分足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
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