こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、オーストラリアのマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。豪ドルの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第21回目は「豪ドルは対中関税の引き下げと0.70定着で上値余地が大きくなる」です。
順を追ってご説明いたします。
目次
1.豪ドル相場の定点観測
2.対中関税引き下げ議論は豪ドル上昇要因
3.豪ドルと米ドルの金利は拮抗
4.AUD/USDは0.6760と0.70が重要なチャートポイント
1.豪ドル相場の定点観測
まずは現在の豪ドル相場について状況を確認します。
豪ドル情報の一覧表/Investing.comよりデータ取得し作成
AUD/USDはこの2週間で70pips下落し、7月11日執筆時点で1AUD = 0.6850USDレベルで推移しています。コモディティ価格の下落を受けて売られやすい環境が続きましたが、7月初旬につけた安値0.6760レベルがサポートとなって、そこから100pipsほど反発上昇しています。なおIMM先物のショートポジションが増加していますが、まだ投資家の売り余力は残されている状況です。
AUD/JPYはこの2週間で0.20円上昇し、1AUD=93.39JPYとなっています。USD/JPYが底堅く推移したことで、AUD/USDの下落分を補填した格好です。
2.対中関税引き下げ議論は豪ドル上昇要因
現在、米国では中国に対する関税引き下げの議論が進んでいます。これは国内のインフレ圧力に配慮するものです。
現在のインフレ圧力は金融緩和の反動や with コロナ態勢への移行など経済活動の回復を主因としたものもあれば、「米中貿易摩擦」、「サプライチェーンの分断」、「資源価格の高騰」などいわゆるコストプッシュ型のものもあり、特に後者については政治的な解決が求められています。
米国にとって中国は競争相手であり、強硬姿勢を崩すことは考えられませんが、一方でトランプ前大統領が主導した対中関税については当初よりバイデン米大統領は疑義を持っており、また国内のインフレ圧力が高まっていることから、これを見直す好機と捉えている可能性が高いです。ただ全品目について一律で関税を引き下げると言うよりは、競争に大きく影響を与えない商品群を選定し、決定するのだと思います。
対中関税の引き下げ議論でここのところ人民元が売られにくくなってきており、また中国株にも持ち直しの動きが見られています。中国と関係の深いオーストラリア経済にとってもポジティブな議題であり、これが直近の豪ドルの底堅さに繋がっているように思います。
3.豪ドルと米ドルの金利は拮抗
豪州と米国は共に国内の雇用環境が歴史的な高水準にあり、強いインフレ圧力があり、それを抑えるために利上げを段階的に行っており、同様の状況にあると言えます。
豪州と米国の金利水準の比較/Investing.comよりデータ取得し作成
それは先々の金利見通しにも反映されており、現在の利上げ見通しについても概ね似た軌道を描くと予想されています。
豪州と米国の利上げ織り込みを比較した図/CME GroupとASX よりデータ取得し作成
この差が今後どうなっていくのか?を決定する要因は国内景気であり、それはつまり経済指標に表れます。したがってここからは特に両国の経済指標に注目して丁寧にみていく必要があります。経済指標次第で利上げ織り込みのチャートが変わってきて、それが為替レートにも反映されていくでしょう。
4.AUD/USDは0.6760と0.70が重要なチャートポイント
AUD/USDは綱引き状態にあるのですが、目先はサポートとして機能している0.6760で堪えられるか、はたまた0.70に乗せて0.70台が定着するかがポイントです。米ドル高の勢いが強い中でも、直近は底堅く推移していますので、個人的には0.70乗せを期待してトレードしていますが、やはり基軸通貨である米ドルの動向次第と言えると思います。
AUD/USDチャート、日足/外為どっとコム、外貨ネクストネオより
ただし下落余地と、上昇余地の大きさを考えた場合には、ここまで大きく下落していることと、オーストラリアの強いファンダメンタルズを考慮すれば、上昇余地の方が大きいと思いますので、下を拾っていった方が長い目で見ればワークしやすいと考えています。
AUD/JPYはUSD/JPYが底堅いので、買い持ちで攻めています。AUD/USDとUSD/JPYを別々に見た方が、正確に状況を判断できると思うので、AUD/JPYのチャートにはあまりこだわらずに取引したいと思っていますが、AUD/JPYで言えば100円まで狙えるような状況にあると思うので、なるべく上値を伸ばしていきたいので、ポジションを少なめにスイング~コアポジションとして保有を続ける方針です。
AUD/JPYチャート、日足/外為どっとコム、外貨ネクストネオより
売られる時は値動きが早いので、そこで一旦落とすのか、耐えるのかは、ライフスタイルに合わせて検討すればよいと思います。
本日は以上となります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
<参考文献>
文中に記載しています。
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代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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