更新日時:2022年06月03日 22時00分(結果を記載)
執筆日時:2022年06月02日 14時00分
執筆者 :株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
目次
1.はじめに
2022年6月3日(金)、日本時間21時30分に米国の5月雇用統計が発表されます。大幅な金利引き上げ観測を前に、マーケットには米経済のソフトランディングが難しいのではとの、不安が広がりつつあります。EUがロシア産原油の輸入禁止を決定して、再び原油価格に上昇圧力がかかる中、米国のインフレ圧力も後退しづらい状況下で、さらなる供給抑制が米経済を圧迫する道筋も考えられます。FRBの利上げのテンポにどう影響してくるのか注目されます。早速、前回の振り返りからです。
2.前回のおさらい
・賃金の伸びは鈍化も、雇用主は人手確保に苦慮
5月6日、米労働省が発表した4月の非農業部門雇用者数(NFP)は予想の38.0万人増に対して42.8万人増で着地。失業率は3.6%へ低下し、雇用の底堅さが確認できました。また、注目された時間給は0.3%増と、3月の0.5%(0.4%から修正)から少し低下しましたが、労働参加率も低下したため、改めて雇用主が人手確保に苦慮している様が明らかとなりました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)※出所:米国労働省
結果を受けたドル/円は、130.13円付近まで売られたものの、米10年債利回りが一時3.14%前後と2018年11月以来約3年半ぶりの高レベルをつけると、130.71円付近まで切り返しました。一方で、株式市場は下落。一時520ドル超下落した、ダウ工業株30種平均は突っ込み気味に下げた反動でプラスサイドを回復する局面はありましたが、結局、98.60ドル安い32899.37ドルで終了しました。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
3.今回の見どころ
・問題は賃金インフレ
・リスクシナリオはインフレ加速の再燃
NFPについては、市場は4月の42.8万人増から低下し31.0万人増を見込んでいます。足もとの新規失業保険申請件数が増加傾向を示すなど、企業がコストアップに耐えかねている状況も見受けられますので、足もとの雇用拡大ペースの鈍化はやむを得ないのかなと考えています。ただ、JOLT求人件数は依然として高水準をキープし企業の採用意欲は高い状態で、雇用者数増加の基調は大きく変化しないと考えます。
着目点は、賃金動向と労働参加率でしょう。図表3は、変動幅の大きい食品とエネルギーを除いた消費者物価指数(CPI)と時間給の伸びの前年比を示しています。これによると、インフレ上昇が賃金の伸びを上回っているほか、足もとでは両者の幅が拡大傾向にあることも分かります。この幅が、今後、縮小して来れば米経済のソフトランディングも見えてきそうですが、労働供給面でのひっ迫は続いていますので高インフレの状態は続きそうです。また、個人消費については、家計貯蓄と堅調な雇用情勢から底堅さを維持していますが、貯蓄率の低下が思わぬ消費減速を招く危険があります。こうして眺めると、見通しへの不透明感は高いままと言えそうです。
図表3.米CPI(食品とエネルギー除く)と賃金動向
これらの不安が取り除かれるためには、利上げでインフレが抑制され、秋以降、FRBが利上げスピード減速を許容できる材料が欲しいわけですが、今回の雇用統計がそうした期待を後押しする材料になるのか注目されます。
そこで今回は次の3つのパターンに分けてみました。「時間給の伸びが予想を上回る」-(A)、「時間給の伸びが予想の範囲内」-(B)、「時間給の伸びが予想を下回る」-(C)です。(A)の場合は、FRBによるインフレ抑制策が強まるとの思いから、米金利が上昇しドルを押し上げそうです。ただ、米経済のソフトランディングの難易度も上がり、ドル/円の上昇が短命に終わるかもしれません。次に(B)ですが、この場合、インフレへの評価が分かれ、ドル/円は発表前の水準を挟んで上限30銭程度で振幅しそうです。(C)の場合は、インフレピークアウト観測から、ドル/円は売りが先行するものの、同時に経済のソフトランディング期待から株価持ち直しが支えとなって、ドル/円の下げ幅は限定されるのではないでしょうか。
☆想定するシナリオ
パターン | 時間給/前月比 | 想定されるドル/円の値動き | 理由 |
A | 0.5%以上 | 発表後、60銭超上昇 | インフレ加速で米金利上昇 |
B | 0.2-0.4% | 発表後、30銭程度で上下動 | インフレへの評価分かれる |
C | 0.1%以下 | 発表後、60銭程下落 | 物価上昇一服で金利低下 |
図表4.[雇用統計の実績と予想]
年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||||
予想値 | 実績値 | 修正値 | 予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年05月 | 32.5 | 39.0 | – | 3.5 | 3.6 | – |
2022年04月 | 39.1 | 42.8 | 43.6 | 3.5 | 3.6 | – |
2022年03月 | 49.0 | 43.1 | 42.8 | 3.7 | 3.6 | – |
2022年02月 | 40.0 | 67.8 | 75.0 | 3.9 | 3.8 | – |
2022年01月 | 15.0 | 46.7 | 48.1 | 3.9 | 4.0 | – |
2021年12月 | 40.0 | 19.9 | 51.0 | 4.1 | 3.9 | – |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 実績値 | 実績値 | |
2022年05月 | 0.4 | 0.3 | 62.3 |
2022年04月 | 0.4 | 0.3 | 62.2 |
2022年03月 | 0.4 | 0.5 | 62.4 |
2022年02月 | 0.5 | 0.0 | 62.3 |
2022年01月 | 0.5 | 0.7 | 62.2 |
2021年12月 | 0.4 | 0.6 | 61.9 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ADP雇用統計(万人) | ||
予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年05月 | 29.5 | 12.8 | – |
2022年04月 | 39.5 | 24.7 | 20.2 |
2022年03月 | 45.0 | 45.5 | 47.9 |
2022年02月 | 38.8 | 47.5 | 48.6 |
2022年01月 | 20.8 | -30.1 | 50.9 |
2021年12月 | 40.0 | 80.7 | 77.6 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
4.今回の戦略
発表前のレベルによっては調整が必要ですが、シナリオ(A)なら買いで追随し、131円台回復、年初来高値の131.347円(5月9日)を意識する展開になりそう。(B)の場合なら、株価と金利動向が交錯して方向感が定まらず、129.700-130.000円を中核レンジに振幅。そして、(C)の場合なら売りで追随し、129.000円付近で買い戻すイメージでしょうか。筆者としては、仮にインフレがピークアウトしたとの見方が強まっても、高インフレが継続しそうなため、シナリオ(B)を念頭に置いています。
図表5.ドル/円チャート-8時間足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
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