“円、独歩安。”

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どうやらゲームチェンジを迎えたらしい円相場が独歩安の展開を見せている。

先週の主要通貨ペアーの終値ベースの動きを見てみると、以下の様になる。

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主要通貨は対ドル、対円共に上伸しておりドル安&円安となっているが、円の下落ぶりが顕著で、正に円の独歩安と言える。

先週はFOMC.と日銀政策決定会合が開催されて前者では市場の予想通りに0.25%の利上げが決定され、後者ではこちらも市場の予想通りに何の政策変更は無く、それどころか黒田日銀総裁は、“商品価格の上昇で物価が2%になっても目標達成ではない。”と言い切り、現在の物価上昇は気にせず、超金融緩和政策の継続を行うと宣言した。
また、“最近の輸入物価の上昇に関しては円安が要因は大きくない。”とし、“ファンダメンタルズを反映した円安は日本の経済・物価にプラスである。”として、現在の円安状況を容認する発言をした。

これはしたり!

現役時代に大変お世話になったので黒田さんに盾突く積りは無いのだが、このご意見には承服しかねる。

“商品価格の上昇で物価が2%になっても目標達成ではない。”に関しては、確かに現在の世界的な商品価格の上昇はウクライナ問題などの地政学的リスクによるものであるが、円安が更に我が国国内での物価上昇の後押しをしていることには疑いの余地も無い。
当然、“最近の輸入物価の上昇に関しては円安が大きな要因ではない。”とのご意見には承服しかねる。

“ファンダメンタルズを反映した円安は日本の経済・物価にプラスである。”は全く理解出来ない。

先ずは円安が日本の物価にプラスとなる筈は無い。
一国の通貨安はインフレを助長すると言うのは世界の常識である。

円安が日本の経済にプラスであるのはかつて我が国の貿易収支が黒字であった頃の話であって、貿易赤字が7ヶ月連続となり経常収支までもが2ヶ月連続赤字の現状では円安は日本の経済にマイナスである筈である。

円安がプラスとなるのは輸出で外貨を得ている輸出業者と既に外貨資産を保有している一部の投資家であり、今は輸出額を超える輸入を行っている輸入業者にとっては円安は甚だ不利益な筈である。
かつては貿易収支の赤字を所得収支の流入(特に外貨建て資産の利息の円転)で補っていたが、現在は企業が外貨建て資産の利息などの所得を円転せずに外貨で保有するケースが多いらしく、外貨が入って来ない。
もしかしたら円安進行をほったらかしにしていることが彼らの外貨保有を促しているのかも知れない。

円安が進むことによって我が国の購買力は減り(海外に行って、物価やレストランの価格の高さに驚かされる。)、輸入に対する支払額が増え、円安による輸入物価上昇=消費者物価上昇のどこが我が国の経済にとってプラスなのだろうか?

黒田総裁は今は兎に角就任時にぶち上げた“消費者物価を2%まで引き上げる。”と言う公約を実行するのが来年の退任を控えての“最後にやる事。”であり、もしそれを実現する為に円安進行を放置するのなら、何時かはそのツケが回ってくるのではなかろうか?

実は為替政策は日銀の管轄ではなく財務省のものである。
その責任者とも言える財務省の神田財務官は先月、“円安進行に伴う経済影響にはプラスとマイナスの両面がある。”と述べたが正に正論である。

さらなる円安進行がよりプラス面に貢献するのか、それともマイナス面を助長するのか?

昨日、パウエルFRB.議長が次回からの利上げ局面で0.5%の利上げの可能性を示唆して今朝の東京市場でドル・円相場は一時120円の大台を超えたが、日米金利差拡大、日本の国際収支悪化、商品価格上昇などの現状を見ると、このままでは円安進行を妨げる要因を見付けることは難しい。

唯一の頼みの綱は矢張り政府の意向を受けた金融当局(と言っても財務省のことだが)の円安牽制であろうか?

元財務官の方々の意見は分かれる。
Mr.Yen.の異名を持つ榊原元財務官は、“120円を超える円安は過度の円安であり、強い円は国益だと言う前提に立って円を強くする政策に転換すべきだ。”と言い、渡辺元財務官は”120円を超える可能性はあるが130円、140円となる可能性は無いとし、円高誘導の為の為替介入や日銀の金利調整は余り効果は無い。”と言う。

渡辺元財務官の“相対的に大企業よりも中小企業の声が大きくなっており、円安で困ると言う声が政治家に届く様になった。”とのコメントは興味深い。

個人的には120円超えの円安が定着、そして更なる円安が進むようであれば当局の円安牽制が有る可能性が高いと思う。

この動きを見て今週のテクニカル分析の見立ては勿論更なる上昇を見込むが、テクニカル分析は上で述べた様な当局の意向とか市場のセンチメントの変化には無力であることを忘れてはなるまい。

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