更新日時:2022年03月07日 14時00分
執筆日時:2022年03月03日 14時00分
執筆者:株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
1.はじめに
2.前回のおさらい
3.今回の見どころ
4.今回の戦略
1.はじめに
2022年3月4日(金)、日本時間22時30分に米国で2月雇用統計が発表されます。今月は、前月懸念されたコロナウイルス感染者増加で働けなかった人が急増した影響があらわれるのか、ウクライナ危機など外部環境の変調も含め米金融当局の引き締めの道筋にどう作用するのか、ポジティブサプライズがあるとすればどのようなときかなど、チェック項目が多岐にわたり市場の関心も高まっています。イベント前にこうした点をざっくりと整理し、対応をある程度想定しておけば結果をみた時に慌てずに済みそうです。早速、前回の振り返りから始めましょう。
2.前回のおさらい
・時間給は前月比0.7%増
・ドル/円は115.431円まで上昇後、115.20円付近へ低下
2月4日、米労働省が発表した1月の非農業部門雇用者数(NFP)は市場予想の17.0万人増を大幅に上回る46.7万人で着地。また、12月分のNFPも19.9万人増から51.0万人増へ上方修正されました。直近2カ月で約98万人の雇用が創出されたことになり、雇用市場の基調の強さや、インフレ高進が確認される結果となりました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)※出所:米国労働省
産業別 | Jan-21 | Nov-21 | Dec-21 | Jan-22 |
全体 | 520 | 647 | 510 | 467 |
製造分野 | -11 | 99 | 62 | 4 |
鉱業・林業 | -8 | 4 | 4 | -4 |
建設業 | 3 | 47 | 26 | -5 |
製造 | -6 | 48 | 32 | 13 |
非製造業分野 | 434 | 528 | 441 | 440 |
倉庫 | 13.5 | 14.9 | 20.4 | 16.4 |
小売 | 73.40 | 19.9 | 40.1 | 61.4 |
運輸 | 33 | 37.2 | 25.3 | 54.2 |
公益(電気・ガス・水道) | 1 | -0.8 | -0.8 | 0.1 |
情報 | 26 | 18 | 12 | 18 |
金融・保険 | 11 | 32 | 17 | 9 |
専門・企業向け | 111 | 111 | 88 | 86 |
医療・教育 | 28 | 69 | 50 | 29 |
レジャー・娯楽 | 128 | 191 | 163 | 151 |
その他のサービス | 9 | 36 | 26 | 15 |
政府分野 | 97 | 20 | 7 | 23 |
結果を受けた為替市場はドル買いで反応。114.95円前後だったドル/円は、一時115.41円レベルまで高値を更新しました。ただ、年初の高値116.347円からのレジスタンスラインが走る同水準では上昇の勢いが和らぎ、115.20円付近へ押し戻されました。また、金利上昇懸念でグロース株は伸び悩み、ダウ工業株30種平均は前日比21.42ドル安い35089.74ドルで取引を終えました。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
3.今回の見どころ
・他の雇用指標はこれまで通りの堅調ペースを維持、40万人が予想中央値
昨年末から今年初めにかけて米労働市場は弱含んだと思われていましたが、蓋を開けば米雇用市場の底堅さを改めて確認する結果でした。数字がぶれた要因は年次改定によるものですが、変更によりコロナウイルス感染症の影響で統計値が実態より弱めに誘導されていた可能性が示唆されました。これまでのデータからは、コロナ前の水準まで労働者が戻るのは今年8-9月ごろと推測されていましたが、年次改定でそれが今年6-7月ごろへ前倒しされています。こうした修正点を織り込んだ結果、1月後半の米FOMCでタカ派化が進んだとすれば納得がいきます。
では、2月のNFPはと言えば、米求人件数が昨年6月以降1000万人の大台を上回っているほか、足もとの新規失業保険申請件数も低水準にとどまっており、雇用市場に大きな変化はみられていません。そのため、NFPの予想値は直近の平均値となる55-60万人程度が妥当なレベルと考えます。もっとも、冬場の悪天候や新規コロナウイルス感染により働けなかった人が急増した点を考慮すれば、40万人前後が予想中央値になりそうです。また、コロナ感染により働けなかった人については、前月分の統計値が大幅に下方修正される不安もありますので、今月も予想の幅が広がる見通しで注意は怠れません。
図表3.米求人件数と失業保険申請者件数
データ:米労働省、作成:外為どっとコム総研
・市場のスローペース見通しにどう影響するかがドルの強弱を左右
・タカ派ペースを一時的に緩めたとしても、のちのタカ派化は避けられず
もっとも、市場の関心は3月利上げの有無ではなく、3月以降の金融引き締めのスピードへ向いています。市場参加者が想定する利上げスピードをあらわすCMEのFedWatchツール(https://www.cmegroup.com/ja/trading/interest-rates/countdown-to-fomc.html)をみると、ウクライナ進攻やパウエルFRB議長の利上げ幅言及もあって、3月利上げが0.25%に留まるとする見方がほぼ100%になっているほか、0.5%になるとの見方は皆無です。5月も0.25%が8割、0.5%が2割弱にとどまっており、利上げの序盤戦がスロースペースになるとの思いが市場関係者の間では強いようです。ロシアによるウクライナ侵攻までは、3月の0.5%利上げが4割、5月の0.5%利上げが3、4割あったことを考えると、市場は外部環境を見極めるため「5月ぐらいまでは0.25%に留める」とのムードに変わってきています。
図表4.米3月FOMCでの利上げ織り込み度
※出所;CME Group
こうした点を踏まえると、積極的な利上げ期待が後退したとする市場の思いに対し、結果がどのようなインパクトを与えるのかといった点が今イベントでの最大の焦点と言えそうです。また、FRB議長が「インフレが高止まりすれば0.5%利上げもあり得る」と近い将来の大幅利上げに道を残しており、時間給のデータにも気を配りたいです。個人的には、ロシアのウクライナ進行による流動性低下の影響からFRBがタカ派ペースを一時的に緩めたとしても、現状のインフレ上昇ペースではすぐさま利上げ幅拡大の議論が再燃するのではと危惧しています。果たしてどうでしょうか。
取りあえず、55万人以上なら5月0.5%利上げを織り込みにいく過程でドルが買われやすくなり、35-55万人程度ならコンセンサス通りでドルはもみ合い相場、そして35万人以下なら7月も0.25%に留まるとの思いからドルは小幅に調整すると予想します。その上で、ポジティブサプライズがあるとすれば、早期の0.5%利上げの必要性が意識されるほどの強い結果が示されたときで、そうしたケースはNFPが80万人程度まで上振れしたときとなるのではないでしょうか。
☆想定するシナリオ
パターン | NFP | 想定されるドル/円の値動き |
A | 55万人以上 | 5月の0.5%利上げ幅見通しが持ち直し、年初来高値(116.347円)更新を目指す (※80万人程度なら5月0.5%利上げ織り込みで117円回復を目指す) |
B | 35-55万人 | 114.80-115.30円のレンジ相場へ |
C | 35万人以下 | 114.50円割れトライ |
図表5.[雇用統計の実績と予想]
年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||||
予想値 | 実績値 | 修正値 | 予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年02月 | 40.0 | 67.8 | – | 3.9 | 3.8 | – |
2022年01月 | 17.0 | 46.7 | 48.1 | 3.9 | 4.0 | – |
2021年12月 | 40.0 | 19.9 | 51.0 | 4.1 | 3.9 | – |
2021年11月 | 55.0 | 21.0 | 24.9 | 4.5 | 4.2 | – |
2021年10月 | 45.0 | 53.1 | 54.6 | 4.7 | 4.6 | – |
2021年09月 | 50.0 | 19.4 | 31.2 | 5.1 | 4.8 | – |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 実績値 | 実績値 | |
2022年02月 | 0.5 | 0.0 | 62.3 |
2022年01月 | 0.5 | 0.7 | 62.2 |
2021年12月 | 0.4 | 0.6 | 61.9 |
2021年11月 | 0.4 | 0.4 | 61.9 |
2021年10月 | 0.4 | 0.4 | 61.7 |
2021年09月 | 0.3 | 0.6 | 61.7 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ADP雇用統計(万人) | ||
予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年02月 | 38.8 | 47.5 | |
2022年01月 | 20.8 | -30.1 | 50.9 |
2021年12月 | 40.0 | 80.7 | 77.6 |
2021年11月 | 52.5 | 53.4 | 50.5 |
2021年10月 | 40.0 | 57.1 | 57.0 |
2021年09月 | 43.0 | 56.8 | 52.3 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
4.今回の戦略
ここ数カ月のチャートを振り返ると、下値が着実に切り上がっている一方で、上値が抑制され上方向は窮屈なイメージです。実勢レートはいくつかのオシレーター系指標との間でダイバージェンスとなっており、一段の上昇には早急な116.350円レベル突破が求められるでしょう。予想比強めの結果なら、116.350円突破を期待して買いで追随し、同レベルでの売り圧力を見極めたいです。予想内の着地なら、レンジの上下限で逆張りで短期回転、予想を下回った場合には、ウクライナへの警戒心も後ろ盾に売り目線で行動です。ただし、有事のドル買いから下方向は限られそうなため、こまめに利益確定を心掛けたいです。
図表6.ドル/円チャート-日足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」、下段はMACD
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