米国、欧州、英国、そしてオーストラリアの主要中央銀行が揃って金融緩和政策からの脱却、或いは引き締め政策へ転換する中、我らが中央銀行の日銀が驚くべき発表を行った。
休日前の10日木曜日、他国の金利上昇を受けて日本10年債利回りが日銀が上限とする0.25%に近い0.231%へ上昇したことを受けて、14日に10年物国債の指値オペを利回り0.25%、金額は無制限で実施すると発表したのだ。
先月外資系通信社が“世界的なインフレ圧力と円安傾向を背景に、日銀が金融政策の修正に向けた検討を始める。”と報道し、黒田総裁はその後の記者会見で全面否定したものの、この報道が官邸筋からのリークではないかなどの憶測と共に、市場は“その可能性は無きにしも非ず。”と考えていた矢先での発表であった。
0.231%まで上昇した局面で,“日銀はどうするんだろう?”との憶測は有ったが、ここまで露骨に0.25%を超えさせないと言う意思表示をするとは思っていなかった。
その効果は抜群で、一時0.244%まで上昇していた10年債利回りは本日正午現在で0.209%まで急落している。
何を今さらと言う感じもするが、この日銀の“長期金利の上限を0.25%に抑える。”と言うYCC.(イールド・カーブ・コントロール)や今回の指値オペは、“長期金利は市場が決める。”と言う市場原則に抗ったものではないのではなかろうか?
市場が落ち着いていれば安全資産である債券は売られ、金利は上昇する。
逆にリスク・オフになればリスクを避けて安全資産である債券が買われて、金利は低下する。
10日に発表された1月の米国消費者物価指数が40年ぶりとなる7.5%の上昇を見せて米国10年債利回りが2.043%まで上昇した後、金曜日にはウクライナ情勢の緊迫増加を受けて債券が買われて利回りは1.918%まで急落した。
市場のメカニズムとはこう言うものである。
それを一方的な無制限購入の指値オペによって、金利の上昇を抑えると言うのは理解出来ない。
この買いオペによって当然市中にお金が流れる訳で、ある意味日銀が量的緩和を行うことになり、世界の金融市場の流れ(或いは世界の中央銀行の政策の変化)と逆行する。
孤高の日銀か?
この流れを受けて当然円安が進み、一時今年の高値に近い116.33までドル高&円安となったが、上述した様に突然のウクライナ情勢の悪化でリスク・オフとなり、株安、債券高(金利低下)、ドル高&円高となってユーロ安と円高の結果ユーロ・円は一時2円20銭の大下げを演じ、その他クロス・ベースでも円高が進んだ。
ウクライナ情勢に関しては北京オリンピックが終了するまでウクライナへの武力侵攻を待ってくれと習近平国家主席がプーチン大統領に要請したとの観測が有ったが、米国国家安全保障担当のサリバン大統領補佐官は、“何時ロシアによるウクライナへの侵攻が開始されてもおかしくはない。”と述べて、ウクライナ在住の米国民に対し24~48時間以内に国外へ退去する様に呼び掛けた。
驚きの1月の米国消費者物価指数の結果により、3月以降のFRB.による更なるタカ派的な金融政策により金利上昇&ドル高のイメージを描いていた上に日銀の指し値買いオペで円安進行を当然と考えていた市場参加者は、ウクライナ情勢の突然の悪化によるリスク・オフで冷や水を浴びせられた。
正に年初から議論していた、ファンダメンタルズによるドル高&円安の動きと、突然の地政学的リスク勃発によるドル安&円高の鬩ぎあいをたった1日で見た気がする。
難しいのはドル・円に関しては、“FRB.が3月からどんどん金利を上げるし、日銀は金利の上昇を抑えるんだから、ドルを買っておいても良いだろう。”と思うものの、金曜日に見た様にウクライナで何か起きればもう一段、或いは更なる円高が進んでもおかしくはない。
それに日銀の決定により円安が進み易いことは財務省や官邸は理解しており、これ以上の円安進行を潔しとしない雰囲気が有る事は事実である。
ファンダメンタルズ(米金利上昇、日本金利低下或いは据え置き。米国経済の堅調さ。)に賭けて長期的な観点からドル・円を買うか、それともリスク・オフ(ウクライナや北朝鮮などの地政学的リスク。)を頭に置きながら政治的な思惑(当局と政府筋による円安牽制。)を嫌って思い切ってドル・円を売ってみるか?
取り敢えず、ウクライナ情勢の様子を見ながら短期売買に終始するのが賢明な様である。
今週のテクニカル分析の見立ては買われ過ぎを警戒して、何方かと言うと下へのブレークに注意。
突然のドルの上昇は有り得ないが、突然の下落は有り得ると考えておこう。
115.00を下切ったら、更なる下落も有り。