週初発表された弱い米7月ISM(供給管理協会)製造業景況指数や週央に発表された米7月ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)雇用統計が市場予想を大きく下回り、一時米長期金利と株価は下落したが、その後週次の米新規失業保険申請件数が減少し米雇用環境の改善期待が高まると、長期金利と共に株値は上昇に転じ、金曜日に発表になった7月の雇用統計が失業率(5.4%)、非農業部門雇用者数(+94万3千人)、時間当たり賃金上昇(前月比+0.4%、前年比+4.0%)の全てで好転して週を終えてみると、10年債利回りは1.3%台を回復し、ナスダックは木曜日、ダウとS&P.は金曜日に史上最高値を更新した。
ドル・円相場はレジスタンス(下値支持線)と思われた90日移動平均線の在った109.70を下切れば下落が加速すると思われ、案の定安値108.73迄下落したが、その後10年債利回りの上昇に伴って徐々に値を戻し、“10点満点。”であった7月の米国雇用統計発表後は高値110.35迄ドルが買われた。
結局は109円~111円のレンジを確認した形となったが、長期金利が週初の1.1%台から1.3%台へ急上昇した背景には何人かのFRB.高官のタカ派的(金融緩和に消極的)な発言が挙げられる。
特に今まではどちらかと言うとハト派的(金融緩和に積極的)と見做されたていたクラリダFRB副議長が年内のテーパリング発表と2023年早期の利上げ開始を示唆した事は注目に値する。
パウエルFRB議長は7月のFOMC後の記者会見で、“テーパリング開始には課題がある。向こう数カ月間にわたり力強い雇用統計を確認したい。”と述べて相変らず慎重姿勢を崩していないが、6月の雇用統計の数字(失業率5.9%、非農業部門雇用者数+93万8千人、前月比賃金上昇率+0.4%、前年比+3.7%)と相まって、7月の数字は“力強い。”と自覚させるのに充分な物ではなかろうか?
この結果、パウエルFRB議長が8月26-28日に開催されるジャクソンホール会合で、テーパリング開始を示唆する可能性が高まったと言えるかも知れない。
米国での早期利上げ機運が再び高まればドル・円にとっては好材料となるが、新型コロナ・ウィルスのデルタ株による感染拡大や中国政府による規制強化観測などのリスク・オフ要因も無視は出来ない。
依然としてレンジ取引が続くと思うが、夏休みに入って市場参加者の減少と共に市場の流動性の低下には留意したい。
今週のテクニカル分析の見立ては先週とは逆に上サイドのブレークを示唆しており、110.60がキー・ポイントとなる。
ところで8月15日は1971年に米国ニクソン大統領が米ドルと金との兌換停止を発表した、所謂ニクソン・ショックから50年に当たる。
当時ドル・円相場は1ドル=360円に固定されていたが、米ドルと金との兌換停止の発表によりドル売りが殺到して日本政府は固定相場維持を断念し、308円への切り上げ後1973年に円は変動相場制に移行した。
塾長は1972年4月から為替業務に携わっているが、その頃は切り上げ後の1ドル=308円で固定されていた筈であるが、実は市場の実勢レートは301.10であった。
此れは常にドルに対しての売り圧力が有り、スミソニアン合意の308円の固定相場からの為替変動幅2.25%の下限で抑えられていたからである。(308×97.75%=301.07)
銀行に行くと毎日ドル・円相場は301.10で取引されており、外国為替(Foreign Exchange.)などの意識は持ち合わせていなかった。
あれから円は凡そ3倍高くなった訳であるが、正に隔世の感が有る。
変動相場制に移行してからはドル・円相場は1日に5円とか、ひどい時には9円くらい動くことも有ったが、今は1年に凡そ10円の動きに留まる。
1日にほんの数十銭の動きに留まる事も有る。
此れも正に隔世の感が有る..
さあ、現実に戻ろう。
明日は111円をトライするか?(現状から凡そ70銭高。)
それとも109.50割れをトライするか?(現状から凡そ80銭下。)