香港ドル安トレンドの背景とアリババ罰金処分の影響「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

日本人の知らない香港情勢

こんにちは、戸田です。

本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第41回は「香港ドル安トレンドの背景とアリババ罰金処分の影響」でお届けいたします。

目次

1.アリババの巨額罰金処分について
2.為替相場のアップデート

1.アリババの巨額罰金処分について

さて、ここのところ中国の規制当局は、中国を代表するネット企業「アリババ」に対して厳しく取り締まりを行っています。今月10日、規制当局はアリババ集団に対して182億2800万元(約3000億円)の罰金処分を科しました。

そもそもなぜ中国の規制当局はアリババに厳しい対応を取るのでしょうか?ここに中国の抱える問題が隠されています。

スコットランドの歴史学者であるファーガソン氏の言葉を借りると、現在の中国には3つの層が混在しています。アリババのような新興勢力が「新・新中国」、共産党などエスタブリッシュな層が「新・旧中国」、そして北部の寂れた工業地帯など農工業に従事している層を「旧・旧中国」と分類し、特に「新・新中国」「新・旧中国」の間に緊張感がある状況なのです。

事の発端は昨年の10月24日、ジャック・マー氏が有名な金融フォーラムで演説した際に、現在の中国の問題は「金融システムリスクではなく、金融システムそのものが存在しない、まだまだ未成熟な状態であること」と現在までの金融当局の取り組みを否定するような発言をしたことです。これを問題視した共産党指導層が、アリババなどテック・ジャイアント企業に対して厳しい対応を取るように仕向けました。

ようは中国の共産党が、公然と当局を非難する力をつけたテック・ジャイアント企業を抑え込みにかかっているわけです。これは中国だけではなく、今の世界の潮流ですけれども、国家が、国を超える力の台頭を警戒しているのです。ビットコインなどの仮想通貨が買われている根源的な理由もここにあると考えています。

そして、昨年の11月3日にはアリババの金融子会社である「アント・フィナンシャル」の上場延期が発表されると、翌月12月18日には中国で年に1度行われる経済政策を決める重要な会議「中央経済工作会議」において「独占禁止の強化」の必要性が指摘されます。

その後、今年の2月7日には国務院(行政の最上位機関)が独占禁止法の補助・細則として、「プラットフォーム経済領域の独占禁止ガイドライン」を制定しました。そして後付けにはなりますが、この細則をもとに今回、アリババが処罰金を支払わされることになったのです。

ですので、今回の一件に関しては既定路線であり、特別に驚くことはないのですが、「新・新中国」と「新・旧中国」の間に存在する緊張、つまり国家とテック・ジャイアント企業との関係については、今後もテーマになってくると思いますので、頭の片隅に入れておいた方が良いかと思います。

本件の相場への直接的な影響について、テック企業全般に対して影響があると思いますが、為替に関しては国と国のパワーバランスが重要ですから、軽微な影響に留まるのではないかと考えています。

2.為替相場のアップデート

先週のドル円相場は、売り先行でスタート。110.40のサポートも下抜け、ずるずると下落、週半ばは109.80でもみ合う展開が続きました。しかし木曜日のNY時間に大口の売り注文が見られ、109円丁度まで急落。ただしこのレベルでは買い優勢となり、徐々に反発すると、バイデン政権の新予算案も発表され、週末にはドルが反発。109.88まで反発したのち、109.65でクローズしました。

このような状況を踏まえて、次に、香港ドルを取り巻く環境を見て行きます。

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香港ドル(茶色)は、あしもと、米ドル高・香港ドル安の勢いが強いことがお分かり頂けるかと思います。

昨年は香港市場の大型IPOなどを控えて、米ドル安・香港ドル高が優勢で、それを香港中央銀行が米ドル買いの為替介入を行うことで、1USD=7.75香港ドルの水準を防衛していました。ところが、昨年の後半から米ドル安・香港ドル高の勢いが和らぐと、今年に入り、香港の壊滅的な政治経済状況が意識されたのか、米ドル高・香港ドル安が優勢になってきました。

また直接的な影響として、香港ドルと米ドルの金利差が縮小していることも挙げられます。

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もともと香港ドル金利は高めに設定されていたのですが、足元の政治経済環境が混迷を極める中で、香港ドル金利を引き下げてきたことも香港ドル安に効いていると思います。

ドル円の上昇も一服、足元は垂れてきていますし、香港ドル安も進んでいるとなると、香港ドル円の買い持ちについてはこのあたりで手仕舞っておきたいところです。

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次に人民元を見て行きたいと思いますが、まずはこちらのグラフをご覧ください。あしもと、香港株(茶色)だけでなく、中国株(赤色)も売られているのが分かります。

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これについては米バイデン政権による「中国包囲網の形成」が意識されていると思っています。中国ではアリババなどテック企業の台頭について、国家が優勢で片付いていますので、その件の影響ではなく、あくまで周辺国との関係が悪化していることが主因と思います。

今週末(通例ではNYクローズ後)には日米首脳会談が開かれ、そこでは主に中国の「人権問題」や「香港問題」に関する日米の強い口調の共同声明が伝わるとされています。また日米合作による「民主主義の一帯一路」構想も発表される予定です。当然、中国の反発、さらなる両国間の国民感情の悪化が想定されます

今はあまり積極的に中華圏の通貨やアセットを買いたくない、と言うのが私の正直な気持ちです。

さて人民元を見て行きます。

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チャートを眺めてみても、ドル人民元(青色)は年初から緩やかにドル高・人民元安に進んでいます。また人民元円も、ドル円の下落と、人民元安が絡み合って、不安定になってきました。

中長期で考えれば、まだまだ買っていけるのかも知れませんが、目先は人民元を買うリスクは高いように思います。私は一旦、人民元のポジションは全て落としたので、しばらくは様子を見守るつもりです。

ところで、今週金曜日のアジア時間に中国の第一四半期GDPが発表予定です。年率換算で15%強の数値が発表されるともいわれており、注目が集まっています。もちろん、昨年の第一四半期の経済活動は新型コロナウイルスの影響で最悪ですから、そこと比較すれば差は大きい訳で、あまり数値の大小に反応することではないですが、とは言え注目しておいて損はないと思います。


それでは本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

戸田裕大

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<参考文献・ご留意事項>

各種為替データ
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10月24日、中国金融四十人论坛
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東洋経済、歴史学者ファーガソンが予測する「政治と経済」
https://toyokeizai.net/articles/amp/384531

国家市場監督管理総局:プラットフォーム経済領域の独占禁止ガイドライン関連
http://gkml.samr.gov.cn/nsjg/fldj/202102/t20210207_325967.html
http://gkml.samr.gov.cn/nsjg/xwxcs/202102/t20210207_325970.html

日本経済新聞:アリババ、中国政府と緊張なお 独禁法罰金突出3000億円
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM101MR010042021000000/

【過去の「日本人の知らない香港情勢」はこちら】

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若竹コンサルティング 創業者 戸田裕大氏
2007年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本のグローバル企業300社、在中国のグローバル企業450社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019年9月CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は若竹コンサルティング代表として、為替市場調査と為替リスク管理に関するコンサルティング業務を提供する傍ら、為替相場講演会に多数登壇している。著書に「米中金融戦争 香港情勢と通貨覇権争いの行方」。
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