凄まじかった トランプ氏の追い込み
米大統領選挙は空前の高投票率となり、全米で実に1億5000万人以上が参加した。バイデン氏の得票は8000万票を超え、トランプ氏も7400万票程度を獲得した。これは歴代の一般投票獲得数では、ダントツの1位と2位である。しかも両者の得票差は4%程度。この結果を見ると、「トランプ氏の追い込み」がいかに凄まじいものだったかがよくわかる。
その効果は議会選挙に顕著に現れた。下院では民主党の222議席(▲10議席)に対して共和党が212議席(+11議席)まで追い上げた。まだ1議席が未確定とはいえ、「共和党が議席を2ケタも増やす!」という事前の予想は皆無だった。
上院もまた予想外の結果となった。民主党は48議席(+1議席)、共和党は50議席(▲1議席)で、残り2議席は年明け1月5日のジョージア州決選投票に持ち越されることになった。それというのも、ジョージア州では「過半数の票を取らなければ決選投票が必要」というルールがあるからだ。ここで民主党が2勝すれば議席は50対50のタイとなり、上院議長を兼務するカーマラ・ハリス副大統領の1票がモノを言うので、「疑似トリプルブルー」が成立する。とはいえ、ジョージア州の現職議員は2人とも共和党議員(デイビッド・パデューとケリー・ロフラー)なので、ここからの2勝0敗はやや欲深と言えよう。
選挙予測の定番、The Cook Political Reportが投票日直前の10月29日に発表した最終予想では、共和党議員23人中7人がToss up(当落線上)であると評価していた。仮に民主党がこの7議席で3勝4敗としていれば、プラス3議席となって悠々多数を得られた計算になる。ところが蓋を開けてみれば、7議席中2議席がジョージア州選出議員で、残りの5議席は全部共和党が勝っている。つまり「0勝5敗2引き分け」となった。トランプさんの「最後のお願い」効果は、こんなところにも表れている。
バイデン政権の課題
来年1月20日に発足するバイデン政権には、「ねじれ議会」の重圧がのしかかる。予算も法案も、上院の協力がないと通らない。この夏からずっと懸案となっている新型コロナ追加支援策も、下院民主党は2兆ドル規模を主張し、上院共和党は5000億ドルでいいとしている。感染者数が急拡大している現在、早期の妥協が待たれるところである。
バイデン政権としては、「いかに上院の共和党員を説得するか」を考えなければならない。幸いバイデン氏は、ミッチ・マコーネル共和党院内総務とは年も同じだし、長年の付き合いがある。両者の間で、「そこを何とか!」という会話が交わされることが増えるだろう。
「ウィズ・トランプ」時代の始まり…
それと同時に、2022年の中間選挙が早くも気になってくる。民主党は今度こそ、トリプルブルーを狙ってくる。新政権にとって、最初の中間選挙はしばしば「鬼門」となるものだが、2年後に改選される上院は共和党21議席対民主党13議席となっている。つまり民主党側が攻勢に出るチャンスということになる。今から激戦が予想されているのは、アリゾナ州、フロリダ州、ジョージア州、ネバダ州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州など。2020年選挙の遺恨を引きずる戦いとなりそうだ。
そのときになったら、トランプ前大統領が応援に引っ張り出されることはまず間違いがない。そのときの結果いかんでは、2024年選挙での「トランプ再登板」が現実味を帯びてくる。これから到来するのはアフター・トランプではなく、「ウィズ・トランプ」の時代。次なる戦いは既に始まっていると考えるべきだろう。
吉崎達彦氏
1960年富山県生まれ。1984年一橋大学卒、日商岩井㈱入社。米ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て企業エコノミストに。日商岩井とニチメンの合併を機に2004年から現職。
著書に『アメリカの論理』『1985年』(新潮新書)、『オバマは世界を救えるか』(新潮社)、『溜池通信 いかにもこれが経済』など。ウェブサイト『溜池通信』(http://tameike.net )を主宰。テレビ東京『モーニングサテライト』、BS-TBS『Biz Street』などでコメンテーターを務める。フジサンケイグループから第14回正論新風賞受賞。