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「強権中国が対ウィルス戦の希望という皮肉」武者陵司 新型コロナショック

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新型コロナウィルス感染の連鎖が、中国全体主義の終わりの始まりとなる可能性はある。新型コロナウィルスの発生と初動において、中国の全体主義が大きな責任を負っていることは明らかである。しかし新型コロナウィルス撲滅と経済正常化を中国が先導する形となり、それは習政権の基盤を一時的に強化する可能性がある。

イタリア、スペインでは武漢型の医療崩壊が起き、米欧は非常事態体制となっている。米国による対欧州渡航禁止、EU域内での移動制限と域内への渡航禁止などは、経済大動脈の遮断ととらえられ、市場にショックを与えた。新型コロナウィルス感染による世界需要の落ち込みはこれから深刻化するだろう。しかし中国では新規感染者数は数十人急減に急減、新型コロナ感染の制圧が見えきた。この中国の公表データに信頼性はないとの見方があり、そうかもしれない。しかし中国国内に限ってみれば、事態は沈静化に向かっていくことはほぼ明らかである。中国は民主主義国では見られない強権とテクノロジーを活用した監視制度によって、人々の行動に絶大な支配力を持ち、感染封印の成果をあげ、それが皮肉にも世界の『希望』になっている。新型コロナ感染の圧倒的症例情報と封印対策事例をもつ中国は、対新型コロナウィルス戦争では最前線に立っている。

中国の2月製造業PMI(国家統計局による)は35.7(前月比-14.3)とリーマンショック時(2008年11月)の38.8を下回る過去最低となった。しかし感染者数が減少し続ければ、4~6月の生産急回復が展望できる。アップルのスマートフォンを一手に生産している鴻海精密工業は、中国の操業回復が順調で、現状5割操業、3月末には正常操業に戻れると見通している。中国をハブとするグローバルサプライチェーンが再構築される公算は大きい。加えて景気対策の効果も表れよう。財政赤字対GDP比は6.1%と急速に悪化しているが、政府債務残高は対GDP比55.6%と主要国の中では最低水準であり、さらなる発動の余地は十分にある(いずれもIMF2019年10月推計値)。

このように当面の新型コロナウィルス感染戦争に中国習近平政権が勝利する可能性が高いと考えられるが、長い目で見れば、今回の感染拡大が大きな転換点になる可能性は大きい。経済不況→金融危機→社会不安→レジームチェンジ(体制破綻と再生)という長い落日と再生への行程が始まったといえるかもしれない。

過度の中国依存のリスクを認識した各国企業はサプライチェーンの抜本的見直しを余儀なくされるだろう。すでにアジア新興国の中で中国の人件費は最も高く、労働集約産業は中国から脱出しつつあった。米中貿易戦争でハイテクも脱中国を迫られつつある。新型コロナウィルスの発生は中国のグローバルサプライチェーンにおける地位を引き下げる分水嶺になるだろう。中国の貿易、経常収支は悪化し、外貨市場ではドルの調達難が一段と進行するだろう。それは国内の金融緊張を高め、バブル崩壊の土台を作る。また度重なる財政出動と公的部門による民間投融資(例えば体質が悪化した海航集団は海南省によって公的管理下に置かれた)は財政バランスを急速に悪化させていくだろう。

また、新型コロナウィルス問題は、強権的統治体制に対する根本的疑義を露呈させた。感染拡大は言論の自由を封殺した人災だとの批判は、内外から噴出している。チェルノブイリ原発事故(1986年)は、①情報隠蔽による人命の喪失、②技術・生産体制・ライフラインシステムの欠陥露呈、③混乱収束の過程での膨大なコスト、等を引き起こし、5年後のソ連体制を崩壊(1991年)に導く導火線となった。新型ウィルス問題が習近平強権体制にとって、チェルノブイリと同じような役割を果たすかもしれない、とのシナリオも必要かもしれない。

yoshizaki.jpg武者陵司氏
1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券(株)に入社。 1988年~1993年ニューヨーク駐在、(株)大和総研アメリカでチーフアナリスト、米国のマクロ・ミクロ市場を調査。1997年ドイツ証券(株)調査部長兼チーフストラテジスト、2005年ドイツ証券(株)副会長を経て、2009年(株)武者リサーチを設立。 著書に『超金融緩和の時代』等がある。