トルコでは、長年慢性的な高インフレに悩まされてきました。
特に、1980年代から現与党の公正発展党が政権を執る2002年頃までは毎年年率60～125％のハイパーインフレが続きました。
国民はお金が手元に入れば、まず、いつ値上がりするかわからない食料品や生活必需品を買い溜めし、残ったトルコリラを外貨、金貨や金のブレスレットに換金して目減りを防いでいました。
当時は金融政策の失敗によって倒産する銀行が後を立たなかったことから、「枕の下の金」と言われるように、金を寝室に隠して財産の目減りを防ぐ庶民の知恵でもありました。
政府発行の金貨『共和国金貨』
トルコには、共和国金貨といって、トルコ共和国建国の父であるケマル・アタテュルクの肖像が彫られた政府発行の金貨があります。
結婚式、赤ちゃんが生まれたとき、イスラムの儀式である男の子の割礼式などおめでたい行事のときに、お祝いとして金貨を贈る習慣があります。
22金の共和国金貨は1枚7.2グラム、2分の1金貨は3.6グラム、4分の1金貨は1.8グラムです。
金貨にはそれぞれ、ピンを通す穴がついており、赤ちゃんには産着の襟に、割礼式や結婚式のときには、割礼して着飾った男の子やウェディングドレスを着た花嫁に肩掛けをして、予算に合わせて選んだ金貨をピンで留めて祝福します。
また、結婚する娘には、将来困らないように両親や親戚が金のブレスレットを持たせ、結婚式のときに両手にはめて披露します。
普通の家庭でも、毎年何らかのお祝い事に招待されるので、共和国金貨の値動きは生活の中でも切ってもきれません。
どのテレビ局でもニュース番組の放送中は、画面下のバーナーに毎日ドルとユーロの対トルコリラレート、共和国金貨の値動きがライブで表示され、インフレなどで値上がりしそうになると、国民は政府公認の両替所や貴金属店に行って金貨を購入します。
さて、贈られた金貨やブレスレットはどうなるのかというと、政府公認ですからその日の正規のレートでトルコリラに換金できます。
ですが、贈られてもすぐに換金せずに、新婚カップルは車や住宅の購入資金に充てるために、赤ちゃんや割礼を終えた男の子の場合は子供の成長や教育の資金のために自宅で保管しておきます。
ところが、各家庭に眠っている金貨は所詮は「タンス預金」であり、市場に流通しないばかりか、強盗の被害に遭ったり、持ち逃げされたりする事件が後を絶ちません。
そこで、トルコ政府は家庭に眠っている金貨を市場に放出させるため、2018年9月から、国営の銀行に金貨を預けると、2年満期、半年ごとに1.2％の金利を提供する金債権と金の預り証を発行する政策を開始し、金貨の流通を促しました。
また、銀行では、実際に金貨を購入する代わりに、金貨を購入するための積立を行える金専用の預金口座もあります。
このように、トルコでは、金が国民の生活と密接に結びついています。
PickUp編集部 トルコ特派員
