中東情勢の混沌によりリスク・オフ、リスク・オンと目まぐるしく変わる状況のもと、107.66の安値を付けた後一挙に110円を超えたドル・円相場であるが、その後の動きが鈍い。
市場のセンチメントがドル高&円安に傾きつつある中、ドル・円はどういう訳か109.80~110.30のレンジ内に留まって大きな動意が見られない。
109.70~109.80に在った大きなレジスタンスを破り、テクニカル的にももっと上値を追っても良いと思われるのだがそうは行かないのだ。
先週日経新聞で興味深い記事を見た。
“円の理論値、1ドル107円 実勢より3円高く 為替市場にドル安圧力も。”と言うタイトルで “外国為替市場で円相場が理論値よりも割安になっている。日本経済新聞社と日本経済研究センターが最新のデータで推計した「日経均衡為替レート」は1ドル=107円と、1ドル=110円前半の実勢値に比べ約3円の円高だった。米国の利下げで日米の金利差が縮小し、理論値は円高・ドル安の方向にシフトしている。他の通貨でもドルの実勢値は理論値に比べ割高になっており、ドル安に傾きやすい状況にある。”とある。
「日経均衡為替レート」とは大胆なネーミングだが、この均衡レートは、政府債務や対外純資産、内外金利差、交易条件、貿易財と非貿易財の価格比など、マクロ経済指標を使って回帰分析の手法で推計しているとかで、極めて興味深いのは直近の日銀の大企業製造業想定為替レートの106.90と殆ど変わらないことである。
為替相場と言うものは市場での買い圧力が大きければ相場は上がり、売り圧力が大きければ下がるという単純なメカニズムで動いており、理論値とか均衡レートに収斂するとは限らないがドルの買い手が110円以上では積極的にドルを買う事を控えればチャートが指示する通りにドルが上がることは無い事は理解出来る。
110円を超えてから本邦機関投資家が(今のところ)積極的なドル買いを控えているのは、自らが考える適正相場からやや離れて来たからなのか?
塾長は仮想通貨に関して余り知識は持たないが、代表的な仮想通貨であるビット・コインが永らく5万円前後で推移した後276万円まで暴騰し、その後35万円まで暴落して現在80万円前後で取引されているのを見ると、ビット・コインにはFair value.=(適正価格)と言う物は無いんだろうなと思う。
ドル・円相場は違う。
ファンダメンタルズ=(基礎的経済要因)やテクニカル分析、そして時には政治的要因でその時点での適正相場はある程度推し量る事は出来る。
例えば1ドル=120円に成ればアメリカが黙っていないだろうし、90円に成ればデフレ脱却を図る我が国の努力が水の泡となる。
となるとその中間の105円~110円辺りは日米双方にとって“余り問題の無いレベル”なのかも知れない。
ドル・円相場を語る時によく日米金利差も尺度に使われるが、政策金利に近い2年物米国債券の利回りの動きとドル・円相場の推移を見ると興味深い。
見ると一目瞭然で、金利が上がるとドル・円相場も上がり、逆に金利が下がるとドル・円相場も下がる傾向が顕著であるが、昨年10月辺りから2年物債券利回りが1.6%で低位安定しているのも拘わらず、ドル・円相場は上昇して両者の動きの乖離が目立つ。
FRB.の金融政策が暫く現状維持であれば米国金利が急激に上昇することは考えられない。
であれば日米金利差の拡大は期待出来ず、ドル・円相場が此処から大きくドル高&円安方向に振れることは無いのではなかろうか?
とは言え、少なくともテクニカル的にはドル・円は上昇モメンタム(勢い)が有るのも事実。
トレンドに逆らわず現状では様子を見ながら、所謂適正相場(107円?)に向けて下落し始めたところを追い掛けてドルを売っても遅くはあるまい。