ジョンソン首相の「隠し玉」、新提案がユンケル委員長に評価される
ブレクジットを巡る状況は、刻一刻と変化します。当局者から厳しい発言が相次ぎ「合意なき離脱」もやむなし、と思わせる瞬間があったかと思うと、一つの発言で状況が180度変わったりします。よって、今後も当局者の発言一つ一つに一喜一憂することになるのでしょう。
ブレクジット前の、ポンド売買の基本ルールは変わりません。「合意なき離脱」の確率が高まればポンドは売られますが、「合意なき離脱」の確率が低下するとポンドは買われます。
7月24日に「合意なき離脱」も辞さないとするボリス・ジョンソン氏が英国の新首相に選出されてから、「合意なき離脱」の可能性が高まったとしてポンドは売り込まれました。議会は「EU離脱延期法案」採決に動き、ジョンソン首相は造反者には厳罰で対処するとしたことから、ポンドドルは1.2000を割り込んで1.1959へ、ポンド円は126.68円前後まで売り込まれました。
しかし、保守党から造反者が出ます。まずフィリップ・リー議員が辞任し自由民主党に入党し、保守党は過半数を失いました。そして採決では21名もの造反者を出して328対301と大差で「EU離脱延期法案」は可決されたのでした。「合意なき離脱」の可能性は大きく遠のき、ここを起点としてポンドドルは1.25以上、ポンド円は135円以上へとポンドの急反発が始まったのです。
現時点では、英議会は10月15日まで休会であり、「合意なき離脱」に突入する可能性は低いとみなされています。それ故、比較的高いレベルでポンドは取引されています。
また、いわゆる「バックストップ」を巡る状況も変化してきています。ジョンソン首相が、恐らく自身で温めていた「バックストップ」に対する代案を出してきました。代案の全容はわからないのですが、恐らく北アイルランドをEUの関税同盟に残し、グレートブリテン島の3国は関税同盟から離脱することを基本とした案ではないかと想定しております。
しかも、あの厳しいユンケル欧州委員長が、英国が提出してきた新しい離脱合意案について、「10月31日までに、われわれは成立させることができると思っている」と非常に前向きな発言をしました。
これは大きい。大きな流れが、「合意のある離脱」に向かっているということでしょう。今後も、数多くのノイズが出てくるでしょう。実際、コーブニー・アイルランド外相は「合意にはまだ近づいてない」「依然として、大きな開きがある」と発言しています。
しかしながら、ジョンソン首相の新しい提案に対し、一定の評価があり、多くの関係者が「合意なき離脱」を阻止する方向に動いています。なにより、「合意なき離脱」をいとわないと見られていたジョンソン首相自身も、それは交渉のためのレトリックであり、「合意なき離脱」を本当は避けたいのだということが明らかになっています。
メイ首相の時は、対案もなく、只々EU側に対して離脱合意案の変更をお願いするだけでした。メイ首相の誠意はわかるのですが、英国首相としては、戦略的に少しお粗末だったという印象は禁じえませんでしたが、ジョンソン首相は対案を出してきています。新しい対案に沿って、ブレクジットが実現する方向に掛けても良いのではと感じさせます。
ポンドは、9月4日のボトムから強く反発しています。少し買われすぎの懸念はありますが、方向性としては上になるでしょう。ジョンソン首相の対案に沿った、「合意のある離脱」が実現するならば、ポンドドルは1.35からそれ以上に反発する可能性はあると思います。ポンド円に言えば145円以上ということになるでしょう。先日の、英中銀政策決定会合でも示されましたが、ブレクジットが解決すれば、英中銀はゆっくりと金融引締方向に動くと見られています。金融緩和方向の話しか聞かない現状を考えると、ポンドには大きな反発力があると思われます。
慶應義塾経済学部卒。1988年ー1995年ゴールドマン・サックス、2006-2008年ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダーを歴任、その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。独立した後も、世界各地の有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。