前回~自由奔放な学生時代~
酒匂隆雄氏のディーラーとしての半生を追いながら、1人のディーラーとして得てきた数々の知見や成長譚を掘り起こす対談企画、第2話です。 高校時代にひたすら遊び尽くし、直感で選んだ北海道大学ではひたすら麻雀と大好きな英語のクラブ活動の日々。そんな3年の2月、ある銀行にいる先輩から入行のお誘いがあったもののキッパリと断ってしまった酒匂さん。果たして就職はどうなるのでしょうか?
「来てください」「行きません」
- PickUp編集部:
- 誘われたという銀行は国内でもかなり大手の金融機関です。なぜ断ってしまったのでしょうか?
- 酒匂:
- 実はすでに英語クラブの先輩がいる商社から誘われていて、そこでバリバリやりたいと思っていました。だから「行きません」と断ったんです。
すると、その銀行の先輩が「そこをなんとか!」と言ってきたので「いやだから、銀行だけは絶対に行きたくないんです」と。
- PickUp編集部:
- よほどイヤだったのですね。
- 酒匂:
- だから「そもそも僕、成績悪いんですよ」と言ったら「それも知ってます」と(笑)。
- PickUp編集部:
- どこで知ったのでしょうか。
- 酒匂:
- 当時の銀行は興信所を使って高校、大学時代の成績や交際範囲などを調べていました。特に思想に偏りがないかを調査していたようで。
- PickUp編集部:
- そういえば当時は学園紛争の時代でしたね。
- 酒匂:
- その先輩が切符を手にしているんですよ。翌朝の10時半、千歳発の飛行機の切符を。切符を見せながら「正月に帰ってなかったでしょ。帰省してはどうですか?」というんです。正月に帰省していないことも知っているんですよ。
- PickUp編集部:
- こわい!
- 酒匂:
- 「それでも行きません」と言ったのですが、「メンツを立ててください!飛行機に乗るだけでいいから!」とお願いされて。
- PickUp編集部:
- そこまで言われたら仕方ないですよね。
大荒れの面接
- 酒匂:
- それで面接にいったのですが、これが大荒れになりました。
- PickUp編集部:
- なにがあったのですか?
- 酒匂:
- だって、こっちは入る気ないんだもん。
- PickUp編集部:
- (笑)。
- 酒匂:
- 重役がずらっと並ぶ面接室で「当行を志望した理由は?」と聞かれたので、「別に志望してません」と答えたら一同「えっ!?」と(笑)。
- PickUp編集部:
- 驚いたでしょうね。
- 酒匂:
- 大学で何をしていたか聞かれたので「英語と麻雀してました」と答えて。
- PickUp編集部:
- なんて正直な......。
- 酒匂:
- あとはなぜ銀行に来たくないかを聞かれたので、「ソロバンで銭勘定をして集金をして......というのがイヤなんです」と。
「ところで尊敬する人は誰ですか?」と聞かれて、とっさに「父です」と答えました。「そういうときは歴史上の偉人などを挙げるものですよ」と笑われたのですが、これに腹を立てました。
- 酒匂:
- 父は戦争が終わって追われるように北京から引き上げてきて、全財産をなくした状態から僕を国立大まで行かせてくれたんです。すごく感謝しています。
- PickUp編集部:
- 苦労されたのでしょうね。
- 酒匂:
- だから「父親を尊敬してなにがおかしいんだ!」と返したらシーンとなりました。
- 酒匂:
- で、面接が終わって実家に帰省したんですが、翌朝の10時にその銀行から「内定したからハンコを持ってきてください」と連絡がきたんです。
- PickUp編集部:
- え、合格!?
- 酒匂:
- だからハンコも持たずに銀行まで訪ねて、改めて「僕は行かないって言いましたよ。だいたい僕が銀行に入っていいんですか?」と言ったら「そういう面白いやつがほしいんだ」と。
「銀行はたしかにソロバン勘定もするけれど、本部や企画の仕事もある。海外に展開しようとも考えている。あなたは銀行の一部しかみていない」と説得されて。まあそれもそうかなと。
- PickUp編集部:
- たしかにそうですね。
- 酒匂:
- ハンコがなかったので、入行するための誓約書に拇印で判を押しました。
誓約書には「とりあえず単位取れ」と書いてありましたね(笑)。
- (続く)
Pickup編集部より
- 自由奔放な青春時代から急展開!たった3日間で大手銀行の就職が決まりました。
- 後日談ですが、酒匂さんが銀行に入行した後で改めて人事部に自分が選ばれた理由を聞いたそうです。それによると破天荒でパワーがあることと、なにより英語が堪能であることが決め手となったようです。
- 当時の日本は高度経済成長がひとまず落ち着き、グローバル化が本格化しようという時代。金融機関も海外展開をめざして躍起になっていました。押しの強い外国人と付き合いながら海外で事業を展開していくためには、酒匂さんのようなバイタリティのある人材が欠かせなかったということなのでしょう。
- 先だって商社に入社するという約束をしていたことや、銀行に対する先入観から最初こそ受け付けなかった酒匂さんなのですが、いざ納得するとすばやく就職を決める判断力に、早くもディーラーとしての素質をうかがい知ることができます。
酒匂隆雄 氏
酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表 1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で敏腕ディーラーとして外国為替業務に従事。その後1992年、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長に就任。 その一方で2000年には日経アナリストランキング・為替部門にて第1位を受賞するなど、コメンテーターとしても高い評価を得ている。