時計は単に時を刻むだけのものではない。
ファッションアイテムのひとつとして、いつもの着こなしに華やぎを添えるだけのものでもない。実は、高級時計の所持には資産運用の意味合いがあるのだ。
だから購⼊するときは、機能や価格だけで判断するのではなく、投資と同じように、「売却」するときのことも考えて選ばなければならない。
値段が下がらないものさえ選ぶことができれば、購入費用がかかったとしても、実質的には、非常に安い費用で高級品を所有していたことになるし、価格以上の価値をもたらしてくれる可能性もある。
値崩れしない時計が何かを知れば、あなたの時計の選択肢は、ずいぶんと増えるはずだ。
再注目を浴び始めた資産としての腕時計
高級腕時計を資産として購入する人が増加中だ。
最大メリットは、実際に日常使いしながら資産形成できるところだろう。
モデルによっては毎日使い続けていても、10年後に価値が2倍になっているということもある。
一般的に、使えば使うほど資産価値は落ちるのだが、日々の使用で、どうしても付いてしまう小キズは、研磨で元通りになるし、修復できないほど深いキズを付けたり、水没させてムーブメントが動かないなど、よほど大きな問題がない限り、日常使いによって売却価格にそれほど影響は出ない。
走行距離が増えるにつれて、価値が加速度的に落ちてしまうクルマとは、まったく正反対の資産なのだ。
このように書くと、高級腕時計は夢のような商品に思えるが、当然、資産価値が落ちにくいブランドと、落ちやすいブランドが存在する。
ただ、腕時計の場合、資産価値が落ちにくいモデルは比較的予想しやすいので、初心者にもわかりやすいだろう。
最強ブランド『ロレックス』
資産価値のある腕時計は限られている。
極端なことを言うと、時計ビギナーが資産として買うなら、『ロレックス』だけを追っていればいい。
例えば、「コスモグラフ デイトナ Ref.116500LN ホワイトダイアル」は、日本での定価は127万4400円(税込)。
この時計を中古ショップに持ち込めば、コンディションがよほどひどくない限り、その買い取り価格は確実に200万円を超えるだろう。
まったくの未使用なら、230万円で売れることもあるという。転売で100万円もの利益が出るのだ。
当然ながらこの「デイトナ」、人気があり過ぎて、『ロレックス』の正規販売店では品切れが続く。
『ロレックス』の資産価値が高いのは、現在の時計市場において圧倒的な人気を誇るからだ。
「高級時計と言えば『ロレックス』」という認識は日本だけでなく、世界中で共通している。
「似合う年齢になったから」「節目の記念に」など、いい時計を買おうと考える人が、最初に候補にするブランドが『ロレックス』だ。
近年は中国をはじめとする新興国での需要が非常に高く、世界中で品不足が続いている。
それゆえ、『ロレックス』の場合、不人気モデルでも、10年後に購入価格の70%程度で売却できると言われている。
100万円で購入した時計を10年使用しても、70万円で売却できる。差額は30万円だが、1年あたりわずか3万円で、ステータス感の高い『ロレックス』を所有できると思えば、3万円のカジュアル時計を1年に1台ずつ買うよりも、ずいぶんお得な気がしないだろうか。
知名度では『ロレックス』の次に位置する高級ブランド『オメガ』の人気No.1モデル「スピードマスター プロフェッショナルRef.311.30.42.30.01.005」でさえ、定価59万4000円のところ、買い取り価格は25万円程度とされる。
購入価格の約4割に満たず、『ロレックス』の不人気モデルにも遠く及ばない。『ロレックス』の圧倒的な人気と資産価値の高さが分かるだろう。
その『ロレックス』の中で、特に資産価値が高いのが、「スポーツモデル」と呼ばれる特殊機能を備えたシリーズだ。
特にクロノグラフを備えた「コスモグラフ デイトナ」、ダイバーズウォッチの「サブマリーナー」、GMT機能を備えた「GMTマスターⅡ」、探検家のために作られた「エクスプローラーⅠ」および「エクスプローラーⅡ」を、もし定価で買えるのなら、それは大チャンスだ。
これらのモデルは10年後、定価より高く売却できる可能性がある。
ただし、将来の売却を見据えるなら、ステンレススティールモデルがいい。
ゴールドやプラチナなどの貴金属を使用するモデルのほうが、価値が高くて良さそうに思うかもしれないが、回転率が高くて、薄利多売が可能なステンレススティールモデルのほうが、実は値下がり率が低いのだ。
『ロレックス』以外では雲上ブランドのスポーツタイプ
『ロレックス』以外で資産価値の高いモデルを挙げると、超ステータスブランドのスポーツ時計になる。
具体的には『パテック フィリップ』の「ノーチラス」「アクアノート」、そして『オーデマ ピゲ』の「ロイヤル オーク」だ。
これらのブランドは、長い歴史と格式を誇り、時計業界では『ロレックス』よりも格上で、古くは王族や貴族に時計を卸していた"やんごとなき方"向けのブランド。
それゆえ、ほとんどのモデルで貴金属を採用し、価格も500万オーバーは当たり前といった具合だ。
この雲上ブランドが下界に降臨し、ステンレススティールのスポーツモデルを、比較的安価で発売したところ、これが大当たりした。
「ノーチラス Ref. 5711/1A-010」にいたっては、定価332万6400円のところ、並行店では、新品で600万を超える価格で取引されている。
中古の買い取り価格も400万円を超える。
特にここ数年は、世界的に品薄状態が続いているため、初期投資は弾むものの、価値が下がることは考えにくいので、優良な投資銘柄と言えるだろう。
時計を選ぶときに注目すべきこと
これまで、値崩れしないブランドやモデルを見てきたが、腕時計一般に当てはまる法則はあるのだろうか。
まず、ステンレススティールモデルは、貴金属モデルよりも需要が高く、回転率が高いため、どのブランドでも値崩れがしにくい傾向にある。
ただ、ケースがステンレスでも、ベルトにレザーを採用したモデルは避けよう。
夏場は汗で劣化が激しく、メンテナンスを怠ると、1年程度で使えなくなる。
いくら大切に扱っても、毎日使うなら、3年持てばいいほうだ。
売却時には純正ベルト付きが基本となるが、劣化が激しいと大幅な査定減を覚悟しなければならないだろう。
人気ブランドの限定モデルも価値が下がりにくい。
時計の世界には熱烈なコレクターが存在する。世界限定100本など、マニアにとって"垂ぜんの的"となるような時計を売り場で見つけたら、絶好のチャンスだろう。
また、少しでも安く購入して、高く売却したいなら、為替市場の動向をチェックしておこう。
高級時計の多くは、海外から商品を仕入れているので、為替の影響を受けることになる。
ただし、円高だからといって、すぐに購入してはいけない。まともな並行ショップは、海外で商品を仕入れると、まずメンテナンスを行う。
外装にキズがあれば磨き、ムーブメントもオーバーホールにかける。
結局、円高のときに安く仕入れた時計が店頭に並ぶのは、仕入れから1カ月後あたりなのだ。つまり、実際の店頭価格に反映されるまでに、1カ月程度の時差があることを覚えておこう。
なお、ブランドやモデルごとの買い取り相場は、中古ショップの買い取り担当に問い合わせできるし、ネットで情報公開されていることも多い。
時計も投資のひとつ。10年後の価値を考えて時計を見ると、これまでとは違う見え方がするのではないだろうか。
(文中の価格は、2019年1月27日現在)
PICKUP編集部