『日銀 異次元緩和の10年 その評価は』今後の為替相場を読み解くヒントをさぐる
動画配信期間
2023/3/10~
概要
元邦銀チーフアナリストで現在は大学の准教授に就任し、金融・国際経済を専門とする内田稔氏が登壇。外為どっとコム総合研究所の神田調査部長との対談形式で議論を深めます。 日銀新体制発足で日本経済の大転換はあるのか?各国の金融経済情勢はどう変化する? 今後の投資環境を整理するうえで、見逃せないセミナーです。
セミナー一部抜粋
■リフレ派の主張
(04:48頃から)
為替が大きく影響を受けたのは、背景としては明確なんですが、元々リフレ派の人たちがアベノミクスの一つの柱であった異次元緩和に大きく影響を与えたわけです。
このリフレ派の人たちの主張がここに書いている通りで、日銀がまず緩和不足であると。この緩和不足によって円高と株安が放置されていて、輸出競争力の低下、失業倒産の増加、でデフレ不況。過去のほぼ全て日銀の金融政策に由来と書いてあります。書いていることは5ページの下のところに書いてますけれども、浜田宏一内閣官房参与・エール大学名誉教授の方がアベノミクス発足前後の経済面でのブレーンだったわけですけれども、この方が本の中で書いてるキーワードを抜き出しているんですね。興味ある方は読んでいただければと思いますが、あの「年間3万人近い自殺者が出ているのも金融政策と無縁ではない」とまで言うぐらいですね、とにかく「日銀ちゃんとしろ」っていうスタートがありましたし、大きな波及経路として「円高是正」というのがありました。
具体的なデフレ脱却の経路として、どういう道筋を思い描いていたのかというのが6ページです。まずは日銀がインフレ目標を設定して、しかもそれに対してコミットした上で、マネタリーベースというお金をじゃんじゃん供給していくと、この予想インフレ率(=先々インフレになる予想)がこんなにお金がジャブジャブになるんだったら、将来インフレになるだろう、という期待感が膨らむことによって、実質金利が低下して円安が進んで輸出と設備投資が拡大し、実質国内総生産が伸びて雇用が増加してデフレ脱却、という道筋が思い描かれていたんですね。
つまりも円安になれば万事OKだろう、みたいなそうですね。為替を動かしてはいけないというのが国際的な紳士協定のようなところもありますので、決して円高を是正するとか円安誘導っていう言葉は出てこないんですが、これを見ていただきますと、とにかく緩和によって円高を是正さえすれば全てがうまくいくと。
これは6ページ下に書いてますが、当初中銀副総裁だった岩田規久男学習院大学教授が著書で書いていた通りの方策が、結局異次元緩和で採用されています。相当リフレ派の主張に沿った政策を続けてきたということが言えると思います。
■2%の物価上昇が達成できなかった理由:日本の海外進出・移転の動機や背景など
(07:56頃から)
ただ問題は、なぜそれで2%の物価目標に達成しなかったかということなんですけれども、まず、輸出が伸びてしかも設備投資が伸びるというところが、結局あまり機能しなかったんですね。で13ページのところにあるのは2011年に帝国データバンクが1万社以上に対して取ったアンケートで、海外進出や海外移転の動機や背景を聞いたものです。
確かに一番上にあるのは、円高です。2011年当時というのは相当円高でしたので、こんな状況では日本でものなんか作っていられないということであったと思います。ただ、2番目に人件費が高い、日本は先進国ですから、新興国と比べると人件費が高い。3つ目が結構大きかったと思いますが、電力などエネルギーの供給問題。もともと日本の電気代は結構高かった上に、震災を契機としましてその供給不安も生じましたので、そういった中でなかなか腰を据えて製造業というわけにはいかないというところがありました。あと、6番目の人口減少とか。海外で売るのであれば、物を作るのもその後のアフターフォローとか含めて現地で完結というような大きな流れがこの10年で加速したというのがありますね。
これが日本の主な輸出の数量です。円は変動相場制以降の史上最安値を更新する相当な円高なんですが、数量で見ますと主な輸出品目っていうのはほぼ横ば、ないしは映像機器なんかは大きく減ってしまっているという状態です。輸出が伸びないと、当然設備投資も伸びません。これが日本の設備投資でして、設備投資自体は伸びてるんですね、ですからやはり緩和の低金利によって企業の設備投資が後押しされたという部分はあったと思うんです。ただ、この設備投資の動機について、これも帝国データバンクのアンケートですけれども、最近の設備投資というのは、まずは「設備の入れ替え」ですね。設備の代替、既存の設備の維持や補修、あとは情報化・IT化関連・省力化・合理化をずっといろいろ続いていくのですが、そういった中で輸出向けの販売を増やすための設備投資はどのぐらいかというと、回答した企業の3%しか答えていないんですね。
ですから、あの先ほどご覧いただいたデフレ脱却への道筋のところで、まず輸出が伸びなかった背景というのが、為替以外にいろいろあって、輸出が伸びない結果、この輸出を増やすことを企図した設備投資が伸びなかったということが、やはり当初の目論見が一番外れたところだと思いますね。
内田 稔(うちだ・みのり)氏
高千穂大学商学部准教授。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2012年から2022年まで外国為替のチーフアナリスト。22年4月から現職。J-money誌の東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、株式会社ALCOLAB為替アナリスト。
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
本サイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。また本サービスは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであって、投資勧誘を目的として提供するものではありません。投資方針や時期選択等の最終決定はご自身で判断されますようお願いいたします。なお、本サービスの閲覧によって生じたいかなる損害につきましても、株式会社外為どっとコムは一切の責任を負いかねますことをご了承ください。