ゲーム・チェンジャーと言う言葉が有る。
動向を大きく変える人や出来事を意味するらしいが、先週発表になった10月の米国消費者物価指数(CPI.)がもしかしてドル・円相場に対してそれに当たるかもしれない。
CPI.は前年比で+7.7%と市場予想の+8.0%よりも低く、前月の+8.2%から大きく下げた。
食品・エネルギーを除いたコアのCPI.も前月の+6.6%から+6.3%へと下落し、米国のインフレが落ち着きつつあることを示す形となった。
これを受けて10年債利回りは前日の4.098%から3.810%へと大きく下落し、それにつれて146円台のミドルで静かに推移していたドル・円相場も節目の145円をあっさり下切って一時140.20を付けた後、発表当日の木曜日は140.95と5円以上の下げを演じて引けた。
翌金曜日もその流れは変わらず、一時安値138.46を付け、木曜日・金曜日の二日間で実に8円13銭の大下げを見ることとなった。
(11月10日からのドル・円相場・60分ローソク足・チャート。)
週末金曜日は138.77で引けた後週明けの本日は139.07と窓を開けてオープンした後、ものの30分もしない内に高値139.89を付け、再び140円台をトライするかと思われたが、ドルの上昇は長続きせずにお昼過ぎには再び130円台を割り込み、今までとは違ったPrice action.(値動き)を見せている。
今までの動きとは、木曜日・金曜日の様に大きく下げた後は東京市場では逆に大きく戻すと言うパターンが多いのだが、本日はオープン直後こそ値を上げたがそれが長続きせずに再び下落基調を見せている。
矢張りCPI.がドル高&円安トレンドのゲーム・チェンジャーとなったのであろうか?
今回のドルの急落の大きな原因は極めてシンプルで、マーケットがドル・ロングで捕まった為に、その損切りのドル売りが殺到した為である。
マーケットはCPI.がある程度下落することは知ってはいたが、長期金利があれ程下げて大きなドル売りに繋がるとは予期していなかった節が有る。
シカゴ・IMM.や我が国個人投資家も相当大きなドル・ロング(円・ショート)のポジションを抱えており、狼狽売りが出たのである。
因みにシカゴ・IMM.は11月1日付でネットで円のショート77,620枚(ドル換算で約65億ドルのドル・ロング。先週11月8日付のポジションは金曜日がヴェテランズディで休場であった為に公表されていない。)と依然として大きなドル・ロングに偏っていた。
我が国の個人投資家のポジションはネットで約30億ドルの買い持ちと、こちらも依然として大きなドル・ロングを抱えていた。
両者がドルの急激な下落に驚いて損切りのドル売りに走れば、当然ドルの下落には拍車が掛かる。
ドルが下がるから売る、売るから下がると言うスパイラル現象が起きた。
問題はこのドルの下げに乗じて両者を筆頭とするマーケット参加者がドル・ロングを整理出来たかどうかであるが、これは分からない。
筆者の推測では今日の頭の重いPrice action.(値動き)を見る限り、未だ整理は終わっていないと思われる。
ではこのままずるずると130円台のLow.まで落ちるかと言うとそうはいくまい。
取り敢えずゲーム・チェンジャーとなった先週のCPI.の数字であるが、下がったとは言え未だ+7.7%であり、FRB.がこれを元に金融引き締めのペースを緩める事はあれども、中止することは無い。
言い換えれば12月を含めてあと数回の利上げが行われることは必至であり、依然として日米金利差が開く傾向は変わらない。
今週はFRB.高官の講演・スピーチが相次ぐが、“一回の物価指数を見て金融政策の変更は有り得ない。”などのタカ派的発言が出れば、ドルが有る程度値を戻すことは十分有り得よう。
マーケットは“Tears and blood.”(血と涙)で溢れていると聞くが、唯一人ほくそ笑んでいるのは我が国の財務省であろうか?
今回の突然のドルの下げで労せずして(介入無しで)ロケットの発射台が低くなり、ある意味投機筋がぎゃふんとなったのであれば、彼らの思う壺である。
週末、気になるニュースを耳にした。
イエレン米財務長官が、“我々の政策はその影響が他国に波及するものであり、ドルがこれほど強い環境において当然ながら、多くの国が米国の政策が自国通貨に波及する影響を懸念している。”と述べたと言うものである。
どういう場でこの発言が為されたかは定かではないが、ここ暫く“G7.がドル高是正のためにプラザ合意の様な行動を取る画策をしている。”との憶測が、まことしやかに囁かれていた。
塾長はこの様な行動が起こされる可能性は低いと思うのだが、日米間で例えば介入に関してある程度の“握り。”(米国が日本の単独介入には目を瞑ると言う暗黙の約束。)が有ったであろうことには驚かない。
何れにせよ再三述べて来た様に、当面のドルの高値(151.94)を上切る可能性は相当低くなったと思われるが、短期的なドルの戻りの可能性は大であろう。
マーケットのドルのロングが無くなったと判断出来れば、逆張りのドル買いを行っても面白いかも知れない。
今週のテクニカル分析の見立ては下落トレンドを追って更なる下値を模索するが、深追いは禁物。