“二つの狙い。”

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先週のドル・円相場は節目の150円や大量のオプション玉が存在した150.50を簡単に上切れし、金曜日の日本時間午後9時頃には高値151.94までドルが上昇した。

多少の時間のずれはあるだろうがその時刻にFRB.が往々にしてわざと情報を流して市場の雰囲気を図ると言われているウォールストリート・ジャーナルのニック・ティミラオス記者が、“11月のFOMC.では0.75%利上げを行うが、同時に12月会合で0.5%へ利上げ幅を縮めるのにどうやって市場に説明していくかを議論する。”と報じて、一時2007年11月以来の高水準であった米国10年債利回り4.338%が4.208%まで急落し、長期金利の低下を好感して株価が上昇する中、ドル・円相場は突然151円から一気に5円以上下げて一時146.22まで急落した。

(10月21日からのドル・円・60分・ローソク足チャート。)

日経新聞が“我が国金融当局の介入と見られる大量のドル売りでドル・円相場は一気に7円以上下げて144円台に突入した。”と伝えたが、これは誤報である。

慌てた記者が同じく148円台から144円台へと暴落したユーロ・円の相場と混同したのだろう。
日経新聞にしては珍しいチョンボであった。

介入と思しき売りで下げたドル・円相場は147.63で週を終え、本日月曜日は147.98で窓を開けて始まった後、東京市場のオープン(午前9時)を前にしてじわじわと値を上げ、149.69の高値を付けて再び150円を伺う展開となっていたところに再びドル売りが入り、一気に145.45へと4円以上も急落した。

我が国財務省のドル売り介入であった事は想像に難くない。

9月22日の介入の際は鈴木財務大臣と神田財務官が介入を行ったことを正式に発表したが今回は“介入したか否かは公表しない。”と態度を変えた。

その後神田財務官が、“24時間、360日、適切な対応を取る。”と話し、松野官房長官が、“投機による過度な変動は容認出来ない。為替市場の動向を高い緊張感を持って注視。為替の水神についてのコメントは控える。”、岸田首相が、“外貨準備は今後の状況に対して為替介入に備えておくことが重要。”と話したが依然として介入の事実を公表していない。
何れ月末にはその事実は分かる事なのだが..

介入した事を公に認めないことを覆面介入と呼ぶが、これはこれからも続行されるであろう。

どうやら財務省は介入を行うに当たって、二つの狙いを持っているらしい。

先ず一つ目はドル売り&円買い介入を行って、ドル高&円安進行のスピードを落とし、同時にドルの高値を抑える。
此のレポートでも紹介した、“ロケットの発射台を低くする。”と言うことである。

介入が無ければもっと速いピッチで150円台を突破し、今度は155円、そして160円を試す展開となっていたことであろう。

そして二つ目は投機筋をぎゃふんと言わせることである。
驚いたことに我が国財務省は日米金利差拡大と我が国ファンダメンタルズ悪化に伴ってドル高&円安が進行することは、ある意味仕方ないと達観している。

問題はその速さとレベルである。
半年で115円から150円へのドル高&円安進行は“Enough is enough.”(到底許容出来ない。)であり、“断固たる措置を取る。”のである。

9月の凡そ2兆8千億円の介入で我が国のひと月分の貿易赤字を補填した形なったが、金曜日と今朝の介入で同じく何か月分かの貿易赤字を補填したことであろう。
市場での実需のドル不足を介入でもって和らげたのである。

それでもドルが上昇するとしたら、それは“投機筋の思惑。”であり、それを断固たる措置を(ドル売り&円買い介入)を取って阻止しようと言うのである。
そして投機をする輩をぎゃふんと言わせたいのである。

円安のディメリットが大きく叫ばれだした今日この頃、結構な事ではなかろうか?


個人的には150円前後は当面のドルの高値に近いのではないかと思っている。

最大の理由は金曜日のウォールストリート・ジャーナルでも報道されたFRB.による金融政策の変化の兆しである。
同日、タカ派(金融引き締めに積極的)と目されるサンフランシスコ連銀のデイリー総裁が、“利上げペースを緩める時期に来ている。”と述べており、ウォールストリート・ジャーナルの記事とも一致する。

そして次の理由は我が国財務省のドル高&円安進行阻止への強い意志である。
金曜日深夜の介入が邦銀を使って行われたのか、或いはFRB.に委託介入を頼んだのかは不明であるが(今回の介入を公表しない理由が委託介入であった可能性を示唆している。)、もし後者であれば米国が我が国の介入に対して相当寛容であった証左であったとも言える。

それと神田財務官が先週、“介入資金は無限に有る。”と述べたが、これはどう考えても不思議である。
介入資金の財源は昔の貿易黒字とドル買い介入によって貯め込んだものであり、凡そ1兆2千億ドル程度と潤沢である。
潤沢とは言え限りが有る。
この1兆2千億ドルが我が国単独介入の限界の筈である。

何故無限に有ると言い切れるのか?
穿った見方は、“日本単独の介入ではなくなる。”と言うことであるが、考え過ぎであろうか?

ところで我が国個人投資家は先週火曜日(ニューヨーク市場の終値は149.01)の段階で僅かではあるが、ドルの売り持ちに転じている。

現在では東京外為市場の出来高ベースでインターバンク市場(銀行間同士の取引)をも凌ぐと言われる個人投資家の動きを過小評価する訳には行くまい。
彼らが一転してドル買い・ポジションからドル売り・ポジションに転じたことは注目に値する。

(黒い線がドル・円相場、赤い線が個人投資家のネットのドルの持ち高を表す。)


今週のテクニカル分析の見立てはドルの高値は限定的で下落に注意。
147.50を下切ると145.00まで下げる可能性を示唆。

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