(画像=PIXTA)
結局、Cさんの説明を受けて現金を渡してしまったAさんの「怪しい投資」が始まります。個人アカウントにログインして資金が増える様子にうれしくなったこともあったそうですが、その後、グループチャットに次々と新しい通知が送られてきて、投資話の内容がどんどんと変化することに、次第に不信感を抱くようになります。
配当金を得るための専用カードまで作成したものの、さらに内容は複雑で、手続きも煩雑なものになり、結局、投資を諦めてしまいました。いったいこの投資会社は何で資産を運用し、どのようなことをしていたのでしょうか。(前編へ戻る)
結局FXだけだった?
まず私はグループチャットの連絡から、投資会社の公式発表を探しました。外国語からの翻訳のようで、日本語の文章としては稚拙で、非常にわかりにくいものでした。「今期(2020年4月〜)の取り組み」に、投資に関する記述があったので、その部分を拾ってみます。
- (1)暗号資産による投資銀行業務
- (2)FXトレード
- (3)医療・美容で注目度の高いCBD(カンナビノイド)の製造・販売
- (4)中国映画への出資
ただ、(3)CBDの製造・販売については「数千億ドル出資した」としているものの、収益を得るのはこれからです。(4)も中国映画に出資して、チケット販売で回収するという計画だけで、いずれもまだ利益が出ているわけではありません。
また(1)「暗号資産による投資銀行業務」では、米国株、金属などの先物、株価指数、CFDなどの金融商品に投資をして、「AIを使った自動のアービトラージで利益を得る」と説明していますが、今後の取り組みなので、その時点では、まだ投資されていません。
残りは(2)のFXトレードです。確かに「雇用統計」のような重要指標発表時に、会社のトレーディングチームが行うFXトレードの様子が確認できるアカウントのアドレスとログインパスワードが通知されています。アドレスとログインパスワードは2つ用意されているので、CさんがAさんに説明した「2つのファンドで資金は運用されている」という点とも符号します。
Aさんは「2つのファンドのどちらかは必ず利益が出るので、結果的に損はしない」というような説明をCさんから受けていたようです。ただ「絶対に損をしない」と断言できる投資はあり得ませんから、投資勧誘の説明としては完全にアウトです。
相次ぐ出金トラブルと急浮上した新会社
この投資会社はさらに大きな問題を抱えていました。それは出金トラブルです。何度も投資家への「出金」が滞っていたようで、「出金が遅れていることに関する説明」をグループチャットで再三にわたり流しています。国民生活センターも海外FX会社で起きたトラブルの事例として「出金できないケース」を紹介していますが、それと同じようなことが、この投資会社でも起きていました。
出金トラブルに関する同社の説明は大別すると以下の3つです。
- (1)送金に暗号資産のUSDT(テザー)を使っており、業務委託された第3者の作業が遅延したため
- (2)各国政府の政策(コロナ蔓延の影響と為替レートの変動に対処する)ため
- (3)出金要請に対応するため世界20カ国以上の出資者の口座に送金したところ、各国で銀行業務を担当する当局により口座が凍結されたため
また、Cさんは投資を始めたAさんに「あまり連続で出金してしまうと、口座が凍結されてしまうので、気をつけるように」といったアドバイスを個別にしています。3つの理由はどれも抽象的すぎて、「出金停止」の説明としては、納得できるレベルのものではありません。また、CさんのAさんに対するアドバイスも不可解です。運用に失敗して資金が減ることはあっても、自分の口座にあるお金を自分の意思に反して引き出せないような投資はありません。
何度も出金トラブルが発生した後、この投資会社は、問題解決のために「暗号資産を扱う新しいデジタル銀行の設立」を発表します。つまり「これまで第3者に委託していた出金業務を自分たちでやる」ということです。Cさんは「投資会社は新しいデジタル銀行に買収された」と説明しているので、「投資会社」=「新デジタル銀行」ということでしょう。そして、入出金は新デジタル銀行経由で行われるので「必ず口座を開設するように」ということが通知されます。
口座開設のための追加費用
ところが、この新デジタル銀行の口座開設には1,000米ドルの資金が必要とされていました。この投資会社は、「最初に口座を開設した5万人までは、投資会社から500米ドルの助成金が付与され、新たに500米ドルを出すだけで口座が開設できる」といった通知を出して、口座開設の早期募集をかけ、早く口座を開設する人に有利な条件を提示します。
この通知に対して、「口座開設費用の500米ドルは、(出金できずに口座に残った)これまでの運用益から充当してほしい」と、投資会社に連絡した投資家がいたようです。ところが、会社側は「投資家個人の希望として口座が開設された証明が必要だから」という理由で、新たに現金を振り込むことを要求します。つまり、「現金を支払わない限り、口座開設は受け付けない」というわけです。
また、新デジタル銀行は初年度の利回り18%を約束していました。そして、「その利息分として、15米ドルが毎月受け取れる」と発表します。なんだかFXトレードの運用益による配当から、銀行預金による利息に、すっかり話がすり替わっています。
当然、CさんとAさんの会話も新デジタル銀行の話が中心になります。この銀行は暗号資産で顧客の資金を管理するので、すでに暗号資産の取引口座を持っている人以外が、手軽にお金を出し入れするには、「新たに銀行カードが必要になる」と言われ、結局、Aさんはカードを作る選択をします。「そのカードで買い物をしたり、ATMからお金を引き出せたりする」との説明も受けていて、年利18%の利息が2年間続けば、発行費用の38,000円は回収できると考えたそうです。
加えて、投資会社は「新デジタル銀行に再投資した人は、しなかった人よりも出金が早くできるようになる」という通知を出します。つまり「早く出金したかったら、銀行に現金を入れてくれ」というわけです。ここまでくると「新しい資金の獲得に必死」という印象です。
Cさんの「引退」と「MLM」
実はこの新デジタル銀行設立のタイミングで、Cさんから驚きの発言が飛び出しました。それは、「自分は新デジタル銀行には投資しない」というのです。そして「実際の運用はしないから、今後の問い合わせには十分に答えられない可能性がある」として、グループチャットのメンバーたちに、別人物が主催する会の有料メンバーになることを勧めます。 出金できない状態の運用益を獲得するには、新デジタル銀行に口座を開くしかありませんから、「Cさんは資金回収を諦めたのか?」という疑問が湧きます。
しかし、その答えは、この投資会社の営業スキームにありました。同社のセミナーに参加したことのある人によると、この投資会社は顧客獲得のために「MLM(マルチ・レベル・マーケティング)」の仕組みを採用していて、最大で10世代下までを紹介報酬の対象にしていたというのです。CさんはAさんに対して「紹介料や報酬はもらっていない」と説明していましたが、残念ながらそれは嘘だった可能性が極めて高くなりました。
※今回のMLMの仕組みは、このようになると考えられる。この投資会社は10世代下まで顧客獲得の紹介報酬(マーケティング費用)を出していた。つまり、孫よりも子、子よりも親が手厚く報酬を受けられる。新規顧客の獲得にかなり注力していたと言えそうだ。 (著者が取材内容から作成)
投資させた金額や獲得した顧客数で報酬額が変わるようで、Aさんに投資させたことで、Cさんがいくらの紹介報酬を得たのかは分かりません。しかし、ここまで手厚いとなると、投資で運用益を得るよりも、紹介報酬を目当てにする人が出てきても不思議はありません。
Cさんのグループチャットには約50人が参加していました。きっと日本全国にはCさんのような人が何人もいて、紹介報酬目的で一生懸命に営業し、その下には、たくさんの子や孫、ひ孫、玄孫がいたはずです。そう考えた私の頭の中では、投資参加者の数が「ねずみ算」のように増えていきます。
経済合理性がないので、とても考えにくいことなのですが、CさんがAさんに説明した通り、もしかすると本当に、Aさんの分については、報酬をもらっていなかったのかもしれません。ただ、一般的に考えて、損をした状態で投資を終わりにする人はいませんから、これは私の想像の域を出ませんが、少なくとも、Cさんは新デジタル銀行の話が出てきた時点で、出資額よりも多くの運用益や紹介報酬を受け取り、すでに黒字の状態になっていたのではないでしょうか。事実はCさんのみぞ知るわけですが、そう考えると、Cさんの「引退」発言は腑に落ちます。
疑われる「ポンジスキーム」
私の最大の懸念は、何度も出金停止に陥ったり、新しい話を持ち出して 追加資金を募ったりするようなやり方をみると、この投資案件が「集めた出資金を運用し、獲得した利益から配当金を払う」という名目で資金を集める一方で、「実際には運用せずに、新しい出資者からの出資金から配当金を支払い、資金を運用しているように装う『ポンジスキーム』という投資詐欺だったのではないか」ということです。
※本来、投資会社は集めた資金を運用し、獲得した運用益から投資家に配当金を支払うが、ポンジスキームでは投資家から集めた資金を実際は運用せずに、その資金から配当を出すので、新しい投資家から新しい資金が入らない限り、いずれ配当は止まることになる。 (著者作成)
ポンジスキームで利益が得られるのは、主催者と投資を早く始めた人たちです。その一方で投資を遅く始めた人たちは必ず損をしてしまいます。問題は、実際に配当金を受け取る人たちがいるため、「投資詐欺」であることに気付かれず、被害が拡大してしまうケースが少なくないことです。
Aさんは無記名のカードを受け取ったところで、強い不信感を抱くようになり、出金方法が面倒なこともあって、結局一度も配当金を受け取ることなく、この投資を止めてしまいました。約20万円を損しましたが、実際には運用もせず、いずれ資金が枯渇する「ポンジスキーム」だったかもしれないことを考えると、それ以上のお金を注ぎ込まず、その程度の損失で済んだのは、「不幸中の幸」だったかもしれません。
身近な人の話だからこそ慎重に
Aさんが投資を止めて約1年半後、びっくりするようなニュースが海外から飛び込んできました。この投資会社の経営者と妻、および会社メンバーたちが、東南アジアのある国で警察に逮捕されたというのです。現地の報道によれば、警察の家宅捜査の結果、金の延べ棒、多数の高級腕時計や高級自動車などが証拠品として押収され、1億人以上の人たちが詐欺の被害にあったそうです。また日本国内でも、Cさんと同じように、この投資案件を広めていた人物が、被害を受けたとされる人たちから民事訴訟を起こされました。代理人によると、被害額は数千万円以上だそうです。なおこの人物は、この投資案件とは別の複数の投資詐欺事件で、すでに警察に逮捕されています。
今回「この投資会社にあるAさんのアカウントを見せてほしい」とお願いしたのですが、「どこにも見当たらない。なくなってしまったみたい」という返事がきました。最初に声を掛けてきたBさんとは、その後、飲食店で顔を合わせたことがあるそうです。そのときに、「自分も大損をした。誘って悪かった」と謝られたそうです。
「本当に私はだまされたんでしょうか?」取材中、あれこれと質問をする私に対して、Aさんから逆に問いかけられました。身近だと感じていた人からの投資話だったから、そういう反応になったのだと私は思いました。ただ、身近な人が持ちかけてきた「おいしい儲け話」だからこそ、より慎重に考えるべきだと私は思います。何気なく乗ったその話に大きな罠が潜んでいたとき、経済的のみならず、精神的にも大きな痛手を負うことになるからです。
PickUp編集部: ライターK 大学卒業後、テレビ制作会社に勤務、NHKや民放局の報道番組でディレクターを務める。その後、出版業界に転じて金融・経済誌の編集者や記者として、政治・経済・金融などの記事制作に携わってきた。現在はフリーで活動中。FX歴は10年以上。実際にポジションを持って、FXトレーダーたちのトレード手法を確認する日々を送っている。
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