ドル・円相場が再びじりじりと上昇し、我が国財務省が9月22日にドル売り&円買い介入に踏み切った145円台のHigh.に迫ってきている。
この3週間、米国長期金利が上昇してドル全面高の様相を呈しており、依然としてファンダメンタルズ(日米金利差拡大と我が国国際収支悪化傾向)に則ったドル買い&円売り意欲と介入警戒感との鬩ぎあいが続いている。
財務省が発表した我が国9月の外貨準備高は1兆2380億ドルとなり、前月から540億ドル減少した。
鈴木財務相は7日の閣議後会見で、外貨準備高が大幅に減少した理由として、債券金利の上昇やユーロの対ドル減価、為替介入による外貨売りなどを挙げた。
減少の主因は為替介入かとの質問に対しては“介入に関する取引の内容にかかわることなので答えられない。”と回答したが、興味深いのは外貨準備の中の約1300億ドルの外貨預金残高は変わらず外貨準備高そのものが減少したことで、これは財務省が保有する米国債券を売却したことを意味する。
“単独介入と言えども、米国は我が国のドル売り介入を容認しないであろう。”との自説を述べていた評論家は“米国は介入資金調達の為の米国債の売却を許さないから、介入原資は外貨預金の1300億ドルに限られる。従って介入は難しい。”と述べていたが、我が国財務省はその米国債を堂々と(?)売却したのである。
間違い無く介入に関して米財務省の言質を取っており、それは介入後の米財務省の発言によって裏付けされた。
9月23日の介入額は2兆8382億円で145円で換算すると196億ドルとなる。
今回減少した540億ドルの外貨準備の内、実際に介入に使われた額が約196億ドルと思われるが、未だ手元に”弾は有る。”ことは間違い無い。
過去の介入が一回こっきりだった事は無い。
追加の介入が出る可能性は極めて高いと言えよう。
鈴木財務相は今朝も、“日本の為替介入について各国の理解得る努力してきた。
米側からも一定の理解得られた。”と言い切っている。
またG20.に出席予定の神田財務官も“われわれが注視しているのは急激な変動であり、いつでも必要な措置をとる用意はしている。ワシントンへの機内でも介入の決定は下せる。”と大見えを切った。
先週のレポートでも述べたが、財務省が目指すところはある特定のレベルを死守すると言うよりも、市場のセンチメントが変わるまでの時間稼ぎであろう。
要するに、放っておけば宇宙に飛び出すかも知れないロケットの発射台を低くして、成層圏内に留め置こうと言うものである。
センチメントの変化とは、FRB.の金融政策の変化(金融引き締めのスピードの鈍化。)、米財務省のドル高への牽制、そして我が国国際収支の改善などが挙げられるが、FRB.に関してはブレイナード副議長は、インフレに対し闘う姿勢を堅持しつつも、世界中の中央銀行が同時に引き締めており、その複合的効果はそれぞれの合計より大きいと指摘し、ドル高・金利上昇・海外の需要減退が米国に波及すること、そしてその逆もあることを十分考慮していると発言した。
そして、金融引き締めの負の側面に十分注意を払っているとし、予想困難なリスク事象の顕在化が政策に困難なトレードオフをもたらす可能性があるとも指摘し、高インフレ抑制に向けて積極的な利上げを続ける上で慎重な姿勢で臨むことが重要だと指摘した。
今までのFRB.高官による“いかなるリスクに直面しようとも、インフレと戦うために金融引き締めを継続する。”といったタカ派な意見が多い中、それを抑えるコメントとして捉える必要が有ろうか?
又イエレン財務長官は、FRB.による政策金利引き上げなどを背景にドル高が進んでいることに対して“為替変動がもたらす潜在的な影響に留意している。”と述べ、市場で決まる為替レートを支持するとしつつ、途上国や新興国からの資金流出につながる過度なドル高への懸念を示唆した。
少しずつセンチメントが変化しつある気がしてならない。
我が国国際収支に関しては、改善どころか悪化する一方で、今朝方発表になった8月の国際収支速報によると経常収支は季節調整前は589億円と僅かに黒字に留まったが、貿易収支は季節調整前で2兆4906億円となり、益々その赤字額は増加の一途を辿る。
貿易収支悪化が円安を助長するのか、それとも円安が貿易収支悪化を加速させるのか?
2週間前にシンガポールに滞在して円安による購買力の低さに驚愕したが、ある程度の強権を駆使してこの円安の流れを止めないと日本はとんでもない貧困国に落ちぶれるであろう。
とは言え市場は市場。
流れに逆らっていては身体が幾つ有っても足りない。
高い所では買わず、低い所では売らない様にしてDefensive.(受け身)な取引を心掛けたい。
依然として突然の介入に要注意。
今週のテクニカル分析の見立ては高値に警戒。
介入警戒感とも一致する。
144円を下切ると142円台への下落も有り得る。