こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、日本では情報の少ない人民元について、報道や公表データ、現地の報告などをもとに、相場の見通しを立てていきます。中国の金融経済が世界の金融市場に与える影響は年々大きくなっていますので、人民元や他通貨の売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第15回は「対円では過去最高値、対ドルでは過去最安値を更新しそうな人民元相場との対峙方法」といたしまして、相場見通しをお伝えいたします。
目次
1.人民元相場の定点観測
2.ドル人民元が節目の7.00を突破した意味を考える
3.対ドル、対円ともに買いからエントリー
1.人民元相場の定点観測
まずは簡単に直近の人民元の動きを振り返っていきます。
出所:Investing.com
USD/CNH相場ですが、前回の寄稿時(8月16日)と比べて2524Pips上昇しました。
ドル高が進み、6.80~6.82の上値抵抗を突破、さらに心理的な節目でもある7.00を突破し、一時7.0425レベルまで上昇しています。
米国のインフレ圧力が根強くFEDが利上げに動いていることに加え、中国が利下げに転じていることもドル買い、人民元売りを助長しています。この両国の異なる金融政策の方向は、しばらく続くことが想定されるので、人民元の米ドルに対する先安観は根強くなっています。
一方でCNH/JPYは0.74円も上昇しました。人民元は米ドルに対して下落しているのですが、それ以上に日本円が下落しているので、CNH/JPYでみると上昇しています。
人民元は管理変動相場制という、管理相場と変動相場の中間の政策を採っていますので、日本円に比べると相場変動が緩やかになります。そのために人民元の下落は日本円の下落よりも緩やかなペースとなっているのです。また人民元の金利が低下していると言っても、まだ1Yで2.0%程度は金利が残っており、日本のようにゼロ金利ではないことも、日本円ほど売られない一因となっています。
CNH/JPYは9月13日に20.78円前後を記録したのですが、これは中国が現在の管理変動相場制へ移行してからの最高値となります。これは近年の両国のファンダメンタルズを反映した結果と言えるでしょう。
2.ドル人民元が節目の7.00を突破した意味を考える
9月16日にUSD/CNY(オンショア人民元)およびUSD/CNH(オフショア人民元)が、それぞれ節目の1ドル7.00人民元を突破し、ドル高が進みました。
USD/CNY(ロウソク足) & USD/CNH(青ライン)日足チャート
出所:Investing.com
この大幅なドル高、人民元安の背景には米中金利差の拡大が挙げられます。米金利が上昇する一方で、人民元金利は低下しており、米中の金利差が大きく拡大していることで現在の相場が形成されています。
米中金利差をUSD3MLibor ▲ 3MCNYShibor で計算し図示したグラフ
出所:Investing.com, Iborate.com
基準値と呼ばれる東京10時15分頃に公表される人民元の基準レートこそ、いまだ7.00を突破していませんが、これが7.00をコンスタントに超えてくる場合には当局が7.00を許容したと判断します。なぜなら、この基準レートの最終決定権限者が当局、すなわち中国人民銀行だからです。
※当局とは広く中国政府を指す言葉ですが、ここでは通貨政策を司る中国人民銀行を指します
先月号でもふれましたが、中国当局は過度な為替レートの変動を望んでいません。
FX/為替予想「大規模な金融緩和に舵をきれない中国、先安観の漂う人民元」プロが解説 月刊人民元見通し 戸田裕大
そもそも建国の理念として社会主義国家を標榜していますので、計画的な安定した経済成長を望んでおり、そのためには大きな為替相場の変動は望ましくなく、ゆえに当局が為替相場を管理する余地を残しています。
ですから人民元を取引する場合には当局の意向を汲むことがある程度、重要なファクターになってきます。そしてその当局の意図が7.00を許容しそうだと言うことが分かれば、そもそもドル高相場ですから、投機的なフローも入りやすく、一層ドル高、人民元安が強まりそうだと見ることが出来ます。
また角度を変えてみると、当局がドル高、人民元安のスピードを調整していると見てとることも出来ます。中国の外貨準備高はドル高相場にあって、引き続き減少が続いており、過度なドル高相場を食い止めるために、ドル売りの為替介入を行っているものと推測されます。
出所:Investing.com
もちろん人民元安を食い止めたいと考えている可能性もあるのですが、主因はドル高ですので、急なペースでなければ問題ないと見ているように思います。まだまだ世界の工場として貿易による外貨獲得が主要な経済活動ですから人民元安はプラスの側面もあります。また自国通貨安を起因とした資本流出も現在のところは目立った動きが見られていません。
こうしたことを総合的に加味すると、当局は、現段階において、急な人民元安でなければ問題ないと考えていると推測します。したがって私のトレードアイデアも必然的にドル買い、人民元売りを軸としたものになります。
3.対ドル、対円ともに買いからエントリー
対ドルは買い持ちで攻めたいと思います。中国が2005年に管理変動相場制を導入して以降のUSD/CNHの高値は7.1963ですのでここが一つのターゲットになり得ると考えています。
USD/CNH 月足チャート
出所:Investing.com
現在はドル金利の方が高く、ドル買いでスワップポイントも付与されていますので、7.00をバックに買いで攻めていけば勝率は高いと判断します。あわよくば7.1963の高値更新を狙います。
対円は2つの戦略をイメージしています。1つが買いでついていく、もう1つが押し目買いです。
まずCNH/JPYはすでに管理変動相場制を導入して以降の高値を更新し続けています。したがってこれを根拠にまずは買いで入り、ストップを併用していく戦略が検討できます。特にドル円が再び145円を突破するような相場観を持っている方であれば、この戦略はフィットしやすいと思います。
CNH/JPY 日足チャート/外貨ネクストネオ
もう1つが20.10、19.80など過去に強い買いが見られたレベルで買いから入っていく押し目買い戦略です。あまり高いところは買いたくないという投資家におススメできますが、デメリットとしては上に走り続けた場合に、エントリーの機会を逸することです。
個人的にはドル/円に介入警戒感はあるものの、まだまだ底堅く推移しそうだと見ているので、もしCNH/JPYでエントリーする場合には前者の戦術を取ると思います。
以上が私の現時点における人民元相場との対峙方法になります。ご参考にして頂ければ幸いです。
戸田裕大
<参考文献>
文中に記載
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代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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