先週のドル・円相場は大荒れの展開となった。
前週の米国第二四半期国内総生産(GDP.)値が市場予想の+0.5%を大きく下回る-0.9%となって第一四半期の-1.6%から二期連続のマイナス成長となってテクニカル・リセッションとなり、FRB.による利上げペースの鈍化を期待して米国長期金利が下げ足を速めて10年債利回りは2.5%台へと急落したこととペロシ米下院議長の訪台を背景としたリスク・オフによる円買いが台頭し、一時130.38を示現した。
7月14日に付けた高値139.39から凡そ3週間で9円下落すると言う大荒れの展開となった。
このドル下げの大きな要因が先週のレポートで挙げたドル・ロングの状態であったマーケットのポジション調整が続いているものと思っていたが、どうやら必ずしもそうでもないらしい。
シカゴ・IMM.と本邦個人投資家のポジションを見てみると前週(月曜日の終値136.65)から先週(月曜日の終値131.61)まで終値ベースで5円以上もドル下落&円上昇が起きているにも拘わらず、IMM.の円の売り持ち(ドルの買い持ち)及び個人投資家のドルの買い持ち額の減少はドル・円相場の値動きのダイナミックさに比べるとそんなに大きくはない。
先ずシカゴ・IMM.であるが前週の円の売り持ち61,481枚(ドル換算で約56億ドルの買い持ち)から先週は42,753枚(41億ドル)と約15億ドル分の買い持ちが減った。
それでも依然として相当な買い持ち額である。
単純計算では136.65から131.61まで下落する段階で41億ドル相当のドル・ロングであった筈であるから(136.65-131.61)×41億ドル≒206億ドルの簿価上の損失を被ったことになる。
この簿価上と言うのがみそであくまでも評価損でしかない。
次に個人投資家のポジションを見てみると前週の+28億ドルから+24憶ドルと僅か4億ドルしか減っていない。
単純計算では136.65から131.61まで下落する段階で24億ドル相当のドル・ロングであった筈であるから(136.65-131.61)×24億ドル≒121億ドルの簿価上の損失を被ったことになる。
こちらもあくまでも簿価上の評価損でしかない。
そして昨日の終値は135.02まで戻しており評価損は相当減ったものと思われる。
両者のデータを掲載した理由は、彼らの損切りのドル売りが今回のドル・円相場の130円台への大幅な下落を導いたものだと思ったからであるが、どうも違う感じがする。
実際、彼らのドルの買い持ち額はそんなに減っていない。
財務省が8日発表した7月の対外・対内証券売買契約によると生命保険会社が海外の中長期債を凡そ1兆5600億円売り越しており、これは単月としては過去最大で世界的な金利上昇(価格は下落)を受けての損切りと思われる売却である。
初期の投資がヘッジ外債(外債を購入すると同時に先物のドルを売って為替リスクを無くす。)であれば外債の売却による為替市場への影響は無いが、それがオープン外債(先物でドルを売らず、為替リスクをオープンにしておく。)であれば外債売却と同時に外債購入時に買ったドルを売らなくてはならない。
今回のドル下げの大きな要因がもしこれであったのであれば、一過性の物とも言える。
シカゴ・IMM.、我が国個人投資家もほっとしたことであろうか?
因みに先程明らかになった8月9日付けの個人投資家の持ち高は先週比でマイナス9億ドルで15億ドルの買い持ちとなっており、ポジションの整理が続いていると推測される。
さて先週のドルの大幅な上昇の理由として金曜日に発表された7月の米国雇用統計が挙げられる。
注目の非農業部門雇用者数は市場予想の+25万人を大きく上回る+52万8千人となり、失業率は3.5%(市場予想は3.6%)、平均時給は前月比+0.5%(市場予想は+0.3%)、前年比+5.2%(市場予想は+5.0%)と正に100点満点の結果となり、平均時給の伸びの高止まりが米国のインフレに対する警戒感が再び強まり、10年債利回りは2.8%台へと急上昇した。
当然ドル・円相場も上昇し、133円台から135円台へと急激に値を戻した。
どうやら市場のセンチメントは米国経済減速の悲観から再び楽観に戻った感が無いでもない。
先週、FRB.地区連銀総裁の何人かが悲観に則った早期の緩和期待に対して慎重な意見を述べていたが、正にその通りになった。
とは言え、7月6日から始まった景気後退のサインと言われる米国2年物債券利回りと10年物債券利回りの逆転現象、所謂逆イールドの差は広がるばかりでその差は昨日0.46%となった。
果たして米国経済は依然として強いのか、それとも弱いのか(弱くなるのかと言う方が適切か)?
何れにせよ、FRB.による利上げ続行は確実で、その後(利上げの停止、そして利下げの開始。)を期待してドルを売るのは時期尚早なのかも知れない。
どうやら“ワニの口。”も大分小さくなってきて、スピード違反気味だったドル高&円安も落ち着いてきた。
GDP.、雇用統計、と強弱入り混じった経済データの発表の後、今週は7月の米国消費者物価指数の発表が有る。
6月の数字は驚きの+9.1%であったが7月の市場予想は+8.7%と多少の好転を予想する。
市場は素直にドル安で反応すると思われるが夏休みで市場参加者が減少する中、思わぬ動きには注意したい。
今週のテクニカル分析の見立ては135円を上切ったことで再びドル高トレンドに戻るかを見極める展開となろうか?
135.50を超えたら更なる上昇に注意。