先週のドル・円相場は週初のロンドン・ニューヨーク市場の休場と、週末の5月の米国雇用統計の発表を控えて小動きに留まり、週を通しての安値は109.33、高値は110.33の1円幅であった。
週初109.33まで下げた後金曜日に高値110.33まで上昇し、雇用統計の数字を受けて再び109.37まで下げて金曜日の一日で一週間の上げを帳消しにするという、一週間としては狭い値幅の割には中々やりにくい相場展開であったと言えようか?
ブレーク・ポイント(このポイントをブレークすると相場が加速して同方向に動く。)と思われた110.30を終値ベースで切ることが出来ず、相変わらず大きくは108.50~110.50、少し狭めると109.25~110.25のレンジ相場が続きそうである。
金曜日に発表になった5月の米国雇用統計の数字は失業率が前月の6.1%から5.8%へと改善し、時間当たりの賃金上昇率も前月比、前年比共に市場予想値よりも上昇したが非農業部門雇用者数が前月分(+26万6千人から+27万8千人に上方修正された。)よりは大幅に改善して+55万9千人となったが、市場予想の+65万人よりは低かった。
雇用統計の数字そのものは、“まあまあ。”と言えるものであったが、前日発表になった非農業部門雇用者数のバロメータと言えるADP.雇用統計が市場予想の+65万人よりも大幅増の+97万8千人であった為、“良い数字”を期待してドル・ロングにしていた参加者の投げがドル売りを誘ったと言えなくもない。
それともう一つ、今市場の最大の関心事であるFRB.のテーパリングのタイミングに関して、“この非農業部門雇用者数の増加ぶりではFRB.は金融緩和政策からの早急な脱却は考えないだろう。”との思惑が広がり、長期債が買われて長期金利が下がった事もドル売りを誘った。
10年債利回りは雇用統計の発表を受けて前日終値の1.625%から約7ポイント下げて1.556%で引けた。
米国10年債利回りとドル・円相場の推移を比べてみると、2020年は両者は逆相関に動いて金利が上昇する中、ドル・円相場は下落傾向にあった。
ところが2021年に入ってから両者は極めて強い相関を持ち始めて、金利が上昇すればドル・円も上がり、金利が下落すればドル・円は下がる傾向が強まった。
終値ベースで見てみると、年初1月4日の10年債利回りは0.919%でドル・円相場は103.15。
ドル・円相場はその同じ週に今年の安値102.60を付けるが10年債利回りは直ぐに1%台を回復して、その後上昇を続けて3月31日には1.744%まで上昇して何とドル・円相場も同日に今年の高値の110.96を示現した。
そしてその後は、両者の相関が崩れるケースは稀になったのである。
今暫くはドル・円相場の行方は米国長期金利(特に10年債利回り)を把握しておけば良さそうである。
その米国長期金利の行方であるが、当然FRB.の金融スタンスに大きく影響される筈である。
そして厄介なのはそのスタンスがいまいちはっきりしないことである。
様々な指標は米国経済の力強さを表している。
米国物価指数も高い。
それでもパウエルFRB.議長は緩和政策からの脱却に極めて慎重である。
前回のFOMC.議事要旨で確認した様に“多くの”FOMC.メンバーはテーパリング議論に積極的であると判断出来る。
依然としてDovish.(ハト派的)なパウエル議長発言に重きを置くか、それともHawkish.(タカ派的)とまでは言わないが、Less Dovish.(それ程ハト派的ではない。)な他のFOMC.メンバーの意見に重きを置くか?
何れにせよ現在のFRB.のスタンスから鑑みて、10年債利回りが現在の1.5%~1.7%のレンジから大きく逸脱するとは思えない。
であれば上で述べた相関関係に敬意を払えばドル・円相場も108.50~110.50のレンジを大きく逸脱するとは思えない。
レンジ相場での秘訣はBuy low and sell high.(安く買って高く売る。)であるが、これは108.50~110.50のレンジ内の戦略とし、何時か110.35~110.50のレンジを上切ったらBuy on rally.(上がったら追っ掛けて買う。)と言う戦略も頭に置いておきたい。
今週のテクニカル分析は109.30を下切ったら108.80までの下落、逆に110.30を上切ったら111.00までの上昇も有るらしい。
相場は何れもニューヨーク市場の終値ベースである。