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愛国者統治の仕組みと香港ドル&人民元のこれから「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

日本人の知らない香港情勢

こんにちは、戸田です。

本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第40回は「愛国者統治の仕組みと香港ドル&人民元のこれから」でお届けいたします。

目次

1.香港選挙制度変更の要点(愛国者統治の仕組みについて)
2.為替相場のアップデート

1.香港選挙制度変更の要点(愛国者統治の仕組みについて)

先月30日に、中国の全国人民代表大会(日本の国会に相当)常務委員会が、香港民主派の排除につながる選挙制度の見直し案を全会一致で可決しました。そこで本日はこの選挙制度変更内容をご説明させて頂きます。

今回の変更のコンセプトは、香港政府より発表されており、「愛国者による香港統治」です。副題に「一国二制度の保護、安定と繁栄を高める」と記載があります。

変更のポイントは以下4点です。
・議員候補者の愛国審査を導入
・立法府の議席変更
・選挙委員会の議席変更
・香港行政長官の指名方法変更
順に説明していきます。

まず議員候補者の愛国審査についてです。新たに議員候補者の審査を担当する「選挙資格審査委員会」が設置されます。この審査委員会が、議員候補者が国家安全維持法に違反していないか、つまり、過去にデモに参加していないか、また中央政府への忠誠を誓っているかなど確認します。

次に立法府の議席変更についてです。従来は以下のように市民による直接選挙枠が35議席与えられていました。

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※職能団体枠は、例えば「金融」など、業界別に振り分けられた枠で、中国との関係を重視する傾向にあります。

今後は以下のように、市民による直接選挙枠が20議席に縮小し、新たに選挙委員会枠に40議席が与えられます。つまり民意が反映されづらく、選挙委員会の意向が反映されやすくなります

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新たに加わった選挙委員会についても簡単に説明します。選挙委員会の構成を示した円グラフが以下です。

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農林水産代表など市民を代表する層もいる一方で、全人代代表や公務員代表など明らかに親中な層が多いことも見てとれます。専門職代表、産業代表も中国との関係を大事にするでしょうから、選挙委員会は実質的に親中派が大半を占めることになります。

最後に香港行政長官の指名方法変更についてです。前述の選挙委員会により選出され、さらに本土の全国人民代表大会の承認が必要と記載されています。つまり香港の行政のトップは親中派によって選出され、全国人民代表大会によって承認されます。

つまり、今後は民主派が行政長官などの要職を務めることはほぼ不可能となっています。

以上がざっくりとした香港選挙制度改革の概要です。みなさんはどのように感じたでしょうか?

私は2点、感じたことがあります。

1点目が、今回の選挙制度改革は、「愛国者による統治」と言うコンセプトですが、実質は「中央政府への忠誠を強制する制度」と感じました。真に愛国者であれば、国をより良くするための批判を行うこともあるはずですが、それがほとんど許容されなくなります。中国本土に盲目的な従属を行う統治体制が出来上がったという認識です。

2点目が、あくまで「一国二制度」を強調している香港(中国)政府の真意をどう捉えるかです。一つは海外に向けて、一国二制度の体裁を大事にしたと考えられます。もう一つは、香港の優遇された税制や、資本の移動が自由であることなど、本土と比べて自由度の高い制度を変更する意向は現状ないのかなと思いました。中国投資の窓口としての香港、中国人の海外投資のための香港の役割を維持させたいのではないかと推測します。

新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐって、H&Mなどアパレルメーカーが抱える問題と同様ですが、消費者としての中国や、投資対象としての中国、投資家としての中国人はプレイヤーとして非常に大きいので、国や企業としても「はいそうですか」と簡単には捨てられないマーケットなので、そこを踏まえて、今後どのように香港を取り巻く環境が変化していくのか、注目していくべきと考えています。

蛇足になりますが、香港ドルは、現在は米ドルペッグですが、今後、人民元を用いた方が金融政策は上手くいくのではないかと考えています。米ドルペッグと言うことは、香港の金融政策は米国の金融政策にペッグしますが、今後はさらに一段と中国ビジネスが増えるので、中国の金融政策にペッグさせるのが適切と思います。

中国政府次第ではありますが、香港の不景気も鮮明ですし、意外と早く人民元ペッグの対応をすると、これが大きなニュース、値動きに繋がる可能性もあると考えています。

2.為替相場のアップデート

先週のドル円相場は、節目の110円を突破すると、111円手前までほぼ押し目なく上昇しました。しかし111円手前では売り注文が多くみられ、徐々に売り優勢の展開となります。厚い売り注文に押し戻され、金曜日にかけて下落したドル円でしたが、夜間に発表された米3月雇用統計が強く、最後はドル買戻しの動きが強まり110円後半まで値を戻し、今週を迎えています。

本日は少し長いチャートを見て行きましょう。まずは対ドル相場からです。

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2021年に入って、ドル円の上昇と、ドル人民元の上昇が目立っています。また、ドル香港ドル(USD/HKD)もわずかながら上昇しています。ようはドル高傾向が継続していると言うことです。

「なぜドル高が継続なのか」ということですけれども、真っ先に思いつくのは、米10年債利回りの上昇に代表されるような、米景気回復期待、ひいては米金融緩和の早期縮小期待が続いていると言うことと思います。ここは必ず押さえておきたいポイントです。

さらに、もう一点加えるとすると、バイデン政権が非常に巧みな外交を行っていることが、米ドル高に繋がっている可能性です。先週は「民主主義の一帯一路」構想を提唱するなど、中国を野放しにしない、且つ他国を巻き込む動きが前政権よりも圧倒的に上手く、これが米国覇権ひいては、ドル覇権の継続を期待させていると思います。

特に円が売られているのは、日本が10年債についても引き続き上限を定めるなど、金融緩和継続の姿勢が鮮明だからです。またチャート的に、2017年から続いた円高局面が終わりを迎えたことも円売りを加速させたと思っています。

次に対円相場を見て行きます

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2021年に入って、ドル円&香港ドル円がキャッチアップしていますが、引き続き人民元円が最もパフォーマンスが高い状況が続いています。

なぜここまで人民元が底堅いのかと言うことについて私の仮説を説明します。みなさんドル円や、ユーロ円、ユーロドルなどを取引されている方が多いと思いますが、これらの通貨ペアは既にある程度の適正価格が定まっており、「大きな調整局面を終えた後の通貨ペア」と考えることが出来ます。

例えばドル円の場合、昔は1ドル360円ですけれども、それが1ドル100円に至る過程が「大きな調整局面」と言うことです。ですから、今のドル円は調整が終わった後の、「微調整(円安)の局面」と言う見方です。

人民元は2005年まで1ドル8.3人民元で固定されていましたが、現在は1ドル6.5人民元前後ということで、まだまだ初期の調整段階にあると考えています。イメージとしては6.0→5.5と進んでいく「大きな調整局面の過程にある」と言うことです。

ですから少しドル高、人民元安が進むと、すぐに人民元が買われると言うことが継続的に起こっているものと考えています。

現在はバイデン政権の巧みな外交成果で中国が追い詰められ、ドル高も相まって、人民元安が進んでいますが、落ち着いてきたら、やはりどこかでは人民元をロングにして相場と対峙したいと考えています。


それでは本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

戸田裕大

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<参考文献・ご留意事項>

各種為替データ
https://Investing.com

香港政府:選挙システム改革 https://www.cmab.gov.hk/improvement/en/home/index.html
https://www.cmab.gov.hk/improvement/filemanager/content/pdf/en/resource-centre/booklet.pdf

【過去の「日本人の知らない香港情勢」はこちら】

株式会社トレジャリー・パートナーズ 代表取締役 戸田裕大氏
2007年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、 日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019年9月CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は法人向けにトレジャリー業務(為替・金利・資金)に関するサービスを提供するかたわら、為替相場講演会に多数、登壇している。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022 年)。