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【要警戒】米利上げの代償と壮絶なチャイナリスク「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

日本人の知らない香港情勢

こんにちは、戸田です。

本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第38回は「【要警戒】米利上げの代償と壮絶なチャイナリスク」でお届けいたします。

目次

1.悪化し続ける投資家心理と香港の経済指標
2.苦境に立たされる中国と株式市場の停滞
3.為替相場のアップデート

1.悪化し続ける投資家心理と香港の経済指標

さて、先週、今週と香港の重要経済指標が発表されたので、見て行きたいと思います。まずは2月の消費者物価指数です。

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時系列に並べると、昨年後半にデフレが続いていたことが分かります。今年に入って、1月は持ち直しの動きがみらましたが、2月は再びゼロ近辺と、物価上昇の勢いが続きません。

本来であれば香港の中央銀行である香港金融管理局は利下げや量的緩和を行いたい局面ですが、実は香港にその政策は許されていません。これを理解するには「国際金融のトリレンマ」と言う概念を理解する必要があります。

<国際金融のトリレンマ>

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国際金融のトリレンマとは、「自由な資本移動」「為替相場の安定」「金融政策の独立性」の3つの目標を同時に達成することはできず、このうち2つの目標しか達成できないことを証明した理論です。結論だけ述べると香港は「自由な資本移動」と「為替相場の安定」を優先しているので、金融政策の独立性がなく、連動させている米国が利上げを採用すれば、香港も利上げをしないと為替レートを同水準に保つことが出来なくなります。

※国際金融のトリレンマの詳細解説は過去記事よりご覧いただけます。https://www.gaitame.com/media/entry/2020/06/16/122941

そして米国は今後、利上げに転じていくことが想定されます。すると、実は香港は、景気が悪いにも関わらず金利を引き上げねばならなくなります。景気が悪いのに利上げをすると、ますますお金の流れが悪くなり、香港経済はさらに悪循環に陥ることになります。

どう見ても、芳しくない状況です。さらに最新の2月の失業率も発表になったのですが、7.2%となり、こちらも悪化の一途を辿っています。

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後ほど言及しますが、直近では香港ドル安も進んできましたし、ますます不安が高まる香港経済と香港ドル。資金逃避やドルペッグ外しが意識されてもおかしくない状況と思います。

引き続き注意深く香港動向を見守って行きたいと思います。

2.苦境に立たされる中国と株式市場の停滞

さて、米国の大統領がバイデン氏に代わってからと言うもの、中国は苦境に立たされ続けています。昨日22日には、中国と経済的結びつきの深いEUが、中国当局者に対して制裁を科すことを決定しました。

トランプ大統領時代、中国は非常に上手く立ち回っていたと思います。Make America Great Again (偉大なアメリカを再び)を掲げてひたすらに保護主義に走る米国を非難し、欧州や日本との連携を深めることに成功していました。

しかしバイデン大統領が就任し、公約で掲げた通りに他国との連携を重んじる政権が提示したコンセプトは「中国の人権侵害を許すな!」でした。このコンセプトが効きました。EU憲法や日本国憲法に人権に関する条項を設けている欧州と日本は、米国側に付かざるを得ません。また「ウイグル=ジェノサイド」の広報活動を続けることで、人々にホロコーストやナチスを連想させ、第二次世界大戦の被害が思い出され、多くの人々がバイデン大統領のコンセプトに共感することになりました。

そして、成果として、日米が尖閣諸島における共同訓練実施を表明し、日米欧印の軍事協力体制協議が開催され、そして昨日のEUの中国当局者に対する制裁へと繋がっています。

そして相場への変化も少しずつ現れています。中国不利の流れがまず株式市場に反映されてきているのです。

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青い楕円で囲った、2月後半から3月中旬にかけて中国と香港の代表的な株価指数、上海総合とハンセン指数が共に伸び悩んでいることが見てとれます。株に反映されてきているとなれば、為替に反映されるのも時間の問題、ここを後半の相場パートで追及していきたいと思います。

3.為替相場のアップデート

先週は通貨によって区々の動きでした。ロシアは米露関係の悪化が意識される中で売られる一方、ブラジルレアルなどは中銀が政策金利の利上げを行ったことで買われました。また欧州では新型コロナウイルスの再拡大が懸念されており、リスク要因としてくすぶっています。ドル円は横ばい推移ですが、109円のミドルは売り注文が多い印象です。

このような中で、香港や中国の動きはどうなっているのか、まずは香港ドルから見ていきましょう。

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米ドル/香港ドル(USD/HKD:青色のチャート)は引き続き、米ドル高・香港ドル安の傾向が続いているとみて良いでしょう。徐々に利上げを織り込み、米短期金利も上昇に転じる中、香港の経済指標は弱さが目立っており、1USD=7.77, 7.78HKDを窺う展開を想定しています。

ドル円上昇の動きも一服していることに加え、香港ドル安も意識されることからこの辺りで香港ドル/日本円(HKD/JPY:オレンジ色のチャート)の買い持ちは手仕舞っておきたいところです。

次に人民元を見ていきます。

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米ドル/人民元(USD/CNH:青色チャート)が2月の中旬ごろから上昇、すなわちドル高、人民元安が続いています。これは先ほど述べた通り、中国が政治的に追い詰められていることも影響していると見ています。さらに米金利上昇というドル高要因も加わることから、人民元安に動きやすい時間帯と考えています。

このような状況の中、人民元/日本円(CNH/JPY:赤色チャート)の上昇も一服の雰囲気が漂います。私は今週に入って、政局の変化、米金利上昇を意識して、人民元のポジションを少し落としました。まだ対円で少しだけ買い持ちを保有していますが、これはもう少し長いスパンで考えているポジションなので、しばらくこのままで置いておくと思います。

さて、最後に相場の全体感をお伝えしておきます。先週は日銀金融政策決定会合にて、資産買い入れ方針の変更や、長期金利のターゲット水準の変更が決定しました。新型コロナウイルスによる経済への悪影響を吸収するために採用された世界的な金融緩和は、ワクチンが行き届き始めたことで、終わりが見えてきたように感じています。つまり「新型コロナウイルス」という大きな相場のテーマが終わりに近づいています

そして、それを裏付けるように、米金利上昇を受けて、世界各国は為替レートを維持するための金利水準の見直し(引き上げ)の必要に駆られています。そしてトルコリラのように、既に副作用が出始めている通貨も顕在してきています。

さらに米中関係の悪化も意識され、先に述べたように、中華圏の株式市場や通貨価値に下落圧力が掛かってきています。「窮鼠猫を嚙む」と言う中国の諺もあります。追い詰められた中国がより好戦的になっていく可能性は十分にあると思います。

市場にはリスク要因が多く点在しています。それが表面化しつつあるように感じています。壮大なリスクオフのシナリオには十分に気をつけて相場に対峙したいと思います。


それでは本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

戸田裕大

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【インタビュー記事】

<参考文献・ご留意事項>

各種為替データ
https://Investing.com

香港金融管理局:FAQs What is the role of the HKMA?
https://www.hkma.gov.hk/eng/smart-consumers/frequently-asked-questions/

香港政府統計:Consumer Price Indices
https://www.censtatd.gov.hk/hkstat/sub/sp270.jsp?tableID=052&ID=0&productType=8

香港政府統計:
https://www.censtatd.gov.hk/hkstat/sub/sp200.jsp?tableID=006&ID=0&productType=8

日本経済新聞:EU、30年ぶり対中制裁決定 ウイグル人権問題で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2204T0S1A320C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202103222103

【過去の「日本人の知らない香港情勢」はこちら】

株式会社トレジャリー・パートナーズ 代表取締役 戸田裕大氏
2007年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、 日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019年9月CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は法人向けにトレジャリー業務(為替・金利・資金)に関するサービスを提供するかたわら、為替相場講演会に多数、登壇している。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022 年)。