こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第35回は「悪化の一途を辿る香港経済と注目の全人代開催を前に為替はドル高」でお届けいたします。
目次
1.悪化の一途を辿る香港経済
2.全人代の概要と注目点
3.香港ドルと人民元相場のアップデート
1.悪化の一途を辿る香港経済
さて、時期は先々週と少し遡りますが、18日に香港の11月~1月の失業率が発表され、近年では最悪となる7.0%を記録しました。先月発表分よりもさらに0.4%悪化しており、香港経済は悪化の一途を辿っています。
高い失業率の要因は一つではありませんが、昨年の国家安全維持法の施行が主要因として挙げられます。これはハンセン指数などの株価や、市民デモから見てとれるところです。
国家安全維持法の施行以降、経済状況が芳しくない香港ですが、香港政府は春節明けから、むしろ国内の取締りを強化しました。28日に服役中の民主活動家、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏ら47人を香港国家安全維持法の国家政権転覆罪で起訴します。
これを受けて1日、香港の民衆は九龍の裁判所で抗議活動を展開します。さらに英国・米国・カナダ・ドイツ・オランダ・EUの在香港領事館の代表がこの活動を支援する事態にまで発展し、中国の強硬姿勢に待ったを掛けています。ドイツとEUなど比較的に中国に対して柔軟な態度をとる地域が参加したことで、今後の中国の対応により一層、世界の目が向くことになるのは必至でしょう。
なお、日本は、現在のところ、領事館が参加していると言う情報はなく、立場の近い欧州と比べて日和見的な対応を採っていると思います。日本の行動も世界から注目されるところです。
「一国二制度」「人権」、この二つのテーマで先進各国がまとまるようだと、中国としては厳しい状況に追い込まれることになると思います。引き続き香港を舞台とした、国際政治の流れは金融市場へも大きな影響をあたえるため、意識しておきたいと思います。
2.全人代の概要と注目点
さて今週の金曜日に、年に1度、中国で最も注目を集める政治経済イベント、「全人代」が行われます。為替をはじめ、金融市場の注目も集まると思いますので、私もしっかり追っていきたいと思います。とは言っても、この全人代、一体何なのかよくわからないと言う方も多いと思うので、簡単に解説をさせて頂こうと思います。
全人代とは、中国の最高権力機関です。国家主席、国務院、軍事委員会など色々な中国の役職や機関を耳にしたことがあるかと存じますが、それらよりも上に位置し、それらを決定する機関が全人代になります。なお、厳密には中華人民共和国憲法に、共産党をリーダーとした運営との記載がありますので、共産党が最も上の権力機関とする見方がより一般的かもしれません。
なお、全人代は全国人民代表大会の略です。金曜日に行われるのは全国大会なので、事前に地方大会が終わっていることになります。中国はトップダウンの統治体制ではありますが、一方で地方大会から上がってくる意見もあるということは覚えておいて損はないと思います。
以下に今年の全人代の注目点を挙げてます。ご参照ください。
・現在の経済状況解説
・GDP目標値(昨年に続き定めない可能性も)
・香港への新制度の導入(締め付け強化)
・5ヵ年計画の内容
・35年までの長期目標
・大きな経済対策に言及するか
・米国に対する姿勢に変化があるか
・日本や欧州との関係に言及するか(昨年は日本との連携に言及が有りました)
また来週に内容をまとめて簡単にご報告させて頂ければと考えております。
3.香港ドルと人民元相場のアップデート
さて為替相場のアップデートをしていきたいと思います。先週のドル円相場は、米景気回復、インフレ期待が高まる中で、ドル円が上昇。105円、106円を軽々と突破し、週末は高値近辺の106.56でクローズ。ドル買いが進む中で、ドル円はさらなる上値を試す展開が続いています。
このような中で、香港や中国の動きはどうなっているのか、まずは香港ドルから見ていきましょう。
香港ドル/日本円(HKD/JPY)はドル円と同様、ほぼ押し目なく上昇。13.70を突破し、13.80を窺う展開になっています。今後もしばらくはドル円に連れての動きが想定されますが、ドル円も52週移動平均をクリアに上抜けてきており、香港ドル/日本円も底堅い動きが続くことを想定しています。
米ドル/香港ドル(USD/HKD)は依然としてもみ合いが継続。こちらは引き続きイベント待ちの展開が続きます。しかし現在の九龍の裁判所への抗議活動や、週末の全人代など大きな政治イベントが控えていますので油断は禁物です。
次に人民元を見ていきます。
人民元/日本円(CNH/JPY)は春節明けに一旦16.20台まで下落しましたが、先週は買戻しが優勢、さらに今週に入って16.50台を回復してきています。新興国通貨が軒並み下落する中でも、人民元/日本円の買い持ちはワークしているので、かなり安定していると言って良いでしょう。背景には中国自身が稼ぐ力がある(経常収支が黒字である)ことが挙げられます。これは他の新興国との大きな違いですので、覚えておいてください。私は引き続き、人民元/日本円の買い持ちで相場と対峙することを基本戦略にしています。
米ドル/人民元(USD/CNH)はドル高に連れて、ドル高、人民元安が進みました。しかし幅はそこまで大きくなく引き続き6.40-6.50のレンジ内で推移しています。今週末に全人代がありますので、そこで為替政策や対中政策についても言及があるか注目しようと考えています。
最後に対円のパフォーマンスを比較したチャートを更新して添付いたします。
※2020年の年初のレートを100として通貨ペアの強弱をあらわしたチャート
今週はドル円の上昇が目立ちましたが、長期で比較すれば、赤いラインの人民元/日本円のパフォーマンスが引き続き圧倒的です。
現在の相場で注目されていることは、米景気回復期待、物価上昇予測、そしてそれを抑制するための米利上げ観測や金融緩和の早期縮小(テーパリング)です。この相場では通常、新興国通貨など、リスクが高いとされるアセットから資金が逃避します。しかし、香港ドルや人民元はいわゆるリスクの高いアセットではないので、安定して推移していることがわかります。高金利で安定している人民元、パフォーマンスが良いのは必然かもしれません。
それでは本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
戸田裕大
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<参考文献・ご留意事項>
各種為替データ
https://Investing.com
日本経済新聞:香港の黄之鋒氏ら47人、政府転覆罪で起訴 国安法違反
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM281P20Y1A220C2000000/
South China Morning Post:Hong Kong national security law: hundreds of supporters queue, chant ahead of hearing for 47 opposition figures charged on Sunday
https://www.scmp.com/news/hong-kong/politics/article/3123534/national-security-law-hundreds-supporters-queue-chant-ahead
中華人民共和国中央人民政府:中華人民共和国憲法
http://www.gov.cn/guoqing/2018-03/22/content_5276318.htm
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。