トランプ大統領は未だ敗北宣言をするどころか、“今回の選挙は無効である!”と騒いではいるが、どうやら選挙人選びはバイデン候補が306人獲得し、トランプ大統領の232人に大きく水を開けてバイデン新大統領の誕生は間違い無さそうである。
トランプ大統領は法廷闘争も辞さないと強気ではあるが、ここまでの大差になれば選挙結果を覆すのは無理であろう。
トランプ陣営の控訴に対して州裁判所は控訴を棄却するか、トランプ陣営も控訴を取り下げるケースが相次いでいるらしい。
上院での決着も未だついてはいないが市場は共和党の勝利を織り込み、大統領は民主党、上院は共和党、下院は民主党となって一時話題となったブルー・ウェーブ(民主党の圧倒的勝利)は避けられて寧ろバランスの取れた議会に落ち着きそうだと言うことを好感し、株の騰勢が止まらない。
グロース株(企業の売り上げや利益の成長率が高く、その優れた成長性ゆえに株価の上昇が期待できる株式のことで、「成長株」とも呼ばれる。)の比率の高いナスダックこそ先週は調整売りが出たが、バリュー株(売り上げや利益の成長がさほど期待できないなどの理由から、現時点の株価が本来的な企業価値を考慮した水準に比べて安いと考えられる株式のことで、「割安株」とも呼ばれる。)の比率の高いダウは9ヶ月来の高値、S&P.は史上最高値を更新した。
株価上昇の勢いに油を注いだのが、米製薬大手ファイザーが独バイオ医薬ベンチャーのビオンテックと共同開発中だったワクチンについて、“臨床試験で90%以上に感染予防の効果があった。”とのニュースであった。
欧米で新規感染者数が激増する中画期的なニュースであり、株価は急騰し米長期金利の上昇と共にドル・円相場も103円台から105円台のミドルまで急上昇した。
どうやらこのドル・円の急上昇の裏には幾つかのテクニカルな点が挙げられる。
-短期の投機筋が104円を切った後更にドルの売り持ちを増やして市場がドルの売られ過ぎの状態にあった。
我が国の個人投資家は相変わらずドルの買い持ちを保持していたが、シカゴ・IMM.の投機筋は前週から約1万枚の円の買い持ちを増やして約2万8千枚(約35億ドル相当)の円の買い持ち(ドルの売り持ち)を保持しており、損切りのドル買いが発生してドルの上昇速度を速めた可能性が高い。
-東京市場で103円台のLow.までドルが下落した折に当局が大手機関投資家にドル買いを勧めて、彼らの忖度のドル買いが見られたらしい。
-コロナ禍が世界経済に多大な悪影響を与える中、日本は先進国中でロックダウンも行われず一番落ち着いているとの安心から円が買われていたが、コロナ・ウィルスに対するワクチン開発のニュースでその優位性が薄れて円売りに繋がった。
これらの要因でドル・円相場は一時高値105.67を示現したが、その頭は重い。
週明けの東京市場で午後3時現在、日経平均は金曜日比で520円以上上昇し、ダウ先物も約200ポイント上昇しているがドル・円相場は反落して104.60近辺で取引されている。
先週のレポートで、
“バイデン新政権の財政拡大策、FRB.による積極的な金融緩和姿勢の継続、バイデン氏のこれまでの為替に対するスタンス(ドル安派とみなされている。)から鑑みるに、大きなドル・ベア・トレンド(ドルが大きく下げるトレンド)に陥るリスクを考えておきたい。
短期的には株式の調整売りが起きる可能性が有り、その時にはリスク・オンの解消と共にドルの買戻しも見られようが、中・長期的なドルの下落に留意しておきたいと思う。”と述べ、実際には株値がさらに上昇してリスク・オンが進んで“株高&円安”となったが、基本的な考えは変えておらず、先週の動きは極めてテクニカルなものであると理解している。
財政支出拡大による金余り=債券安(金利高)&株高、そしてドル安の流れは変わるまい。
依然としてドルに対して弱気である理由をさらに追記すると、
-新大統領への権限移譲が全く進んでおらず、米国内の政治的空白が懸念される。
-新政府の人事、特に財務長官が誰になるかが興味深いが、候補として挙がっているブレナード現FRB.理事や前FRB.議長のイェレン女史は極め付きのハト派であり、どちらが指名されようとFRB.の緩和姿勢は変わらない。
ブレナード現FRB.理事はドル安&円高派と見做されている。
-財政拡大が行われると当然インフレ期待が高まり、実質金利(名目金利-期待インフレ率)が下がるであろう。
その結果、ドルは売られる確率が高いのではなかろうか?