中国政府が香港での統制を強める“香港国家安全維持法案”の施行を可決した。
中国政府が香港に治安維持機関を新設し、過激な抗議活動などを封じ込めるねらいがあり、
香港に高度な自治を認める“一国二制度”が事実上崩壊したとも言える。
“香港国家安全維持法案”は1997年の香港返還後も高度の自治を50年間にわたり保障した“英中共同声明に違反する。”との声が高まり、主要先進7カ国(G7)外相が中国政府に再考を求める共同声明を打ち出したが、中国政府は内政問題だとして同法制定を強行した。
香港の若者らが過激な抗議活動などをした場合を念頭に、国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為の4類型を定め、犯罪として刑事責任を問うと言うものだが、適用範囲が外国人にも及ぶというから恐ろしい。
そもそもGDP.2位にのし上がった中国にとって今や香港はかつての貿易や資本を巡っての自由世界とのゲートではなくなり、“一国二制度”を維持して特別扱いをする必要性は薄れてきた。
それなら英国との約束を反故にしてさっさと“自分の領土にしてしまえ。”と言う事か?
ポンペオ米国務長官は6月30日、中国政府の措置に対して“トランプ大統領の指示に基づき、香港に特別に与えてきた措置を一部の例外を除き廃止する。”と言明して対抗措置を打ち出した。
アメリカ議会も中国が香港の高度な自治を損なった場合、それに関与した当局者などや、その人物と取り引きのある金融機関を特定し、資産凍結やアメリカの金融機関との取り引きの禁止などの制裁を科す法案を可決して米中対決姿勢は益々高まりつつある。
この法案を提案した上院議員は“Enough is enough.=(もう我慢出来ない。)と怒りを露わにしている。
ところで、今回の香港問題における対立や昨年からの貿易交渉における対決に加え米中間に新たな緊張が生まれつつある。
中国は東シナ海、南シナ海、黄海に於いて、これ等の海域での実効支配を強める為に軍事演習を展開中であるが、其処に米海軍は“ロナルド・レーガン”と“ニミッツ”の空母2隻を派遣し、近年では最大級となる演習を始めた。
米国が敢えて此処で軍事力を誇示する背景には、新型コロナを克服した中国が周辺諸国・地域への圧力を強めていることに対する対抗と、中国が実効支配を続ける南シナ海ほぼ全域の領有権主張を無効としたハーグ条約を無視して軍事活動を活発化し続ける中国に対してのけん制がある。
米中の軍事衝突が起きる可能性は無いが、権勢誇示に関してお互いに一歩も引く気は無かろう。
相次ぐアメリカの挑発に対して中国は“米中貿易協議の第1段階合意に悪影響を及ぼす可能性がある。”と表明したが、これは数週間前に通商担当のナバロ米大統領補佐官が“中国との交渉は終わった。”と述べた事を思い出させる。
米中のデカップリング(分断)が起きるがどうかは分からないが、共産党主流派から突き上げを食らう習近平と再選が危ぶまれるトランプとの意地の張り合いで思わぬ緊張の高まりが起きる可能性は意外に大きいのではなかろうか?
新型コロナ・ウィルスに対する楽観の台頭に対する危機感、トランプ大統領の再選ならずの場合の市場へのインパクト、そして米中対立激化の恐れを考えると依然として中長期的なドルに対してのBearsih.=(弱気)な考えを捨てる訳には行かない。
只この自分の意見はある意味、ポジション・トークであることをお断りしておく。
(注:ポジション・トークとは、例えばドルが下がると思えばドルを売り持ちにするが、自分の相場観を述べる時に自然に“ドルは下がる。”と言うバイアスの掛かった話をすること。)