日常的に使われる「リスク」という言葉。
みなさんも「この◯◯にはリスクがある」とか「◯◯はハイリスク・ハイリターン」と言った言葉を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
ただ、投資・金融の世界の「リスク」と、一般的な「リスク」は異なります。
それは、投資・金融の世界では、意味が限定されていることがあるからです。
ここでは「一般的なリスク」と「投資・金融の世界のリスク」の違いを明らかにするとともに、金融商品に関する「ハイリスク・ハイリターン」がどういうことなのかを解説してみましょう。
日常で使う「リスク」とは
「この地域は床上浸水のリスクがある」「電車遅延のリスクがある」日常的に使うリスクは、しばしば『将来において何か悪いことが起こる可能性』といった意味で使われています。
FXや株式投資における1)「システムリスク」2)「カントリー・リスク」3)「流動性リスク」などのリスクは、『将来において何か悪いことが起こる可能性』ととらえてよいでしょう。
1)システムリスク:取引システムや操作端末の不具合によって意図した取引ができず、金銭的な損失もしくは「取引できない」という機会損失が起こる可能性
2)カントリー・リスク:海外投資を行う際に、投資対象国の政治情勢や経済情勢の悪化によって金銭的な損失が起こる可能性
3)流動性リスク:売買が極端に少ないことによって自分が売買したい価格で取引ができない可能性
経済学・金融理論におけるリスク
一方、学問的なアプローチから金融の理論体系を構築する経済学の分野では、『リスク』について「ある対象物に対して、ある一定の期間の価値の変動のばらつき具合」と定義します。
『価格の変動のばらつき具合』は、数学的に厳密に定義され、『価格の変動の標準偏差』を計算すると数値がでます。
ここで、「一般的なリスク」と対比して理解してほしいのが、「一般的なリスク」は『将来において何か悪いことがおこる可能性』のみを含んでいますが、「経済学のリスク」は『価格変動のばらつき具合』であるため、損失の可能性だけでなく、利益が出る可能性も含まれています。
つまり、価格変動のばらつき具合が小さいものをローリスクと呼び、価格変動のばらつき具合が大きいものをハイリスクと呼ぶのです。
ローリスクのものに投資しても、価格変動のばらつき具合が小さいため、大きく損失を出す可能性は小さくなりますが、その一方で、大きく利益を出す可能性も小さくなります。
逆に、ハイリスクのものは価格変動のばらつき具合が大きい、つまり、大きく下落することもあれば、大きく上昇することもあるため、このような金融商品に投資をしていると大きく損失を出したり、大きく利益を出したりする可能性が大きくなります。
つまり、1回の取引でハイリターンを求めたい場合は、金融商品の価格変動が大きいものを選ばざるを得ず、ハイリスク(価格変動のばらつき具合が大きい)の金融商品に投資しなければなりません。
ハイリスク・ハイリターンの関係です。
また、1回の取引の利益として、ローリターンでもよい場合は、価格変動のばらつき具合が大きい金融商品に投資してはいけません。
ローリスク・ローリターンの関係です。
求めたいリターンの大小によって、投資対象のリスク(価格変動のばらつき具合)の大小を決めるべきということを理解してください。
ローリスク・ハイリターンはありえない
このようにリスクとリターンの間にある「比例」のような関係性を理解すると、ローリスク・ハイリターンの商品はあり得ないことがわかります。
例えば、ローリスク・ハイリターンの商品があったとします。
それはローリスク、つまり値動きのばらつき具合が小さいにも関わらず、将来的には大きく上昇して高いリターン(買ったときの値段から大きく上昇)を見込める金融商品です。
ですが、そのようなローリスク・ハイリターンの金融商品は存在することはできません。
ローリスク・ハイリターンの金融商品は、市場にでた瞬間に買いたいと思う人に買われて、買値が上昇します。
買値が上昇してしまった場合は、その後の上昇余地は小さくなり、ローリターンの商品に成り下がってしまうのです。
もしくは、買いたいと思う人が殺到して、理論的に「妥当だ」と思われる将来価格以上に高騰してしまうと、その後は売り買いが交錯して価格変動のばらつき具合、つまり、リスクはより大きくなります。
リスクというものは価格変動のばらつき具合であるということを理解した上で、『ローリスク・ハイリターンの商品は、市場に出た瞬間に買値が上昇し、ローリスク・ローリターンの商品になって市場には存在しなくなる』もしくは『買いたいと思う人が殺到し、理論上、妥当な将来価格以上に高騰してしまうと、売り買いが交錯して、ハイリスク・ハイリターンの商品になって市場には存在しなくなる』と理解しておきましょう。
これは市場原理です。
市場原理を理解しておくと、どこかの誰かから、「ローリスク・ハイリターンの商品があるから買わないか?」と紹介された場合でも、「そのような金融商品はあり得るはずがない。
なぜそれを紹介者自身が買い占めないのか?なぜ私に売るのか?詐欺的商品ではないか?」と疑問に思うことができるでしょう。
ハイリスク・ローリターンの金融商品はあるのか?
それでは、ハイリスク・ローリターンの商品はあるのでしょうか? まず、価格変動のばらつき具合が大きいにもかかわらず、ローリターンの金融商品は「労多くして功少なし」なので人気がないでしょう。
「功少なし」で済めばいいのですが、「価格変動のばらつきが大きい」ということはマイナスになる可能性も高いわけです。
このような金融商品は買い手がなかなかつかず、買値はどんどん下がります。
買値がどんどん下がると、その金融商品が持つ理論上妥当な将来価格との値幅が大きくなって、ハイリターンの金融商品になります。
このようにして、ハイリスク・ローリターンな金融商品は、人気がないので、結局ハイリスク・ハイリターンの商品になるのが普通です。
しかし、現実にはハイリスク・ローリターンな金融商品が存在します。
それがどういう金融商品か、あなたは分かるでしょうか?
それは、ハイリスク・ハイリターンの金融商品に対して、高い手数料を徴収するブローカーがいると、ハイリスク・ローリターンになります。
ハイリスクの金融商品を保有して、市場価格だけをみると、ハイリスクに見合うだけの値幅を取れたとしても、高い手数料を取られると、ローリターンになります。
例えば、外貨預金は外国為替という価格変動のばらつきが大きいハイリスクの金融商品にもかかわらず、FXなどと比較すると手数料はかなり高くなります。
高いリスクを取るのであれば、高いリターンが得られるかどうかを確認しましょう。
金融において、『リスクは価格変動のばらつき具合である』ということを正しく理解すれば、リスクとリターンは「比例」のような関係であることがわかります。
つまり、ローリスクのものはローリターンであり、ハイリターンのものはハイリスクなのでです。
『リスクは将来において何か悪いことが起こる可能性』と認識して、ローリスク・ハイリターンのものを求めないようにしてください。
ローリスク・ハイリターンのものがあるとすれば、それは詐欺的商品の可能性があります。
また、ハイリスク・ローリターンという金融商品にも気をつけましょう。
高いリスクを取ったなら、高いリターンがあるかを確認しましょう。
誰でも“ぼったくり”にだけは、あいたくないですから。
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株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。