先週のドル・円相場は前週までのリスクオフ要因の幾つかが剥げ落ちて市場のセンチメントが多少変わり、リスクオフの流れで買われていた円とドルが売り戻されて結果としてユーロ、ポンド、豪ドルなどの主要通貨が買い戻され、ドル・円はじり高となって107.22の高値を示現した。
先ずは米中通商交渉再開のニュース。
中国商務省は5日、米中両政府が10月初旬にワシントンで通商協議を開催することで合意したと発表し、また米通商代表部(USTR.)の報道官も声明を出し、ライトハイザー代表とムニューシン長官が劉副首相との電話協議で、“数週間以内に”ワシントンで閣僚級通商協議を実施することで合意したと発表した。
只この合意後も中国は米国が追加関税をかけた措置に対して行った世界貿易機関(WTO)への提訴を撤回しておらず、1ヶ月先の会談再開を決めただけで緊張した米中関係が一気に好転すると期待するのは危険であろう。
次に香港情勢。
香港政府トップのラム行政長官は4日、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする逃亡犯条例改正案を正式に撤回すると表明した。
ただ、この撤回はデモ参加者が求める
‐改正案の完全撤回
‐警察と政府の、市民活動を「暴動」とする見解の撤回
‐デモ参加者の逮捕、起訴の中止
‐警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査実施
‐ラム行政長官の辞任と民主的選挙の実現
らの五つの要求の一つでしかなく、昨日も数万人が米総領事館に向けて行進し、トランプ大統領に支援を訴えた一方、一部がバリケードを築いて火を放ち、中心部の交通を麻痺させたらしい。
これに対して警察は催涙ガスで応戦して双方の対立は益々過激になっている。
今やデモに参加する若者らの要求は政治改革にも広がっており、改正案の完全撤回で抗議活動が収束に向かうかは極めて懐疑的であろう。
そして英国議会で欧州連合(EU.)からの離脱延期が可決され、離脱を3カ月延期することを政府に義務付ける法案を承認したことにより、Hard Brexit.の懸念が先送りされたこともリスクオフの軽減を助けたかも知れない。
只、EU.側には“勝手に離脱を決めた英国の国内問題で何時までもぐだぐだと離脱問題だけに関わっている訳にはいかない。”との意見も多く、英国が延期の意思を固めても合意なき離脱の回避は確実ではない。
要するに先週リスクオフのセンチメントを変えた要因を掘り下げていくと何ら問題の解決が起きた訳ではなく、“取り敢えずリスクに対する警戒感を一段下げた。”に過ぎないと考える。
個人的にもっと憂慮するのは先週も指摘した日米韓の軍事同盟崩壊の危機である。
ムン大統領が何れ米韓軍事同盟を破棄することを目的として確信的に我が国とのGSOMIA.=(韓日軍事情報包括保護協定)の更新を拒んだのであれば、現在の38度線を境にした対北朝鮮への防衛ラインは一気に対馬海峡まで後退することになる。
我が国の安全保障に関して、戦後最大の危機となる可能性が高いのではなかろうか?
勿論我が国にとっては最大の地政学的リスクの増大と言えよう。
不思議な事に韓国情勢に関してトランプ砲が鳴りを潜めているが何を考えているのだろう?
基本的には“今そこにある危機”は変わっておらず、リスクオフ・モードを解消する訳には行かない。
ドル・円に関しては“戻り売り”のスタンスは変わらず。