ベテランFXトレーダーの方々は、普段からトレードに向けて、また投資戦略を練るうえで様々な準備をしていると聞きます。今回はマーケット分析の準備として「ノートをとる」ことを実践しているDZHフィナンシャルリサーチ常務執行役員の和田仁志氏に話を聞きました。プロのマーケット識者はどんなノートを取っているのか、またノートにはどういう効果があるのかについてじっくり伺いました。
NYタイムの値動きを頭にたたきこむ
PickUp編集部:- マーケットのノートを取るようになった経緯を教えてください。
和田:- FXマーケットは24時間動いています。その中でもとくに値動きのある時間帯は、ニューヨーク(NY)タイムです。NYタイムとは、アメリカの市場が開いている時間帯ですので夏時間の場合は日本の21時から翌朝の6時ごろになります。毎日早朝まで起きていられませんので、寝ている間のNYタイムにどのような値動きや出来事があったのかを起きてから整理する必要があります。そのときに、有効なのがノートを書くことだと思っています。私がディーラーをしている時代から続けているもので、もうだいぶ長い期間になりますがずっと継続しています。ノートで整理してはじめて、東京時間にディールするための準備が整うといった感じです。
PickUp編集部:- 今はマーケットの値動きなどをExcelに記録しているトレーダーの方も多いようです。和田さんが今でも手書きでノートをまとめていらっしゃる理由などはありますか?
和田:- 確かに、今は簡単にネットからレートやニュースのデータをパソコンにまとめておくこともできますが、やはりペンを握ってノートに書かないと、しっかりと覚えられないと思います。NYタイムの情報を頭の中で消化し、文字や図で書き起こすことによって、新鮮な情報を記憶に定着させることができるのです。
見開きで一覧にする
PickUp編集部:- 具体的に、どのようにノートはとっているのでしょうか。
和田:- ノートは見開き1ページを使用しています。まず左ページ、上はドル/円(USD/JPY)、下はユーロ/ドル(EUR/USD)のラインチャートを手書きでしています。他に動いた通貨があればそっちも書くこともあります。ただドル/円、ユーロ/ドルは一番メインの通貨ペアなので、基本はこの二つです。
そこにレンジを入れて、NYタイムの高値と安値、アメリカの経済指標の結果、その時々の値動きの原因など、一目で昨日あった出来事が分かるように書いています。
右ページには東京市場で起きた出来事、日経平均、NYダウ、ナスダック、S&P、現在の為替レート、昨日の高安、あとは一目均衡表の基準線、転換線などテクニカルポイントを書いています。これを書いておけば、上値と下値のサポートとレジスタンスが理解でき、相場が動いたときでも次のポイントがどこであるかがわかるようになります。
書き始めた時と今とでは全く同じノートの取り方ではないですよ。続けてきた結果、今の取り方へと変化してきました。
PickUp編集部:- なるほど。では、これだけは現在も変わらず記録しているという項目はありますか。
和田:- フィボナッチですね。ディーラー時代からずっと記録しています。なぜなら、フィボナッチは、直前のマーケットを分析するうえで重要であるからです。NYタイムの高値安値のレンジから、自分で数値を算出し記録することも変わらないですね。
※フィボナッチ…黄金比率とも呼ばれ、0.382、0.500、0.618という倍率を指す。
なぐり書きでも、自分がわかればよい
PickUp編集部:- ずっとノートを続けていらっしゃるということですが、続けるのが苦手な読者もいると思います。ノートを書き続けられるコツがあれば教えて下さい。
和田:- ディーラー時代から数十年、毎日欠かさずノートが続けられている理由をよく聞かれます。コツは「なぐり書き」にしていることと答えます。誰かに見せるノートではなく、自分が理解できれば良いだけですからね。あと通勤途中に情報をインプットし、会社についてから朝の30分前後を使いノートをまとめています。出社したらまずノート、と決めているのもよいことかと思います。
PickUp編集部:- ではFX初心者は何から始めればよいでしょうか。
和田:- まずは、小さなことから始めましょう。ノートを書くのに30分も時間をとれない方は、通勤途中に自分が決めたWEBサイトを見るだけでもいいし、自分の手帳に通貨ペアの高値安値を書くだけでもよいのです。ちなみに私は手帳にドル/円、ユーロ/円、ユーロ/ドルの高値安値を書いています。
初心者の方は目先どうしたら勝てるようになるか、ばかりを考えがちだと思うんですけど、相場って、100%勝てるためにこれしたらいい、というのはないと思うんですよ。ただ、毎日レートをメモすることにこだわって取り組めば、長い目で見ると、相場も楽しくなるだろうし、細かく見えるようになると思います。ノートを続けて悪い事はなにひとつないのではないでしょうか。マーケットを理解して流れを知ろうとすることは重要ですし、すぐには成果が現れないかもしれませんが、いずれ相場見通しを立てるときに役立つと思います。過去と現在の値動きの結びつきがより理解しやすくなるのですから、トレードの成績も良くなるのではないでしょうか。
未来の値動きがパッとひらめく
PickUp編集部:- ノートを取り続けるようになってわかったことや気付きなどありますか。
和田:- マーケットの値動きには、市場参加者の意思や心理が影響しています。例えばレートが下げ止まったとき、私は次の相場展開が瞬時にひらめいたりしますが、これにはノートを取り続けていることが関係しています。手書きでノートを毎日取ることで、以前に起きた、似たような値動きや出来事を、パッと思い出せるからです。 また、ノートを書いていれば、前週から現在のレートがどのように連動しているかがしっかりわかるようになります。これは過去の値動きが頭に入っていないとすぐにはわからないことです。トレード判断に迷う場面でも、コツコツ続けたノートが助けてくれる。まさに「備えあれば憂いなし」ではないでしょうか。
PickUp編集部:- ノートはどれくらいの期間のものを保存してありますか。
和田:- ノートを見返すなど、一番使うのは、2、3カ月以内のものなので、その分は常に手元に置いて、いつでも読めるようにしています。それより前のノートは、引き出しにしまっています。
こだわりをもつ
PickUp編集部:- ノートを取るとき和田さんがこだわっていることはありますか。
和田:- ボールペンは決まったものしか使っていないです。お気に入りのこれは、コストパフォーマンスが良く、すごく軽くて、書き味がなめらかでとても書きやすいです。本当に軽いので、なぐり書きをするには最適です。ディーラー時代からずっと使っていて、これ以外は使っていないです。ボールペンについては、これだけは譲れない、こだわりの相棒ですね。ちなみにノートは会社にそのときあるものを使っているので、ノートそのものには特にこだわりはありません。(笑)
相場を自分の生活の一部に組み込む
PickUp編集部:- 最後に読者に向けて一言お願いします。
和田:- 繰り返しになるかもしれませんが、相場に対してこだわりを持つこと。私でしたら、あえてチャートを手書きすることがそうです。相場分析について、何かひとつでも続けられることを見つけてみてはいかがでしょうか。無理に取り組む必要はありません。ご自身で出来る範囲で取り組めることを継続し、相場を自分の生活の一部に組み込むのです。それこそが、相場を長く続けられる秘訣だと思います。
PickUp編集部:- 本日はありがとうございました。
PickUp編集部
あえて「なぐり書き」されているという和田さんのノートですが、過去の値動きとの連動性や相場の見通しなど、後に一目で振り返ることができるように今の形になったようです。そして、小さなことでも継続することが大事だと仰られていました。これは、為替相場以外にも通ずることではないでしょうか。
和田仁志 氏
1968年長野県生まれ。立命館大学卒業後、米シティバンク・英スタンダードチャータード銀行で十数年間に渡りインターバンクディーラーとして一線で活躍。その後は、証券会社などで外国為替証拠金業務を立ち上げるなど、当業界にも精通している。2006年8月からはニューヨークからホットな金融情報を提供する。グローバルインフォ代表取締役社長を経て、2017年8月よりDZHフィナンシャルリサーチ常務執行役員に就任。
1968年長野県生まれ。立命館大学卒業後、米シティバンク・英スタンダードチャータード銀行で十数年間に渡りインターバンクディーラーとして一線で活躍。その後は、証券会社などで外国為替証拠金業務を立ち上げるなど、当業界にも精通している。2006年8月からはニューヨークからホットな金融情報を提供する。グローバルインフォ代表取締役社長を経て、2017年8月よりDZHフィナンシャルリサーチ常務執行役員に就任。