先週のドル・円相場はFOMC.議事録の発表や米国・ワイオミング州・ジャクソンホールで1年に一度開催される金融シンポジュームでのパウエルFRB.議長の発言待ちと言うことで極めて静かに推移し、木曜日までは高値106.69、安値106.17の狭いレンジ内での取引に終始した。
パウエル議長は約10年半ぶりに行った利下げ後の経済環境の変化、例えばトランプ大統領が突然発表した対中関税第4弾発動による米中貿易摩擦増加、英国の欧州連合(EU.)離脱問題、香港デモ、イタリア政局などについて言及し、また株安や長期金利の急低下にも触れたうえで、“色々な事が起きたが米経済は足元で好調を保っており、成長持続へ適切な行動を取る。”と述べて次回9月の連邦公開市場委員会(FOMC.)での追加利下げを示唆した。
ただ市場の反応は限定的で株式、債券、為替市場で大きな動意は見られなかった。
そして金曜日に激震が走った。
中国商務省は米国が9月から発動する予定の対中制裁関税第4弾への報復措置として原油や農産物など約750億ドル分(約8兆円)の米国製品に5~10%の追加関税をかけると発表するとトランプ米大統領は直ちに対抗措置を取る考えを表明し、“米企業に対し中国の
代替先を直ちに模索するよう命じる。事業を米国に戻し、米国内で生産することも含まれ
る。われわれに中国は必要ない。率直に言えば、中国がいない方が状況はましだろう。”と挑発した。
そして米通商代表部(USTR)は第1~3弾の税率を25%から30%、第4弾の税率を当初予定の10%から15%にそれぞれ引き上げると即日発表し、正に米中報復合戦が始まった。
此れを受けて金融市場は大荒れとなり、 金曜日の終値ベースでダウ工業平均株価は623ドル、ナスダックは約240ポイント、S&P.も約76ポイントの大下げとなり、長期金利も軒並み下げてドル・円相場も安値105.26を見た後105.39でクローズした。
週明けの東京市場でもこの流れが続き、日経平均株価は一時500円以上の下げを演じ、ドル・円も104.79と言う窓を開けた状態でオープンし、一時安値104.44を示現した。
此れはいみじくも1月3日のフラッシュ・クラッシュの時の今年最安値と一致する。
1月3日のフラッシュ・クラッシュの後は直ぐに107~108円台を付けた後さらに上昇して112円台まで回復したが今回の同レベル(104.44)までの下げは全くその中身が異なる。
1月3日は市場参加者が少なく、流動性の低い正月中に起きて直ぐに戻したが今回の下げの理由は米中報復合戦の煽りを受けた大きなリスク・オフの流れに沿ったものであり、根は深い。
そもそもなぜ中国は突然、そして唐突に報復措置を取ったのであろうか?
以下は塾長の個人的な推測である。
毎年の夏、中国高級避暑地である北戴河と言う所で約3週間、中国共産党歴代の総書記や、中国共産党中央政治局常務委員などが集まり、国の重要政策や人事について話し合う所謂北戴河会議が開催される。
今年は7月下旬から8月14~15日くらいまで開催されたが出席者名、議題は全て非公表である。
漏れ聞くところによると、今年の会議では混乱が続く香港情勢やトランプ米政権との貿易交渉を巡る対処方針を重点的に話し合ったとみられる。
そして会議の中で習近平が相当その弱腰方針について責められ、結果として香港との国境に近い深圳に大規模な軍事警察を出動させ、デモ鎮圧の訓練を大々的に行うこととなった。
そして米国に対しては報復措置を行った。
習近平は共産党長老や幹部からの叱責に対して“抜き差しならぬ状態”となり、ついに強権発動となったのではなかろうか?
もしこの推測が正しければ米中問題は直ぐに解決する訳も無く、また香港情勢は悪化の一途をたどるのではなかろうか?
折しもデモの群衆に対して香港警察(本土からの警察も含まれると言うが。)が威嚇発砲したと言うニュースが流れた。
こちらも報復合戦となり万が一第二の天安門事件となれば世界経済は益々混沌となる。
今日の東京市場では俄かショートのカバーで一時105.79まで戻したが午後2時過ぎ現在、再び105.20近辺まで下落している。
明らかに1月3日のクラッシュと違った様相を見せている。
毎週毎週同じ戦略で恐縮であるが“戻り売り”は依然として有効である。
ところで3週間前に円のショート(ドルのロング)からドテンして円のロング(ドルのショート)に転じたシカゴ・IMM.であるが先週も円のロングを6400枚(約8億ドル相当)増やして、ネットの円のロング(ドルのショート)残高を31,154枚(約37億ドル相当)とした。
順張り(トレンドを追って下がれば売り、上がれば買う。)戦略の得意なシカゴ・IMM.が年初以来の安値を付けているドル・円を此処で買い戻すか、或いは売り増すか?
興味の有るところである。