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ドル円160円台定着か?元日銀審議委員・安達誠司氏が明かす金融政策と財政リスクの裏側|ドル円見通し

「なぜ円安は止まらないのか?」「ドル円はこれからどこへ向かうのか?」——多くの投資家や生活者が抱えるこの疑問に、元日銀審議委員・安達誠司氏が本音で答えます。本記事では、日銀の金融政策決定の内側から、ドル円の見通し、利上げの最終到達点、財政政策との関係まで、審議委員として政策立案に携わった安達氏の見解をもとに詳しく解説します。円安の根本原因は「日本の財政への不信」にあるという同氏の分析は、ドル円相場を読む上で欠かせない視点です。

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政策決定会合の内側——委員はどう議論しているか?

安達氏によれば、事前に意見をすり合わせる場こそないものの、勉強会や研究会を通じて委員同士の考え方は自然と共有されていくといいます。

黒田前総裁の時代は「強いリーダーシップのもと、反対意見が言いにくい雰囲気があった」と安達氏は振り返ります。一方、植田総裁はコンセンサス重視型で、委員が意見を出し合いながら最適解を探すスタイルに転換したと評価しています。

デフレ脱却は「8割完了」——残る課題は成長率

安達氏はデフレ脱却について「おおむね完了、ただし8割ほど」という独自の見立てを示します。春闘で前年比5%程度の賃上げが続く一方、サービス価格への波及がまだ不十分と見るためです。

より深刻な問題として指摘するのは潜在成長率の低下です。「デフレが終われば成長率も上がると期待していたが、むしろ下がっている」と語り、人口減少と労働力不足が構造的な制約になっていると分析します。省力化投資やAI・ロボット活用に加え、働きたい人が働けるよう「働き方改革」の制度調整も必要と指摘しました。

政策金利の到達点は1.25%——「デフレへの回帰」を避ける

金融政策の正常化について、安達氏は全議案に賛成してきたとしつつ、利上げ判断の最優先事項を「景気を冷やさず、再びデフレにしないこと」と明確に語ります。

インフレ目標の2%到達を待ってから急いで利上げすれば、かえって急激な引き締めになりかねません。だからこそ「2%到達前から、景気を冷やさない程度にゆっくり上げていく」というアプローチが答えだといいます。政策金利の最終到達点は1.25%を目安とし、現在の0.75〜1%からもう一段という水準感です。

国債買い入れ縮小と日銀当座預金の付利についての論点

現在、日銀は国債発行残高の5割弱を保有しており、安達氏は「随分買いすぎた」と率直に語ります。ただし急激な縮小は長期金利の急騰を招くため、「淡々とゆっくり減らす」方針が正しいと評価します。

利上げ局面で問題視される日銀当座預金への付利(銀行への利払い)については「補助金では」との批判に対し、こう反論します。「付利なしで国債残高を維持したまま政策金利を上げることは構造上できない。急激に国債を売れば長期金利が急騰し景気が壊れる。仕方のない仕組みだ」と述べました。

最近は財政懸念から長期金利がすでに先行して上昇しており、日銀は国債残高を「減らしても増やしても金利が上がる」という難しい状況に置かれていると指摘します。

フィスカル・ドミナンスは「現時点では起きていない」

財政が金融政策を支配する「フィスカル・ドミナンス」の懸念について、安達氏は「現時点では起きていない」と分析します。利上げは着実に進んでおり、高市政権の本格的な財政政策はまだ実行段階に入っていないためです。

ただし「利上げしてほしくないというニュアンスは十分感じられる」とも語り、本格的な財政拡張が始まった際の影響は「極めて不透明」と警戒感を示しています。

高市政権の経済政策——「デフレでない時期にデフレ対策をしている」

安達氏は高市政権の経済政策をやや厳しく評価します。「デフレではない局面に、デフレ時にすべき政策を当てはめている」というのが核心的な問題意識です。

インフラ整備や防衛への投資は必要としつつ、物価高対策への財政支出が市場の財政不安を先取りして長期金利を押し上げていると分析します。また高圧経済政策についても「今の日本は雇用不足が深刻で、資金を大量投入しても労働力の制約から効果は限定的」と疑問を呈しています。

成長投資のあり方としては「分野を特定せず、研究開発へ広く薄く資金を配分する」ことを提唱。「問題を列挙して一気に解決しようとする余裕はもはやない。工程表を作り、優先順位をつけて一つずつクリアする長期計画が必要だ」と語りました。

なぜ円安は止まらないのか

安達氏は現在の円安の主因を「日本の財政への懸念」と指摘します。「実質実効為替レートで最弱通貨」という議論には懐疑的で、「過去に円安だった時期が必ずしも日本経済にとって悪い時代ではなかった」と指摘します。

製造業の生産拠点が国際分散している現在、円安メリットは以前ほど大きくなく、エネルギー輸入コストの増加という問題はエネルギー政策で対処できるという見立てです。

政府・日銀による円買い介入の効果は限定的と評価し、「投機的な動きへの一時的な牽制に過ぎない」と語ります。また日米財務当局の協議を踏まえ「米国債売却を伴う介入はアメリカが嫌がる可能性がある」とも示唆しました。

円安を止める根本策は財政政策の明確化であり、「物価高対策と成長投資を切り分け、財政規律を言葉でなく行動で示すことが必要」と提言します。

今後のドル円見通し——方向感を決めつけないことが重要

安達氏はドル円の具体的な水準予測には慎重な姿勢を示しつつ、「円高になりにくい環境が続いている」と語ります。もし円高に転じるとすれば、アメリカの株価が崩れるタイミングだといいます。

「160〜163円台から一気に150円前半に戻る可能性も十分あり得る。方向感を決めつけない方が冷静に状況を分析できる」と述べ、相場の急変リスクにも言及しました。

円安の構造的な要因である財政不安が解消されない限り、ドル円の上値圧力は続くという見立てです。ドル円の行方は日本の財政運営次第という結論を示しました。

日本経済の楽観と懸念——強い産業と広がる格差

楽観できる点として、半導体製造装置や素材分野など競争力を持つ産業が、長年のデフレ環境を生き抜いて強化されてきた事実を挙げます。

一方、最大の懸念は経済全体としての生産能力の縮小と格差の拡大です。企業が「選択と集中」で強みを磨く一方、国内産業基盤は人口減少とともに縮小を続けています。「みんながハッピーになる世界を政治は目指すべきだが、現実のハードルは高くなっている」と語りました。

投資家が日銀を読むための実践的な視点

安達氏は個人投資家に向け、総裁会見の「切り取り報道」に注意するよう促します。「1時間半の記者会見をできれば自分で聞いてほしい。ヘッドラインにはストーリーありきで発信されている部分もある」と指摘します。

政策委員の意見のばらつきが分かる「主な意見」の公表資料を読むことで、審議の温度感をある程度把握できるとアドバイスしました。

 

 

安達誠司(あだち・せいじ)
東京大学経済学部卒業。一橋大学大学院修士課程修了。 大和総研、富士投信投資顧問、クレディ・スイスファーストボストン証券会社、ドイツ証券等を経て、2020年日銀政策委員会審議委員に就任。2025年3月任期満了により退任。 著書に『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社、2004年日経・経済図書文化賞受賞)、『脱デフレの歴史分析―「政策レジーム」転換でたどる近代日本』(藤原書店、2006年河上肇賞受賞)、『恐慌脱出―危機克服は歴史に学べ』(東洋経済新報社、09年政策分析ネットワーク賞受賞)ほか多数。
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